様々な民間の人工衛星企業が大きな影響力と共に参入してきたことで、これまで主に政府資金により推進されてきた航空宇宙分野に変革が起きています。大規模通信コンステレーション、堅牢なレーダー・ネットワーク、高度な光学画像プラットフォームの開発を進めたい企業のニーズによって、対地低軌道、中軌道、赤道上空静止軌道に向けて1年に打ち上げる人工衛星の数を増やす必要性が高まっています。これを達成しようと、オペアンプやトランジスタなどの単純なディスクリート部品を基にした衛星設計から、より集積度の高い回路を優先するように、設計者の重点が変化しています。その方が設計作業や組み立て、またテストの時間を短縮できるからです。

電流センス・アンプ(CSA)は、人工衛星の電子システム全体にわたる各種のアプリケーションに幅広く対応できます。この記事では、CSAで電力レールの電流監視、ポイント・オブ・ロード検知、モータ駆動制御といった機能を実装することで、人工衛星の配電システムと電気モータの動作状態や機能性を監視する方法を説明します。

人工衛星の電流監視

人工衛星にCSAが使われる最も一般的な事例には、シングル・イベント過渡事象の検知を目的とした主電力レールの入力電流監視があります。CSAでは入力ピンに電源電圧より高い電圧を印加することができるので、同相入力ピン電圧がアンプの電源電圧の制約を受ける従来のオペアンプやその他のディスクリート・ソリューションに比べて、設計の自由度が向上します。

CSAは、ハイサイドとローサイドのどちらのセンシング設計にも使用できます。つまり、負荷の前または後にシャント抵抗が置かれたシステムを構成することが可能で、想定される負荷電流供給に過電流などの異常があるかを監視できます。表1は、ハイサイドの実装とローサイドの実装のトレードオフをまとめたものです。

 

ハイサイド

ローサイド

実装

差動入力

単一入力または差動入力

グランド外乱

なし

あり

共通電圧

電源付近

グランド付近

同相除去比の要件

高い

低い

負荷短絡検出

あり

なし

1:ハイサイド・センシングとローサイド・センシングの比較

TIのQMLクラスV航空宇宙グレードCSA、『INA901-SP』は、ハイサイドとローサイドのどちらのセンシングにも対応し、入力電圧範囲が–15V~65V、低線量率での放射線耐性保証(RHA)仕様が50krad(Si)、シングル・イベント・ラッチアップ(SEL)耐性が最大でLETEFF = 75 MeV-cm2/mg SELといった性能を備えています。『INA901-SP』を使用することで、必要なデバイス数を最小限に抑えながら、電力レールの状態を監視し、過電流事象から衛星システムを保護することができます。

ポイント・オブ・ロード(POL)検知

ポイント・オブ・ロード検知にCSAを利用することは、重要なシステム構成部品のデータを収集して、特定のシステム負荷の状態や電力消費を明確にする上で有用です。システムは、CSAから得られるデータに基づいて自己較正や負荷部品のスロットル制御などの判断を下すことができ、正常動作の範囲外でも適正な動作が保証されます。CSAは高精度、高電圧範囲であり、加えて同相範囲が電源電圧に依存しないので、ミッションクリティカルな構成部品の監視が容易になり、ミッションを順調に遂行できるようになります。

モータ駆動アプリケーション

モータ駆動アプリケーションでは、モータの動作を精密にコントロールするために、モータ駆動回路がパルス幅変調(PWM)信号を生成します。この変調信号は、各モータ位相と直列に配置された監視回路によって監視され、監視回路から制御回路にフィードバック情報が送られます。実際のアンプは理論上のアンプと違って完璧とは言えないので、PWM駆動される入力電圧の大きな同相電圧ステップをアンプが十分に除去できず、出力に影響する可能性があります。実際のアンプは無限大の同相除去特性を備えていないため、各入力電圧ステップに対応してアンプ出力に適さない変動が発生します。図1は競合製品の出力、図2は『INA240-SEP』の出力を示しています。

 1PWM入力に対する競合製品の出力

 2PWM入力に対する『INA240-SEP』の出力

これらの出力変動はかなりの大きさになることがあり、アンプの特性によっては、入力の遷移からセトリングまでにかかる時間が非常に長くなる可能性があります。『INA240-SEP』の強化されたPWM除去テクノロジを活用することで、PWM信号を使用するシステムの大きな同相過渡事象(ΔV/Δt)を高いレベルで抑制できるので、モータ駆動やソレノイドのアプリケーションに特に有効です。この機能により、過渡事象やそれに伴う出力電圧の回復リップルが抑えられ、正確に電流を測定することができます。

宇宙用強化プラスチックでパッケージされた超高精度デバイスである『INA240-SEP』は、同相電圧範囲-4V~80V、ゲイン誤差0.2%、ゲイン・ドリフト係数2.5ppm/℃、オフセット電圧±25µVといった性能を備えています。「宇宙用強化プラスチック(Space EP)」と呼ばれるTIの放射線耐性製品ポートフォリオに含まれ、放射線耐性保証(RHA)は30krad(Si)、125℃でのシングル・イベント・ラッチアップ(SEL)耐性は最大43MeV-cm2/mgで、対地低軌道アプリケーションを対象としています。

まとめ

電流センシングには、性能の最適化、信頼性の向上、システムの活動を保護するための状態監視など、システムに対して多くのメリットがあります。航空宇宙グレードのCSAにより、高い精度で結果を得られる直接測定が可能になるため、過酷な環境の中で、長期間システムが正常に機能するようになります。

参考情報:
電流センス・アンプ

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※上記の記事はこちらの技術記事(2021年2月8日)より翻訳転載されました。 
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