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デジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)を空間的な光変調器として使うことで従来の分光法アーキテクチャの欠点を解消 

マイク・ウォーカー (Mike Walker) Texas Instruments
ハッキ・レファイ  (Hakki Refai) Optecks

近赤外線(NIR)分光法において、携帯のしやすさと、研究室用の高性能の精度や機能をあわせ持つシステムは、大幅に強化されたリアルタイム分析機能を提供します。電池動作で小型のハンドヘルド分光計によって、産業用プロセスのモニタリングや食品の熟成の評価を、フィールドで、より効率的に行うことができるようになります。

研究室やフィールドで、化学組成の査定で活用される分光計

ほとんどの分散IR分光計は、同様の道筋で進化してきました。計測する光は、測定の分解能を制御するための格子と組み合わされた、小さなスリットを通過します。この回折格子は、複数の特定の波長の光を、それぞれ一定の角度に反射するよう設計されています。この異なる波長の空間的な分離によって、それぞれの波長の光強度を計測するシステムを実現しています。

従来の分光計用のアーキテクチャでは、分散光計測の主な手法が異なり、一般的な方法としては (1) 単一エレメント(または単一ポイント)の検出器に物理的な分散光のスキャンを組み合わせたものと、(2) 検出器アレイで分散光のイメージングを行うものがありました。

MEMS技術を使う手法

Micro-Electro-Mechanical Systems(MEMS)アレイ光学技術をベースとし、単一ポイントの検出器を使う新しい手法は、従来の分光手法の制限の多くを解決できます。ソリッド・ステートの光学MEMSアレイは、従来の単一ポイント検出器とモーター駆動方式の格子を、簡素な空間波長フィルタに置き換えます。この手法は、モーター駆動の精密制御の問題を解消すると同時に、単一ポイント検出器の数々の性能の利点を活用できます。近年、格子スキャンなしで、MEMSデバイスが特定の波長をフィルタし、単一ポイント検出器に導くことで、格子スキャンが不要なシステムが構成されています。この手法は、高性能を発揮すると同時に、よりコンパクト、かつ堅牢な分光計を可能にします。

医薬品の分析のために活用される分光計

光学MEMSアレイは、リニア・アレイ検出器と比較して、数種類の利点を提供します。まず、より大型の単一エレメント検出器を使って集光機能を向上することで、特に赤外領域向けの分光計ではシステム・コストと複雑さを大幅に低減できます。また、アレイ検出器が不要なことから、ピクセル間のノイズが無くなり、信号-雑音比(SNR)性能が大幅に向上します。SNRの向上によって、より高精度の計測が、より短時間で可能になります。

MEMS技術を搭載した分光システムでは、回折格子と集束エレメントは従来通りの働きをしますが、集束エレメントからの光はMEMSアレイ上に像を結びます。解析する波長を選択するには、特定の帯域の分光特性のミラーで光を反射させ、単一ポイント検出エレメントに光を直接入力することで、集光と計測を行います。

使用時間や周囲温度に対して高い信頼性と予測可能なフィルタ性能を提供できるMEMSデバイスによって、数々の利点を活用可能になります。 

分光計のシステム・アーキテクチャ内でDLP® チップやDMDを空間的な光変調器として使うことで、いくつかの問題を解決できます。まず、幅広い波長で高い反射率のアルミニウム製デジタル・ミラー・アレイが、単一ポイント検出器への光をオン/オフします。次に、デジタル・ミラーのオン/オフは、機械的なヒンジと相補型酸化金属皮膜半導体(CMOS)スタティック・ランダム・ア クセス・メモリ(SRAM)セルによるラッチ回路によって、定電圧によるミラーの制御を行います。この定電圧制御によって、機械的なスキャンやアナログの制御ループが不要になり、較正の簡素化が可能になります。さらに、分光計の設計において、温度変化、時間経過による劣化や振動などの誤差要因に対する耐久性の向上も可能になります。

DLP 技術を搭載した分光計の動作の様子

DMDはプログラマブルであることから、数多くの利点を提供します。その一つは、複数のミラー列をフィルタとして指定するアーキテクチャを設計できることです。通常、DMDの分解能は計測したいスペクトラムよりも高いことから、DMDアレイを分割して一部だけを使用でき、そのスペクトラムをオーバーサンプリングできます。このことで、波長の選択を完全にプログラムできるとともに、光エンジンに補正不可能な機械的な変化が発生した場合、予備のマイクロミラーを再較正し、代替のミラー列として使用できます。

またDMDは二次元のプログラマブル・アレイであることから、高度な柔軟性を提供します。分解能とスループットは、ミラー列の本数を選択することによって調整できます。スキャン時間を動的に変更できることから、目的とする波長をそれ以外よりも長く吟味し、より詳細に測定でき、機器の稼動時間や機能を有効に使用できます。さらに、アダマール・パターンの適用をはじめとした進歩したアパーチャ・エンコーディング手法は、固定フィルタの実装と比較して、高度な柔軟性と性能の向上が可能です(注1)。

まとめとして、DMDデバイスを搭載した分光計は、現行の分光システムよりも高い分解能、柔軟性、堅牢性、より小型のフォームファクタと低コストが可能であり、より広範囲の商用や産業用のアプリケーションに利点を提供します。

