この記事では、高精度のシグナル・チェーンを設計する際の2つの一般的な課題と、それぞれの対処方法について説明します。まず、これらのシステムでよく使用されるチョッパ・アンプについて理解しておくことが重要です。

プログラマブル・ロジック・コントローラ、重量計、自動試験機器などの産業用機器向けに、より高分解能で高速なシグナル・チェーンのニーズが高まっている中、そのようなシグナル・チェーンでA/Dコンバータドライバや電圧リファレンス・バッファとして動作する高精度アンプのニーズも増大しています。

 

チョッパ・アンプとは

チョッパ・アンプはゼロドリフト・オペアンプの一種であり、構成にかかわらずアンプのオフセットを最小限に抑える内部トポロジを採用し、オフセット電圧が非常に低いことで知られています。その結果、図1に示すように、オフセット誤差(オフセット、ドリフト、同相除去比[CMRR]、電源除去比[PSRR]、開ループ電圧ゲイン[Aol])が非常に小さくなります。このトポロジのもう1つの利点は、アンプが低周波ノイズをDC誤差として感知、最小化するため、1/fノイズ(フリッカ・ノイズ)が平坦であることです。チョッパ・アンプは、高精度温度監視など、DC~数十kHzの周波数範囲にわたって高い精度を必要とするアプリケーションで優れた選択肢となります。

 1:チョッパ・アンプのアーキテクチャはオフセット誤差の低減と平坦な1/fノイズを実現

では、高精度シグナル・チェーンの課題に戻りましょう。

課題1:温度範囲全体にわたるオフセット誤差の最小化

高精度シグナル・チェーンを設計する際の最も大きな課題の1つは、ADCドライバやリファレンス・バッファで生じるオフセット誤差を最小限に抑えることです。製造時の校正によってオフセット、CMRR、PSRR、Aolの特性を改善できる一方、オフセット電圧ドリフトは校正が難しく、コストもかかります。これには、製造中にシステム温度を変化させたり、校正ループを追加したりする必要があるため、システムのサイズや部品点数が増加します。オフセット・ドリフトを校正する代わりに、チョッパ・アンプを使用すると、その本質的に低いオフセット・ドリフト特性によってこの問題を解決できます。

ただし、次世代のチョッパ・アンプには新しい問題があり、これらのデバイスがさらに良好なオフセット・ドリフトを達成するのを制限します。この問題はゼーベック効果と呼ばれ、熱電対効果の一部です。ゼーベック効果は、温度勾配に沿って電位が生じる現象であり、これは周囲温度に対して動作中に自己発熱するアンプでは自然に見られるものです。ピンからアンプのコアまでの信号パスに異なる複数の金属を使用しているデバイスでは、この勾配が大きくなります。

TIでは、この制限を認識し、さまざまな材料で広範な実験を行うことで適切な材料の組み合わせを特定したことから、『OPA2182』では、-40°C~+125°Cの温度範囲全体にわたるオフセット・ドリフトが最大でわずか12nV/°Cとなっています。図2では、『OPA2182』のオフセット・ドリフトを、非チョッパ・アンプの『OPA2140』と比較しています。

 2:『OPA2182』のオフセット・ドリフトと『OPA2140』のレーザー・トリムされた

オフセット・ドリフトの比較


課題2:信号セトリング・タイムの改善

高精度シグナル・チェーンを設計する際のもう1つの課題は、ADCの入力で信号をすばやく正確にセトリングさせる方法です。基板領域とシステム・コストの削減のためにシグナル・チェーンへの入力にマルチプレクサを使用しているシステムでは、セトリングが特に難しくなります。スイッチング入力で生じる問題は、マルチプレクサがチャネルを切り替えたときに、ADCドライバにステップ入力が生じる場合があることです。多くのアンプでは、チャネル間に保護用のアンチ・パラレル・ダイオードが接続されています。ステップ応答が生じると、入力は通常動作中のように互いにおおよそ等しい状態ではなくなり、アンチ・パラレル・ダイオードの1つが順バイアスになって、一方の入力からもう一方へと電流が流れます。この電流がマルチプレクサと信号源に流れるため、セトリング応答が遅れます。

アンプのセトリング時間を改善するため、TIでは、『OPA2182』などのデバイスにマルチプレクサ(MUX)フレンドリ入力を追加しました。この特許取得済みの構造によってアンチ・パラレル・ダイオードが不要になり、信号源とマルチプレクサにエラー電流が流れることがないため、アンプがステップ入力をより早くセトリングできるようになります。図3では、MUXフレンドリな入力のセトリング・タイムを従来の入力段と比較しています。

 3:『OPA2182』のセトリング・タイム:MUXフレンドリな入力と従来の入力段の比較


 

高精度シグナル・チェーンの設計時には多くの課題がありますが、『OPA2182』のようなチョッパ・アンプは、改善されたオフセット・ドリフト性能とMUXフレンドリな入力によって、設計の簡素化に役立ちます。

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年11月17日)より翻訳転載されました。 
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