効果的な絶縁とは、2 つの回路の間で流れる DC 電流および制御されていない過渡電流を最小化すると同時に、情報伝達と電力伝送の実現を許可することです。 絶縁を実現する集積回路(IC)をアイソレータと呼びます。
一部のアプリケーションは、機能を果たす目的、つまり、システムが正常に動作するようにする目的で絶縁を使用しています。 機能的な絶縁に関する 2 つの例は、ファクトリの床で物理的に離れた場所に設置されている 2 つの 24V システムの間で、グランド電位差(Ground Potential Difference、GPD)を防止すること、また車内にある 12V 領域と 48V 領域の間で通信を実施することです。 多くのアプリケーションは、絶縁レベルが適切に定義および実装されている場合に、危険性のある電圧に接続された 1 次側回路と、人間のオペレータがアクセスすることのできる低電圧の 2 次側回路の間で絶縁リンクを形成できるようにするために、絶縁技術を使用しています。 このようなシステムの例として、医療機器、試験機器と測定機器、電動工具、電源、電気自動車の充電器、産業用モーター・ドライブ・システムなどを挙げることができます。
図 1 に示す、産業用 AC モーター・ドライブの簡略化したブロック図では、入力側のグリッド電源、整流済みの DC+ バスと DC- バス、IGBT(絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ)の端子、AC ドライブの 3 相出力はいずれも高電圧を伝送します。 モーター・ドライブを制御するモジュールは、低電圧回路で構成されており、人間のオペレータがアクセスできるインターフェイスやコネクタが取り付けられている可能性もあります。 この場合は、絶縁された IGBT ゲート・ドライバと、絶縁された電圧/電流センス回路が絶縁バリアとして機能し、人間のオペレータがアクセスする可能性のあるインターフェイスやコネクタに高電圧が印加されることを防止するのに役立ちます。 これは、アイソレータが果たす通常の機能に対する付加機能です。つまり、電気的安全性との直接の関係なしに、IGBT に制御電圧を供給し、制御モジュールを動作させる目的で電圧/電流フィードバックを制御モジュールに供給しています。
図 1: 産業用 AC モーター・ドライブの簡略化したブロック図
アプリケーションにもよりますが、人体の安全に対するリスクが関係している場合は、最終機器に関する安全性規格(IEC 61800-5-1[i] や IEC 61010-1[ii] など)により、高電圧部分と、人間に対して公開される部分の間に、基本レベルの絶縁が少なくとも 2 つ存在していること、または 2 つの基本的なアイソレータ(二重絶縁とも呼びます)が存在していることが要求されます。その結果、仮に一方のアイソレータが設計どおりの絶縁を実現することに失敗した場合でも、もう一方が同じレベルで安全な保護を実現できます。 もう 1 つのオプションは、強化絶縁を実現する単一の絶縁アプローチを使用することです。この場合は、直列接続された 2 つの基本的な絶縁システムに似た保護が実現されます。 強化絶縁は、基本的な絶縁に比べて、より厳格な要件を満たす必要があります。強化絶縁システムの損傷が発生した場合は、潜在的なリスクという結果になる可能性があるからです。
電気的安全性を強化する目的で使用するアイソレータは、個別のアプリケーションに応じて、大きさと持続時間がさまざまに異なる電圧ストレスに耐える必要があります。 もちろん、最初に挙げられるのは、アイソレータの絶縁バリアの両端にまたがって存在している連続電圧です。この電圧は、通常の動作時に継続的に存在しており、最終機器アプリケーションの想定される寿命全体にわたって印加されます。 この電圧を、動作電圧と呼びます。 次は、負荷の変動や、入力側の電源システム内での短絡によって生じる一時的な過電圧(5s ~ 60s にわたって存続)です。付加的な高電圧条件として、サージ電圧やインパルス電圧を挙げることもできます。これは、落雷や障害のような直接的または間接的な干渉源によって引き起こされることの多い過電圧を表しています。これらのストレスは、絶縁コンポーネントの絶縁特性が低下してはならない実践的な干渉の状況を表しています。このような低下が生じた場合は、機器の電気的安全性が劣化する可能性があるからです。 電圧条件に耐えることに加え、アイソレータのパッケージは高電圧ピンと低電圧ピンの間に特定の最小間隔を確保する必要があります。この間隔は、湿気や他の環境汚染物質の流入に起因する短絡のようなパッケージ劣化を最小限に抑える目的で、アイソレータの最小距離(表面漏れ)に沿って測定されます。また、空中放電のリスクを最小限に抑える目的で、空間的間隔(空間的余裕)に沿って測定されます。
外部の影響を受けるこれらのストレスに関する振幅と持続時間の要件は、対応する最終機器規格によって決まるもので、電源電圧や供給される他の高電圧につりあった値になります。 たとえば、IEC 61800-5-1 は産業用 AC モーター・ドライブに関する電気的安全性要件を制定しています。
TI は最近、ISO5851 と ISO5451 の各強化絶縁型ゲート・ドライバを発表しました。 これらのデバイスを使用すると、IEC 61800-5-1 に従う強化絶縁と基本絶縁の設計を実現できます。
絶縁について、皆様はほかにどのようなことを知りたいでしょうか。 Industrial Strength ブログをぜひご覧ください。
その他のリソース
- TI の ISO5851 と ISO5451 各ゲート・ドライバに関するデータシートをご覧ください。
- TI の Digital Isolator Design Guide(英語)を活用して次期設計を今すぐ始めましょう。
- TI の次のホワイト・ペーパーをお読みください。『High-voltage reinforced isolation: Definitions and test methodologies(英語)』。
- TI の Isolation Glossary(英語)をお読みください。
[TI が提供するあらゆる情報は、TI 使用条件の対象です]
[i] IEC 61800-5-1 Ed. 2.0. Adjustable speed electrical power drive systems, safety requirements, electrical, thermal and energy.(調整可能な速度の電力駆動システム、安全性要件、電気的、熱的、およびエネルギー。) July 2007.(2007 年 7 月)
[ii] IEC 61010-1 Ed 3.0, Safety requirements for electrical equipment for measurement, control, and laboratory use, general requirements, June 2010.(測定、制御、研究用途の電気機器に関する安全性要件、全般的な要件。2010 年 6 月)