スマート・メーターは、何十年も前に開発されたテクノロジを搭載した既存のエネルギー計量用メーターの代替となる次世代メーターです。スマート・メーターは、安全な接続ネットワークを使い、エネルギー使用量のデータを自動的にかつワイヤレスで電気、ガス、水道などのエネルギー供給各社に送信します。このことで、顧客が使用エネルギーの料金概算書を受け取ることや、検針員が顧客の家に入って検針する必要がなくなります。

スマート・メーターは、従来のIR(赤外線)やIrDA(Inftra-red Data Association)よりも進歩した通信インターフェイスを使うことから、より大容量のメモリや、より強力なマイコンが必要になります。これらの特長によって、消費電力が増加し、容量降下型電源ではなく、スイッチング・モード電源を使う必要があります。単相エネルギー・メーターは、最小で100VACから、最大500VACでの動作を求められます。三相エネルギー・メーターは、各相で、印加された最小の単相電圧(100VAC)から、最大300VACまでの動作を求められます。計量メーター自体が消費する電力は顧客に請求できないことから、SMPS(スマートメーター用電源)の設計は、効率の標準規格への準拠や、より重要なさらなる低電力の要件への適合性という、一層困難な問題が生じます。また、エネルギー供給会社も、消費電力が大きなスマート・メーターは受け入れ不可能です。

世界中のエネルギー供給各社は、エネルギー・メーター製品の改ざんによる利益損失の問題に遭遇しています。最初の電気エネルギー・メーターが現場に設置されて以来、倫理感のない人々はメーター製品を改ざんし、電気料金を払わずに電力を盗もうとしてきました。このような人々は、電源を故障させる方法を考案します。改ざんは、スマート・メーターの電源の設計で直面する最も重要な問題です。大多数の電源では、低価格、高効率のフェライト・コア・トランスを使っていますが、この種のトランスは、強力な磁界を発生する希土類元素を使った永久磁石を、メーターから数cm離れた所に置くと、影響を受けやすいという特長があります。トランスの近くに磁石が置かれると、トランスが飽和し、過負荷状態が発生し、MOSFETやBJT(バイポーラ接合トランジスタ)などで構成された電力スイッチが故障して、電源が壊れます。現在、入手可能な大多数の電源コントローラ製品は、過電流保護機能を内蔵しています。トランスが飽和すると、高速の電流コンパレータがスイッチをオフにして、電源を保護します。しかし、この方式には計測ブロックに電源が供給されず、計量動作が行われないという欠点があります。しかし、メーターに求められる第一の機能はエネルギーの計量です。改ざんの実行中にも正常な動作を保つための選択肢の一つは、トランスを磁気遮蔽材料で保護することです。しかし、フェライト・コアを使ったトランスすべてに磁気シールドが必要なことから、この選択肢は高価であるとともに、組み立て費用も上乗せされます。

その他の選択肢としては、フェライト・コアの代わりに、高いリラクタンス(磁気抵抗)の鉄粉コアを使うことが挙げられます。フェライト・コアの磁束密度が0.4 - 0.5 T(テスラ)であるのに対し、鉄粉コアは1.2 – 1.4 Tと大幅に高い磁束密度を提供します。さらに、磁気シールドを追加したフェライト・トランスよりも低価格ですが、コア損失がより大きいことから、電源効率を低下させる可能性があります。しかし、この欠点は、スマート・メーター用の電源としては特に問題とはなりません。

スマート・メーターのピーク消費電力は、使用するワイヤレス通信プロトコルによっては、1W-10W の水準にまで跳ね上がります。

Sub 1 GHz帯のピーク消費電力は、0.5W前後、ZigBeeでは1W前後、GSM(Global System for Mobile communication)では10W前後です。

通常、スマート・メーターの消費電力は、動作寿命期間のほとんどで1W未満であり、そのメーター製品の総合消費電力を決める場合、電源の低負荷、軽負荷時の効率が重要になってきます。このため、電源の設計においては、軽負荷時の変換効率を高くする必要があります。低/軽負荷時の効率を向上するためには、スイッチング・コントローラの無信号時消費電流の削減、高電圧スタートアップIC(を使った一次側コントローラの採用や、周波数変調と振幅変調の両方を内蔵したスイッチング・コントローラの使用などをはじめとした、数種類の手法があります。負荷電力の軽減に対応してスイッチング周波数と電流を低減することで、コア損失が削減され、鉄粉コアによるトランスの使用が、さらに有利になります。

単相用メーターを二相(500VAC) に誤って接続した場合や、各相に300VACが印加されている配線に三相用メーターを接続した場合に備えて、スマート・メーターは高い耐電圧が必要です。しかし高電圧への対応は、電源の複雑さ、部品点数、価格などの増加を招きます。

スマート・メーターの電源設計向けで最も簡素で低価格なトポロジは、フライバック型トポロジです。フライバック型トポロジでは、スイッチング部品は最大1000Vの高電圧に耐えることが必要です。つまり、730VDC  (300VAC *√3 *√2)  、220VDC のクランプ電圧、スナバ・ダイオードの導通遅延によって発生する50VDC のオーバーシュートの合計が1000Vに達します。15パーセントのディレーティングを考えると、スイッチング部品には1200Vの耐電圧が必要になります。700V/800V MOSFETを内蔵したスイッチング・コンバータでは、500V MOSFETをカスコード接続して、この1200Vの要件に適合します。その他の低価格の手法では、1個の1200V BJTとスイッチング・コントローラを使い、高電圧保護に対応しています。同じ耐電圧と電流定格を持つBJTの価格は、1個のMOSFETの1/3です。

したがって、スマート・メーター用電源の最適な設計として、鉄粉コアを使ったトランス、軽負荷時の効率に配慮したスイッチング・コンバータの制御方式、それに高い入力電圧に対応するカスコード接続などが挙げられます。

まずはTIの『UCC28722』をご理解していただいて、スマート・メーター用電源の設計を開始してみましょう。

参考情報
デザイン設計:超ワイド入力、デュアル出力、オフライン AC/DC バイアス電源、PSR コントロールおよび BJT スイッチ付きリファレンス・デザインデュアル出力 300mA@5V および 100mA@15V 絶縁型フライバック、AC 電源 85V ~ 440Vリファレンス・デザイン 
ホワイトペーパー:「スマート・パワーによって、より効率化する電気の使用方法

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※上記の記事はこちらのブログ記事(2016年9月6日)より翻訳転載されました。

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