モーター駆動やパワー・インバータなど、多くのアプリケーションでは電流と電圧の絶縁測定が必要になります。TIの絶縁型デルタ・シグマ変調器は、電流検出向けに最適化されていますが、電圧測定でも高い性能を提供します。
こうしたアプリケーションでは、抵抗分割器の選択時に忘れてはならない重要な点があります。
例えば、パワー・インバータへの入力電圧のモニタが必要な場合を想定してみます。インバータへの最大入力電圧が390VACでリニア入力範囲が±250mVのデルタ・シグマ変調器(TIのAMC 1304やAMC 1305など)を使用するケースを想定します。
こうした電圧センシングの実装を検討する際に最初に思い浮かぶのが、図1に示すような回路です。
図1:絶縁電圧モニタリングのための最初のラフなソリューション
図1のRaとRbで構成される抵抗分割器に関しては式1の関係が成立します。
ここで注意しなければならないのは、デルタ・シグマ変調器のリニア入力範囲を有効に利用するために、Rbでの電圧降下を0.25Vに設定していることです。
直列接続されたRa+Rbの電力損失を70mW未満に制限することが1つの設計要件となります。その際には電力損失と式1から、Ra = 4.4MΩ、Rb = 2kΩ、Rbでのピーク電圧降下= 250.59mVとなります。この電圧降下は所望のリニア入力範囲目標に近く、また、抵抗器の値は標準的なものです。
図1の回路をシミュレーションすると、設計者にとって予想外の結果が生じる可能性があります。Rb上の電圧降下(図2)は約58.4mVのオフセット電圧です。さらに、シミュレータは500mVppではなく、457.3mVppをレポートします。入力にDC成分が含まれていないことから、差分入力にはオフセット電圧が発生しないと考えるのが普通です。
図2:シミュレーションされた差分入力
計算上のデータとシミュレーション上のデータ間の不一致の理由は、デルタ・シグマ変調器のデータシートを詳細に検討すると明らかになります。大きなシャント回路を使用して測定を行う際には、AMC 1304とAMC 1305の入力構造に入力バイアス電流が存在することを考慮する必要があります。さらに、この入力バイアス電流は入力信号に依存しており、単なる入力信号オフセット以上の結果を招きます。例として、AMC 1305データシートの図54を参照してください。
図1の回路の場合、Rb値はAMC 1304とAMC 1305の差動入力インピーダンスに比べ、無視できるほど小さいとは言えません。データシートに記載された推奨に従い、電圧検出回路を改良すると、抵抗分割器の式から予想される理論値と入力差動信号のずれを、より正確に予測できるようになります。
図3に改良後の電圧検出回路を示します。以下の変更を行っています。
a) こうした抵抗器の大幅な電圧降下をベースとして、適切なクリープとクリアランス要件を満たすため、Raを2つ(R1とR2)に分割
b) 図1で見られた回路上のオフセットを解消するため、新しい抵抗器(R3’)を追加
図3の回路では、信号に依存する入力バイアス電流IIBNが、抵抗器R3’を通過する時に、デルタ・シグマ変調器のAINPとAINN端子に接続された入力抵抗でミスマッチを引き起こす前述のオフセットを補償しています。
AMC 1304とAMC 1305のデータシートで説明されているように、結果として発生する差動入力電圧(AINP – AINN)と、抵抗分割器の計算式に基づくR3の理論的電圧降下値の間には、予想されるようなズレが発生します。このズレは式2に示すようにゲイン・エラーと呼ばれます。
図4は改良後の電圧検出回路のシミュレーション結果です。式2で求めた予測値は、式3で示すように計算したシミュレ―ションの結果と当然マッチしています。
±250mVに近い入力を得るために、R3とR3’の値を上げる必要があります。例えば、R3 = R3’ = 2.38kΩに設定すると、ピーク入力電圧は250.5mVとなります。ここで注意してほしいのは、R1、R2、R3、R3’の許容誤差がほとんどのアプリケーションの精度要件よりも高くなりがちなので、システムのキャリブレーションが必要になることです。図3に示した最初の抵抗値を選ぶか、デルタ・シグマ変調器への入力電圧を最大化するために修正を行うかは、設計者の判断次第です。
その他のリソース:
- 強化絶縁デルタ・シグマ変調器AMC 1304とAMC 1305
- 絶縁電流シャント/電圧フィードバック・リファレンス・デザイン(TIDA- 00171)
- 「デルタ・シグマADCの基礎」シリーズの他のブログ(英語)
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
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