アナログ設計では熱ノイズは常に寄生しますが、あらゆる手段を使っても回避する必要があります。入力フィルタ、プリント基板のレイアウトやグラウンド手法は、良い設計には重要ですが、アナログ・システムでは多少のジョンソン-ナイキスト熱ノイズや、フリッカ・ノイズは常に残留します。

熱ノイズや、その他のノイズ源よりも深刻なノイズ源となるのが量子化ノイズです。量子化は信号をアナログからデジタルに変換する際に発生します。

4 ビットのアナログ/デジタル・コンバータ でサイン波をデジタイズした結果発生する、量子化ノイズの様子を図 1 に示します。

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測定する対象に定規を当てて長さを測る場合には、定規の目盛りを読み取ります。その時、その対象の長さが 2 つの目盛りの間の場合にはどうなるでしょうか。2 つの目盛りの間の長さをどうしても測らなければならないときには、実際の長さに近い方の目盛りを選ぶことになります。実際の長さと目盛りの違いを、一番近い目盛りを元に四捨五入して丸めることは、量子化ノイズと物理的にはまったく同じです。

A/D コンバータは、入力された電圧に対してこの動作を行い、実際の電圧を有限の数のステップに近似します。A/D コンバータで使えるステップ数で、そのコンバータの分解能が決まります。

通常、高精度デルタ-シグマ型 A/D コンバータではノイズ成型特性によって、熱ノイズやフリッカ・ノイズを最小化できます。16 ビット以下のデバイスでは、熱ノイズは信号の近似による誤差よりも小さくなります。

これらの A/D コンバータは、低いデータレートではデジタル・コードの変動はありません。信号をデバイスが読み取る場合、実際に見えるのは、量子化誤差だけです。

これは多くのアプリケーションでは性能的に問題とはなりません。しかし、たとえ 16 ビットの A/D コンバータしかない場合でも、量子化ノイズを改善し、16 ビットを上回る分解能を実現できます。

その方法とは?もちろん、ノイズの追加です。

A/D コンバータの入力に、統計的にランダムなノイズ、つまりガウシアン・ノイズを加えることで LSB(最下位ビット)がちらつき始めます。これをディザリングと呼びます。このちらつきを、複数の連続した読み取り値に渡って平均化すれば、その結果は、コード変化を発生しない、より低ノイズのフロントエンドを使うよりも、さらに真値に近づきます。

これを実現する最も優れた方法は、16 ビットの A/D コンバータのサンプルレートを、LSB がちらつき始めるまで増加させることです。図 2 に、その例を示します。同じスループットを保ったままで、ノイズの増加によって平均化が可能になり、より高い精度を得ることができます。

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平均化の数値演算は簡単です。例えば、16 ビットの ADS 1118 を 8SPS(サンプル/秒)で使う場合、ほとんどのシステムで安定した結果が得られ、デジタル・コードの変動は発生しません。この場合、見える誤差は量子化ノイズだけです。しかし、このデバイスを 128 SPS で動作させた場合、各デバイスの間で変動するデジタル・コードを生成させるのに十分なノイズが発生します。

得られた 16 個のサンプルをマイコン内で平均化するには、読み取り結果の総和を取り、それを除算します。サンプルデータはすべて 2 の累乗なので、除算は総和を 4 回ローテートするだけですから簡単です。これらの余分な 4 ビットが使用可能な分解能となります。ノイズを低減できることから、同じデータレートを保ったままで、より高い分解能が得られます。

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/precisionhub/archive/2013/08/23/how-to-use-thermal-noise-to-your-advantage

 

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