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温度、水道、ガスのスマート・メーターは、システムの電力管理に厳しい要件が設けられており、電力系統への接続がないため充電のできない一次電池が電源です。このようなメーターは世界中で何億個も設置されていますが、電池交換のための現地保守作業の回数は、極限まで減らす必要があります。そのため、これらのメーターは通常20年もの間、電池交換なしで稼働します。20年間稼働させるためには、静止電流(IQ)を非常に低く抑える電力管理が極めて重要です。

超低IQの電源を使用して、高いバッテリ電圧を、常時オンになっているシステムのマイコンに必要な電圧まで下げます。図1は、スマート・メーター、およびビル・オートメーションやパーソナル・エレクトロニクスなどの超低電力システムに使われる、各種のバッテリ構成の一部です。未使用時の消費電流をカットするため、通信機能のような負荷は、負荷スイッチまたは低ドロップアウト・リニア・レギュレータ(LDO)により無効にされます。

1:超低IQ電力管理によるスマート・メーターの標準的なシステム・ブロック図

マイコンの内部がスリープ・モードまたはスタンバイ・モードのときは、マイコンの消費電流は1µAか、それよりずっと低くなります。電源は、このような極度な軽負荷時に効率を高め、余分なバッテリ・エネルギーを消費しないために、超低IQであることが求められます*1。超低IQスイッチング降圧コンバータ(DC/DC)と超低電力LDOのどちらを選択するかで、効率やコスト、部品点数、使いやすさなど、いくつかの設計上のトレードオフがあります。

効率

超低静止電力LDOのIQはDC/DCより低いため、これまで超低電力システムには超低IQのLDOが使われてきました。例えば、TIのLDO『TPS7A02』のIQは25nAですが、TIのDC/DC『TPS62840』のIQは60nAです。しかし、LDOとDC/DCのいずれもIQ値がかなり低い場合には、IQだけが超低IQの電源を選ぶ決め手にはならなくなります。課題は、それに対応するバッテリ電流の消費です。マイコンの消費電流によっては、IQだけでは全貌がつかめません。

25nAや60nAといったIQ値は、それぞれのデバイスにより消費される無負荷入力電流を指します。その名前が示すように、無負荷入力電流は、システムが無負荷の状態の場合にのみ該当しますが、マイコンが常時オンの場合は厳密にこの値になることはありません。スリープ・モードやスタンバイ・モードのと��でも、マイコンはリーク電流を消費します。このリーク電流が電源に対する負荷として働き、指定されたIQ値を上回るバッテリ電流の増加につながります。

図2に、IQ=60nAのDC/DCとIQ=25nAのLDOのそれぞれについて、出力電圧が1.8Vのときの効率とバッテリ消費電流を示します。図3は、出力電圧が3.3Vのときの同じデータを示したものです。両方のグラフで、入力電源には一般的に使われる3.6Vバッテリ電圧を用いています。X軸の左端の点は、負荷電流100nAです。

 

21.8VOUTでの超低IQ DC/DCおよびLDOの効率とバッテリ消費電流

 

33.3VOUTでの超低IQ DC/DCおよびLDOの効率とバッテリ消費電流

LDOの効率は、理論的最大値である (1.8VOUTで50%、3.3VOUTで92%)に漸近的に近づくため、かなりフラットです。IQのせいで、効率は理論的最大値よりも下がりますが、この効率低下は、負荷が最も軽いときに非常に顕著です。DC/DCの効率は、ほとんどの負荷範囲で90%を超えていますが、高負荷に達すると低下します。高負荷電流では回路の抵抗性損失が支配的になり、効率を低下させます。軽負荷時にも、IQにより効率が著しく低下します。

負荷電流の増加は、Wi-FiやGSM (Global System for Mobile Communications)、WMBus (Wireless Meter Bus)などの接続を通した送受信動作、またはモーターを回して水道メーターの給水栓を閉めるといった高電流動作に対応します。この例の超低IQ DC/DCは、高いピーク電流動作に対応するために、LDOの200mAに対して、750mAの出力電流能力があります。DC/DCはLDOに比べて高負荷時の効率が良く、その分発熱が抑えられることが、一般的にLDOよりもDC/DCの方が高い電流に対応できる主な理由です。

効率に違いがある一方で、バッテリ電流の違いも、アプリケーションへの影響(この場合、一次電池によるスマート・メーターの20年の駆動時間)をしっかりと見極める助けになります。バッテリ電流の消費量でバッテリの大きさが決まり、mAh(ミリアンペア時)で表される必要容量も決まります。出力電圧が3.3Vの場合は、バッテリ電圧と出力電圧が非常に近いので、バッテリ消費電流に大きな差はありません。しかし、それより低い1.8Vの場合は、DC/DCとLDOで、バッテリ消費電流にほぼ50%の差があります。

コストと部品点数

図4は、超低IQ DC/DCおよびLDOの電源の回路図です。両方とも非常にシンプルで、必要なパッシブ部品は数点しかありません。DC/DCには、出力電圧の設定にパワー・インダクタ1個、セラミック・コンデンサ2個、抵抗1個が必要です。LDOでは、出力電圧が集積回路(IC)内部で直接設定されるため、必要なのはセラミック・コンデンサ2個のみです。いずれも非常にシンプルな電源で、一般的な市販の部品を使用できます。

4:超低IQ DC/DCおよびLDOの回路図

DC/DCにはインダクタと抵抗が余計に必要なので、LDOに比べてソリューションにかかるコストがわずかながら増えます。さらに、LDOのICは、DC/DCのICよりもサイズが小さく動作が単純なので、一般に低コストです。『TPS7A02』のスモール・アウトライン・ノーリード(SON)パッケージの大きさは1mm×1mm、一方『TPS62840』のSONパッケージは1.5mm×2mmです。パワー・トランジスタ2個を搭載し、スイッチング動作を行う同期整流DC/DCと比較して、LDOはパワー・トランジスタが1個で、スイッチングを行わないため、動作がシンプルになります。1,000個単位��価格は、『TPS62840』が0.70ドル、『TPS7A02』が0.49ドルです。

