ガソリンエンジン車とハイブリッド電気自動車(HEV)あるいは電気自動車(EV)が大きく違うところは、1つにはバッテリや電圧レベルが複数あるということです。内燃エンジンは12Vか24Vのバッテリ1つで動作し、通常は鉛蓄電池を使用します。しかし、HEVとEVは、高電圧の充電型バッテリを使用し、その電圧はHEVで48V、EVならそれよりずっと高い400Vから800Vにも及びます。
電圧レベルが複数ある場合、低電圧回路を高電圧から保護するために絶縁が必要になります。400V以上のバッテリに絶縁が必要なのは当然のように思えますが、48Vのマイルド・ハイブリッド・システムにも絶縁が必要なのでしょうか。確認してみましょう。
48V HEVでの絶縁
400Vや800Vほど高電圧ではないとしても、48Vのハイブリッド車でも絶縁が重要な考慮事項となり、その理由はノイズ耐性や障害保護を含めていくつかあります。
図1のスタータ・ジェネレータ・システムでは、Hブリッジと電界効果トランジスタ(FET)を含めて、電力段が48V側にあります。FETのスイッチング動作が過渡電圧(dv/dt)を発生させるため、48Vグランドに同相ノイズを引き起こすことがあります。絶縁がないと、このノイズは12V側と結合し、低電圧側の回路のシグナル・インテグリティ(信号品質)に影響します。図1のように48V側と12V側の間に絶縁を施すことで同相過渡耐性が上がり、シグナル・インテグリティが改善します。
図1:48V HEVのスタータ/ジェネレータ・サブシステム
図2では、48Vのバッテリ・スタックとバッテリ管理システム(BMS)のマイコンが高電圧側にあり、マイコンはCAN(Controller Area Network)プロトコルを使って電子制御ユニットと通信します。48V側に障害があると、その電圧が12V側に現れる可能性があります。低電圧側の回路部品(このケースではCANトランシーバ)は高電圧に耐えられず、破損するかもしれません。低電圧側のCANトランシーバと高電圧側のマイコンとの間に絶縁を施すことで、高電圧側に障害があっても、低電圧側は安全に保護されます。
モーター車の電気部品および電子部品が対象のVDA320(ドイツ電気技術者協会320)規格が定める異常電流試験(E48-20)では、48V/12V境界に試験電圧を印加したとき、12Vと48Vのシステム間の想定電流が1µA未満であることが求められています。絶縁を施すことで、この規格の電流要件を満たすことができます。
図2:48VのBMSブロック図
48V HEVシステムを設計していて、48V側とインターフェイス接続する絶縁デバイスを探している場合、インターフェイス規格に応じた48V側と12V側との通信手段はいくつかあります。
12V側と48V側の間にシリアル・ペリフェラル・インターフェイス(SPI)、汎用非同期レシーバ・トランスミッタ(UART)、または汎用入出力(GPIO)通信が必要な設計には、絶縁が必要なチャネル数に応じて『ISO7741-Q1』または『ISO7721-Q1』といったデジタル・アイソレータが利用できます。
信号配線の数を抑えるためにI2C通信を使用する場合は、『ISO1540-Q1』(双方向データ、双方向クロック)または『ISO1541-Q1』(双方向データ、片方向クロック)といった絶縁I2Cデバイスがその目的に合うでしょう。
12V側と48V側の間にCAN通信が存在していて、絶縁が必要になった場合は、『ISO7721-Q1』 のようなデジタル・アイソレータをCANトランシーバと直列に追加するといいでしょう。あるいは、『ISO1042-Q1』といった統合型絶縁CANデバイスを使うと、スペースの節約になります。
データ通信は、対策の一部でしかありません。それに加えて、12V側と48V側の間で電源を絶縁する必要もあります。そのためには、フライバック(Flyback)、Fly-buck、またはプッシュプル型のトポロジを使用します。局所化された電源(例えば、絶縁CANトランシーバ用の電源など)には『SN6501-Q1』、『SN6505A-Q1』、または『SN6505B-Q1』といったトランス・ドライバの使用を検討してください。これらのデバイスを外付けのトランスや、整流器、低ドロップアウト・レギュレータと一緒に使用すると、図3のようなシンプルな絶縁電源を生成できます。
図3:シンプルな出力レギュレーション絶縁電源回路
『SN6501-Q1』、『SN6505A-Q1』、『SN6505B-Q1』の主な違いは、それぞれのドライバの出力電流、エミッションを低減するスペクトラム拡散の有無、スイッチング周波数の差です。このように選択肢がいくつかあるので、エミッション規格とシステムの電源要件にぴったり合ったデバイスを選ぶことができます。
ここでは48V HEVの場合の対策について説明してきましたが、これらのデバイス・ファミリの絶縁仕様と、幅広いパッケージのバリエーションから、これらのファミリは、高電圧のバッテリを使用するEVにも同じように適しています。HEVサブシステムの絶縁部分を少し変更してEV設計に流用することも可能です。そうすることで、設計やレイアウトにかかる時間を短縮することができるでしょう。
その他のリソース
- 48V車載システムの詳細
- アプリケーション・ノート(英語):
- 技術記事(英語)「絶縁型CANシステムにおけるエミッションの低減とイミュニティの向上」
- リファレンス・デザイン:40V絶縁コンパレータ・ベースの電源リファレンス・デザイン」
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※上記の記事はこちらの技術記事(2019年11月20日)より翻訳転載されました。
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