Other Parts Discussed in Post: REF35, REF3425

最近は「ポータブルな将来」が目の前に迫っているという印象を受けます。以前は扱いが面倒でサイズが大きかった各種デバイスも、軽量化とポータブル化が進んできています。そのことを実感するのはパーソナル・エレクトロニクス分野です。初期の携帯電話は重く、通信速度も低速でしたが、現在のスマートフォンは薄型で高速であり、バッテリ動作時間も大幅に延長できています。

また、パーソナル・ヘルスケア (個人レベルの健康管理) 分野にもこの傾向が表れています。現在は、医師の所へ行かなくてもバイタルサインをチェックできます。その原動力の一部になっているのは、医療機器のソリューション・サイズの大幅な小型化と低消費電力化です。たとえば、手のひらに乗る血糖値計などです。消費電力の低減とバッテリ動作時間の延長が続く現在の傾向は、血糖値計にも共通しており、その結果、エンド・ユーザーは人体のバイタル測定に関して応答性の優れたデバイスを入手することができます。

血糖値計は非常に消費電力の小さいデバイスであり、静止電流 (Iq) を可能な限り小さい限界にまで引き下げようとしています。このデバイスは同じバッテリで少なくとも 1,000 回の測定を行う必要があり、しかも使用するバッテリは通常、軽量の 3V ボタン電池 1 個だからです。1,000 回の測定に対応できるバッテリ動作時間という要件は、(図 1 に示すように) 血糖値計が Bluetooth® や他のワイヤレス・コネクティビティを使用してコネクテッド (ネットワーク接続型) 対応を採用したときから問題となり始めました。ワイヤレス・コネクティビティ機能を追加した結果、消費電力が増加し、バッテリ動作時間が短くなるからです。複数のコイン電池 (220mAh) や、場合によっては複数の単四電池 (1,000mAh) の必要性が増しますが、これらはサイズと重量の増加を意味します。

 図 1:血糖値計のシステム図

精度向上の手がかり

システムの消費電力を小さくする場合、高精度の維持が課題になることがあります。したがって、消費電力を低減しながらも、高いシステム精度を確実に維持することが重要です。精度を向上させる 1 つの方法は、外部電圧リファレンスを使用することです。A/D コンバータ (ADC) のオーバーサンプリングなどいくつかの手法を使用することで、リファレンス電圧の要件が標準的な内部電圧リファレンスで達成できる水準を大きく上回るため、多くの場合は外部リファレンスが実用的です。高まる電圧リファレンスの要件には、内部精度の向上、温度係数の低減、ノイズの低減、従来とは異なる電圧レベルなどが含まれる場合があります。これらの要件は通常、低消費電力アプリケーションでは達成するのが困難です。ただし、『REF35』 電圧リファレンスは低電力領域でクラス最高の仕様を備えています。高精度 (0.05%) と小さい温度係数 (12ppm/C) に加え、1µA 未満のリファレンス用にノイズを 3.3 ppm pk-pk と最小限に抑えています。

低静止電流 (Iq) の電圧リファレンス

『REF35』は、TI の低消費電力かつ高精度の電圧リファレンスの 1 つです。『REF35』ファミリの重要な利点の 1 つは、標準で 650nA という小さい電源電流要件と、アクティブ状態で ADC または D/A コンバータ (DAC) に対して最大 10mA および 5mA の電流のソース (供給) またはシンク (引き込み) を行う能力です。この結果、図 2 に示すように、システムがサンプリングを実行している間も、『REF35』はシステム全体の電力に及ぼす影響が非常に小さくなります。

 図 2:全体の消費電力に対するオーバーヘッドの例 (数値はパーセント単位の推定値)

また、『REF35』ファミリは 1.024V と 5Vの間で低電圧を選択できるオプションも用意しているので、コイン電池を使用するアプリケーションで利点となります。これらの出力電圧は、フルスケール信号全体を活用するのに適した電圧リファレンスを選定できることを意味するので、設計者は ADC をフレキシブルに最大限活用できます。出力電圧を高くすると、『ADS7042』のような超低消費電力 ADC に電力を供給する柔軟性も確保できます。この製品は、AVDD を電圧リファレンスとして使用することを前提にしています。

低静止電流 (Iq) は複数の方法で実現可能

TI では低消費電力の電圧リファレンス製品を幅広いラインアップで取り揃え、『REF35』ファミリ以外にも複数の選択肢を用意しています。電力を低減する他の方法も存在します。その方法の 1 つは、デバイスが非アクティブな間、『REF3425』のイネーブル機能を使用して消費電力を制限することです。これは TI の『REF3425』の 1 つの特長です。この製品は、シャットダウン・モードで 2.5μA の静止電流 (Iq) を実現する高精度電圧リファレンスです。また、静止電流 (Iq) を低減するために、ロード・スイッチを使用してシステムの一部のセクションを電源オフにすることも可能です。この方法で、血糖値計のスタンバイ電流をさらに低減できます。図 3 に、低消費電力の電圧リファレンスとして一般的ないくつかの製品の消費電力を示します。


図 3:TI の複数の電圧リファレンスの標準静止電流 (Iq)

2.90mm x 1.5mm の『SOT23-3』電圧リファレンス

『REF35』は、ガス分析器、個人線量計 (放射線測定器)、煙探知器など、低消費電力で連続的なサンプリングを行う計器の分野でも優れた選択肢になります。これらの低消費電力アプリケーションは、1 分ごとに連続的なサンプリング (最大で数百回) を行うと同時に、小型バッテリや小型フォーム・ファクタという特長も引き続き維持しています。たとえば、放射線測定器や線量計の場合、過酷な温度条件にさらされることがありますが、『REF35』は -40℃ ~ 105℃ の温度範囲にわたって 12ppm/℃ の小さい温度ドリフトを実現しているので、広い温度範囲でも確実に高精度のリファレンスとして活用できます。加えて、図 4 に示すように、『REF35』は 2.90mm x 1.5mm の DBV パッケージという小型フォーム・ファクタで入手できます。このフォーム・ファクタをフレキシブルに活用し、受動部品を追加して付加的なノイズ・フィルタリングを実行しながら、標準的な SOT23-3 パッケージよりも小型のサイズを実現できます。

 図 4:『SOT23』 6 ピン・パッケージの『REF35』

システムの低消費電力と高精度の維持のどちらかを犠牲にする必要はありません。REF35 のような低消費電力の電圧リファレンスを追加し、ADC や DAC の精度を高めることができます。どのようなアプリケーションを設計する場合でも、TI が提供している電圧リファレンスの幅広い製品ラインアップを活用すれば、システムの精度をいっそう向上させるのに役立ちます。

参考情報:
+技術記事(英語):
データ・アクイジション・システムで消費電力を低減する方法
"自動化プロセスで精度を確保する方法"
+e-book:
電圧リファレンスを使用した設計のヒントとコツ

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※上記の記事はこちらの技術記事(2018年3月28日)より翻訳転載されました。
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