Other Parts Discussed in Post: HDC3020

本記事では、相対湿度(RH)センサの精度と長期的なドリフトを取り上げ、最終製品の性能と製品寿命にこれらの要因がどのように影響するかを説明します。

相対湿度センサは、空気中の水蒸気を測定するための開口部を持つ特殊なセンサです。相対湿度の測定が不可欠な理由は、空気中の湿度がシステムの信頼性(腐食)や製品寿命に直接影響する可能性があるためです。保管状況における湿度は、生鮮食料品に直接的な影響を及ぼす場合があります。

RHセンサの難しい課題の1つが、露出しているセンシング要素が時間の経過とともに劣化することです。周囲の湿った空気や、センサに沈着するベンゼンやエチレングリコールといった揮発性有機物化合物に常時さらされることで、センサの精度が仕様範囲外にまでずれてしまいます。こうなると、センサを交換するか較正するためにシステムの運用を停止する必要が出てくるので、保有コストが上昇します。


信頼性に非常に優れた湿度センサ

システムの効率と寿命を最適化するHDC3020ファミリをご確認ください。

湿度センサで最も重要な仕様が、長期的なドリフトと精度です。現在の湿度センサ、特に静電容量式センサでは、精度が2%~3% RH、最大でも3%~4% RHが標準的と考えられています。これは「ゼロ時間」、つまり実際に現場でセンサが使用される状態になる前の精度であり、長期的ドリフトは含まれていません。

静電容量式センサの長期的ドリフトは通常、1年あたりでおよそ0.25%~0.5% RHです。抵抗式センサ(約1%/年)と比べるとこのドリフトは非常に小さいものですが、10年の間に5% RHのずれにまで積み上がり、誤差を生み出す大きな原因になるので、10年以上稼働するように作られている電化製品や自動車といった機器類に影響を及ぼします。

図1は、10年の間に精度と長期的ドリフトが8%まで積み上がる可能性を示したものです。冷蔵庫を例に取ると、ドリフトのせいで湿度の計測値が誤って高い値になると、必要がないのにコンプレッサがオンになることで、コンプレッサの寿命を縮めるだけでなく、運用効率も低下します。

 1:長期的ドリフトを加えた湿度センサの精度

湿度の精度は、生鮮食料品、生命科学用品、医薬品の保管と輸送といったコールドチェーン・アプリケーションでも重要性が増しています。バッテリ駆動のワイヤレス・トラッカーやデータ・ロガーでは、食品輸送中の温度や湿度の情報をセンサが恒常的に記録でき、植物栽培や粉末原料の保管にも利用されています。ロガーは製品寿命の予測に使用されるため、ISO(国際標準化機構)およびIEC(国際電気標準会議)17025の厳格な規格を満たすとともに、NIST(米国国立標準技術研究所)が規定する測定基準へのトレーサビリティがある高精度で信頼性の高いロガーである必要があります。

消費電力も重要な仕様項目です。リアルタイム・データ・ロガーや環境センサといったバッテリ駆動のアプリケーションでは、消費電力次第で、コスト高で大きいバッテリを使用するか、コスト削減につながる小型バッテリを使用するかの違いが生まれます。消費電力が低いと、バッテリ駆動のアプリケーションの運用期間が長くなりますが、長期にわたる精度がより重要となり、精度がずれた場合に較正が必要になるかもしれません。

TIでは、システム寿命を延ばすと同時に、電力消費量の削減も可能になるように、RHセンサ『HDC3020』を設計しました。そのアーキテクチャにより、電源電圧範囲全体にわたって温度と湿度の精度が向上し、相対湿度の精度は標準で1.5% RHおよび最大で2% RH、長期的ドリフトは1年あたり0.21% RH未満に抑えられます。これらの値は、電化製品や各種システムの実用寿命を延長することにつながり、図1の例のように、10年後の長期的誤差が8%から4% RHへと、50%も減少します。

『HDC3020』は、自然な経年劣化、環境ストレス、汚染物質との接触によって生じるドリフトを低減するために、ドリフト補正テクノロジを内蔵しています。このテクノロジの事前性能は、『HDC3020』 EVMを使って評価できます。環境ストレスの詳細については、ホワイト・ペーパー「ポリマー・ベースの相対湿度センサに影響を加える85℃/85%での加速寿命試験」(英語)をご覧ください。

『HDC3020』は、0.1℃(標準)と0.4℃(最大)という高精度で超低消費電力の温度センサも内蔵します。湿度と温度は両方ともNISTトレーサブルであり、NISTに応じたISO 9001:2015手順に従い規格に照らして試験されており、ISOおよびIEC 17025ポリシーに準拠しています。オプションのリムーバブル・テープや永続的IP67等級フィルタ・カバーにより、プリント基板の洗浄とコンフォーマル・コーティングができるようになるので、厳しい環境においてそれぞれ塵や水分の侵入からの保護になります。

まとめ

湿度センサでは開口部が外界にさらされていることでセンサの劣化が加速するため、湿度センサを選ぶときは、精度だけでなく長期的なドリフトや環境要因も考慮する必要があります。システムを最初にリリースするときに精度を出すには、温度と湿度のNISTトレーサビリティは良い方法です。ただし、経年劣化や汚染によるセンサのドリフトといった別の要素は加味していないので、センサの寿命まで再較正をせずに精度を維持するには、長期的ドリフトがなるべく小さいことと、ドリフト補正が必要になります。信頼性の高いセンサを選択することが、製品の性能と信頼性の向上に直結します。

すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。 
上記の記事はこちらの技術記事(2021年6月21日)より翻訳転載されました。 
ご質問はE2E Support Forumにお願い致します。 

Anonymous