自動車業界は、快適な運転体験を創出することに注力していますが、そのために燃費や製造コストを犠牲にするわけにはいきません。新しいオーディオ技術を組み込むことでユーザー体験を拡大し、安全を確保するために、OEMはオーディオ・システムのアーキテクチャの刷新に取り組んでいます。
マイク、アンプ、スピーカーに加えて高度なデジタル信号処理を使用する手法は、背景雑音の低減、クリアな車内会話、緊急通話および高忠実度ハンズフリー通話の実現に有効です。車載オーディオ設計を変える、オーディオに関する4つのトレンドを紹介します。
トレンドNo. 1:アクティブ・ノイズ・キャンセリング・システム
家電業界ではすでに一般的ですが、アクティブ・ノイズ・キャンセリングを採用するOEMが増えています。パッシブな遮音や特殊なタイヤといった従来のノイズ・キャンセリング技術では、車体重量が増し、燃費が悪くなります。アクティブ・ノイズ・キャンセリング方式は、パッシブ遮音方式と同じ効果が得られながら車体重量は軽く、燃費に影響しません。
アクティブ・ノイズ・キャンセリング・システムは、図1のように2~6個のマイクを車内の要所要所に配置することで機能します。これらのマイクが車内の雑音を測定して、音声データをオーディオ・サブシステムに送ると、それを打ち消すオーディオ信号をサブシステムが内蔵スピーカーに出力します。オーディオ再生アプリケーションに使われるスピーカーを流用するので、比較的低コストでアクティブ・ノイズ・キャンセリング・システムを追加できます。
図1:マイクとスピーカーを使って車内の雑音を抑えるアクティブ・ノイズ・キャンセリング・システム
エントリー・モデル車のアクティブ・ノイズ・キャンセリング・システムが使用するマイクは2~4個ですが、高級モデル車では8個ものマイクを使用します。
トレンドNo. 2:車室内会話システム
車室内会話システムは、車両内会話システムや車内会話システムとも呼ばれますが、その名の通り、車室の中の人同士で明瞭に会話が行えるようにすることです。車室内会話システムは、車内の要所要所に配置した2~8個のマイクがそれぞれの人の音声を拾って、状況により会話音声を増強し、不要な雑音を抑えてから、車のオーディオ・スピーカー・システムで音声を再生します。
図2: 車室内会話システム
マイクを使用した最新の車載アプリケーションの課題に対応するために
プログラム可能なマイク・バイアスを内蔵、昇圧機能、入力診断機能を搭載した、TIの新しい車載対応オーディオADC『PCM6260-Q1』の詳細をご覧ください。 |
トレンドNo. 3:緊急通報(eCall)システムとハンズフリー通話システム
緊急通話(eCall)システムは通常、緊急事態が発生した場合に、車とその地域の緊急サービス・センターとの間で直接通話するためのマイクを1個か2個備えます。接続モジュールがマイク信号をデジタルに変換し、緊急センターのオペレータに送信します。緊急センターのオペレータからの音声は、車内にある専用のスピーカーから再生されます。
eCallシステムと同様に、ハンズフリー通話システムにも1~8個のマイクまたは1組のビームフォーミング・マイク・アレイがあり、明瞭な音声通話と音声コマンドを可能にします。
図3:緊急通話(eCall)システムの仕組み
トレンドNo. 4:中央オーディオ・ハブ
今後の装備を見据えて、多くのOEMが中央オーディオ・ハブを検討しています(図2参照)。アクティブ・ノイズ・キャンセリング、車室内会話システム、eCallおよびハンズフリー・マイク入力をオーディオ・ハブが集約し、これらのオーディオ信号をデジタルに変換して、その後の処理のためにそれぞれのオーディオ・サブシステムにデジタル信号を送信します。
図4:中央オーディオ・ハブ・モジュール
アクティブ・ノイズ・キャンセリング、車室内会話、ハンズフリーのビームフォーミングの普及に伴い、中央オーディオ・ハブを用いることで必要なマイク配線の量が減少し、実装が簡素化され、マイクのケーブルにかかるコストが削減されます。
OEMやティア1メーカーの短期的・長期的ビジョンに対応するために、テキサス・インスツルメンツは、マルチチャネル・オーディオADCファミリの『PCM6260-Q1』を開発しました。表1に、このファミリのさまざまなデバイスを示します。
デバイス |
入力数 |
昇圧コンバータ |
マイク・バイアス |
マイク診断機能 |
アナログ4入力 |
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✓ |
✓ |
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アナログ6入力 |
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✓ |
✓ |
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アナログ4入力 |
x |
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アナログ6入力 |
x |
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表1:『PCM6260-Q1』デバイス・ファミリ
これらのデバイスは、アナログ/デジタル・マイクとライン入力をサポートし、プログラム可能な高電圧マイク・バイアスと入力障害診断機能を内蔵しています。リニア位相フィルタや低レイテンシ・フィルタ、チャネルごとの複数の2次無限インパルス応答フィルタ、ハイパス・フィルタによる、柔軟なデジタル・フィルタリング方式を備えます。『PCM6260-Q1』ファミリは、柔軟なデータ出力と制御インターフェイスをサポートするので、複数のデバイスが同じ出力データを使用したりインターフェイス・バスを制御したりすることができます。これらのデバイスには、汎用入出力、精密な位相およびゲイン較正手法、デジタル混合器および加算器があり、システム性能を最適化します。
オーディオに関するこれらの新技術を車に取り入れると、アーキテクチャの大幅な変更が必要にはなりますが、運転体験や車内での会話体験がより豊かになることが期待できます。
参考情報:
+関連記事(英語):“automotive active noise cancellation techniques”
+アプリケーション・レポート(英語):
“Scalable Automotive Audio Solutions Using the PCM6xx0-Q1 Family of Products”
“PCM6xx0-Q1 Use-Case Scenarios in Automotive Audio Applications”
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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年7月13日)より翻訳転載されました。
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