単一検出器のアーキテクチャがノイズを抑制

現在のリニア・アレイをベースとした分光計は、主に二つの理由で性能が制限されます。その一つは検出器の波長選択がピクセル・アパーチャによって制約を受けるということです。検出器のサイズによって、収集される光量が決まり、SNRが制限を受けます。代表的なインジウム-ガリウム-ヒ素(InGaAs)の256ピクセルのリニア・アレイのサイズは50μm × 500μmです。一方、DMDアレイは完全にプログラマブルのマトリクスを提供することから、アプリケーションに対応して列の本数とスキャン手法を設定できます。このことで、通常、DMDとともに使用される、より大きな1mmや2mmの単一ポイント検出器に、より高い強度の信号を入力できます。通常、50μmのピクセル幅を持つリニア・アレイに、フィルタを通した狭い帯域の光を入力することで、クロストークの問題も発生します。読み取り時には、ピクセル間の干渉が大きなノイズ源となることがあります。単一検出器のアーキテクチャでは、このようなピクセル間の干渉はありません。また、デジタル・マイクロミラーの1 kHz~4 kHzの高速スキャンの利点を活用することで、単一ポイント検出器でも、並行マルチポイント・サンプリングと同様の滞留時間が可能です。これらによって、MEMS(DMD)をベースとしたコンパクトな分光エンジンでは、10,000:1を超えるSNRが得られています。 

モバイル分光計の心臓部となる小型、高分解能の2D MEMSアレイ

最大限の性能を可能にするため、光を検出器へ反射するために使用するMEMSの総面積を検討し、利用可能な単一ポイント検出器のアパーチャ・サイズと合致させることが必要です。

5.4μmのマイクロミラー、400,000 ピクセルを利用可能で、700nm~2500nmの波長に最適化されたDMDデバイスが供給されています。このDLP 2010NIR DMD は、TRPと呼ばれる新しいピクセル・アーキテクチャを搭載しています。このピクセルは図1に示すように17度の傾斜角度を提供します。DLP 2010NIRは、独自の光学アーキテクチャを提供する分光計用途向け評価モジュールに実装されています。17度のオン/オフ角度を活用した光学経路は、迷光を最小限としたコンパクトな光エンジンで高性能のセンシング・ソリューションを可能にします。

図 1: 17度の傾斜角を持つマイクロミラー構造

分光計用途向けの独自の光エンジンの様子を、図2に示します。このシステムは、光経路全体に渡って信号を最適化します。サンプルからの反射光はDMD上に結像され、各波長の空間的な制御を可能にしています。この評価モジュールは高効率のMEMSを分光計用の高速2Dフィルタとして使用し、設計上の利点を提供する目的で供給されました。このモジュールは研究室の外の、計測が必要なフィールドや対象の場所まで携行可能で、直接の分光計測を可能にする、コンパクト、堅牢、かつ高い適合性のシステムです。同一デバイスで透過用と反射用の計測ヘッドを交換でき、従来の分光計よりも高い性能を可能にします。 

図2: DMDと単一ポイント検出器を使った分光計用の光エンジン

DLP 2010NIRチップを活用する分光計の光エンジン向けに、それぞれ、やや異なる動作を提供する数種類の発光モジュールも用意されています。透過モジュールでは、光源、キュベットホルダ、精密キュベットや追加のマウント用ハードウェアを使い、透過サンプルの吸収と散乱の特性を計測します。NIRによる透過計測は、水分やジュース中に存在する気体成分などの液体サンプルに対して使用可能です。測定データから、ジュースの原産地などに関する多様な情報が得られます。固体サンプルについては、NIR の透過モジュールでプラスチック円筒の不透明度を計測可能です。これは気体や液体の供給ライン内の流れを測定するための重要なパラメータです。インラインの透過計測は、バターの製造時の水分の含有量も計測できることから、バターの製造プロセスを適時に調整し、時間の節約、コストの削減や、最終製品の品質向上に役立ちます。 

一方、反射モジュールは、分光計の窓に直接接触しないサンプルの計測に使用します。例えば、プラスチックで包装した後に食肉の品質をモニタするなど、数cmの距離からスキャンできる柔軟性を提供します。NIRは皮膚からの拡散反射を使った血糖値の予測などの健康向け用途にも使用できます。 

最後に、光ファイバ結合のモジュールでは、1本の光ファイバ経由で透過と反射の両方の計測を行うことができます。このことで、産業用プロセスのモニタ、容器間をつなぐ配管内の液体の水分の計測、鶏肉、牛肉や豚肉の脂肪やタンパク質の含有量の計測など、分光計とサンプルとの直接接触が実際的でない場合や不可能である場合にも計測が可能です。これらのモジュールは、分光計の適用範囲を大幅に拡大するほか、強化された計測性能を提供します。Optecks社は、これらのサンプリング手法を可能にする発光モジュール・ソリューションを供給しています。

これまで述べてきたように、DMDを搭載した分光機器は、解析能力を拡張し、複数の物質の解析や、��スト・計測の能力を拡大します。これらの機器は、より高精度の性能、より高い分解能、柔軟性、堅牢性を備えた、より小型のフォームファクタの光センシング・ソリューションを提供します。さらに、DMDを搭載した分光計は、従来の分光計システムでは実現できなかった、高い信頼性の測定機能を提供できます。ユーザーの目的が農場の作物に必要な水量の見積方法でも、食物の損傷の予測でも、分光計は一貫して、高精度のリアルタイム解析のための強力な手法を提供します。

 

参考情報

1 Pruett, E., “Latest developments in Texas Instruments DLP® Near infrared spectrometers enable the next generation of embedded compact, portable systems” SPIE 9482-13 April 2015

※DLPはTexas Instrumentsの登録商標です。その他すべての商標はそれぞれの所有者に帰属します。

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