使いやすさ

DC/DC��LDOは�����とも部品点数が少ないので、プリント基板(PCB)への作り込みが簡単です。ピンや部品がより少ないLDOは、さらに実装が単純です。スイッチング動作がまったくないので、LDOでは出力電圧リップルが発生せず、電磁干渉(EMI)もありません。出力電圧リップルとEMIは両方とも、影響を受けやすい周辺のアナログ回路に干渉する可能性があります。『TPS62840』には、DC/DCにつきもののスイッチング動作で発生する出力電圧リップルの懸念を解消する方法が3つあります。低電力なので、DC/DCのEMIはすでに低いレベルです。

1つ目の方法では、MODEピンによりDC/DCを低リップル・モードで動作させます。このモードでは、軽負荷時の効率が落ちます。比較的短期間リップルを抑える必要がある場合、例えば送受信操作中に、マイコンがこのモードを制御することができます。2つ目の方法では、STOPピンでスイッチング動作を停止させ、すべてのノイズをDC/DCから除去します。ノイズのない環境で数マイクロ秒以内の高感度測定を行う場合、マイコンがこのピンを制御します。測定後は、マイコンがSTOPピンを切り替えて、即座にDC/DCを再起動します。最後の方法では、TIのDCS-Controlトポロジを使用します。このトポロジは、シングル・パルス省電力モードでリップルを最小限に抑えます*2。超低電力システムでのノイズは、DC/DCとLDOの両方とも十分低いレベルです。

DC/DCとLDOはいずれも幅広い入力電圧範囲で動作するため、二酸化マンガン・リチウム電池(Li-MnO2)、塩化チオニル・リチウム電池(Li-SOCL2)、リチウムイオン電池(Li-ion)、アルカリ電池など、スマート・メーターやその他の超低電力システムによく使われる各種のバッテリに対応します。DC/DCは、直列構成のアルカリ4セルといった多セルの高電力システムを想定して、やや高い6.5Vの入力電圧範囲をサポートします。各種バッテリに同じDC/DCまたはLDO ICを使用することで、さまざまなシステム、さらにはさまざまな市場に同じ電源を使用できるようになります。

最後に、DC/DCとLDOのいずれにも、SON、リード付き、ウェハー・チップ・スケール(WCSP)などの各種パッケージが用意されています。パッケージごとに、サポートするアプリケーションが異なります。SONパッケージは、小型、容易な組立、良好な熱特性という長所をバランス良く備えています。リード付きパッケージは、組立やリワークが非常に簡単な一方、リード間隔が広めです。ガス・メーターなど本質的に安全性が求められるアプリケーションには、リード間隔の広さが非常に重要です。最後に、個人向け携帯電子機器のようなアプリケーションで必要となる超小型のソリューション・サイズ向けに、どちらのデバイスでもWCSPパッケージを用意しています。さまざまなパッケージが用意されているので、超低IQのDC/DCおよびLDOのどちらも、ほとんどすべてのアプリケーションに使用できます

まとめ

表1は、超低IQのDC/DCおよびLDOの効率とバッテリ電流を比較したものです。表2では、コスト、部品点数、使いやすさを比較しました。一般的な3.6Vバッテリから1.8Vの出力電圧に下げる場合、低IQ LDOに比べて超低IQ DC/DCの方が効率が良く、バッテリ消費電流が低くなります。一方、出力電圧が3.3Vの場合は、入力電圧と出力電圧の差がずっと小さいため、100nA負荷時では超低IQ LDOの消費電流の方がずっと小さく、高負荷のときはほぼ同じです。

 

1:超低IQ DC/DCおよびLDOの効率とバッテリ消費の比較

計測など、ほとんどの時間がスタンバイ状態のアプリケーションでは、一定のバッテリ駆動時間を達成する上で、一般的にスタンバイ・モード時の入力消費電流が重要な要素になります。総合的なバッテリ消費電流の計算には、高電力モード対スタンバイ・モードのシステムのデューティ・サイクルが使われます。例として、メーターの3.3V マイコンが、利用データを転送するために、1時間ごとに360ミリ秒だけ10mAを消費するとします(高電力モード)。それ以外の時間は100nAのスタンバイ・モードです。この0.01%のデューティ・サイクルから、計算で求められる平均入力電流は、DC/DCで(0.192µA * 99.99%) + (9,800µA * 0.01%) = 1.172µA、LDOで(0.125µA * 99.99%) + (10,000µA * 0.01%) = 1.125µAです。

2:超低IQDC/DCおよびLDOの価格、部品点数、使いやすさの比較

超低IQ LDOは、DC/DCより実装がシンプルで、ICの価格と必要なパッシブ部品から費用対効果の高いソリューションです。超低IQのDC/DCおよびLDOは両方とも各種のバッテリ構成に対応しますが、DC/DCは直列構成のアルカリ4セルもサポートします。パッケージの種類もいくつかあるので、ほとんどのアプリケーションに適合します。どちらのデバイスもIQが非常に低いので、スマート・メーターやその他の低電力システムで非常に長時間のバッテリ駆動を実現します。

 

出典

+アナログ・アプリケーション・ジャーナル(英語)

1.        “IQ: What it is, what it isn’t, and how to use it.”

2.        “High-efficiency, low-ripple DCS-Control offers seamless PWM/power-save transitions.”

 

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