一見、難しすぎる作業に思えても、いざ実行してみると思っていたよりずっと簡単だったことに驚いたことはありませんか?最近、このような話を車載オーディオ設計のエンジニアから聞きました。カー・ラジオ・ソリューションのアンプを従来のクラスABからクラスDに変更したのです。
この記事では、主な2つの懸念点となる、プリント基板(PCB)のサイズへの影響と電磁干渉(EMI)について取り上げます。
懸念1:クラスDアンプではPCBの面積が大きくなる
約400kHzでアンプのオン/オフのスイッチングを行う標準的なクラスDオーディオ・アンプでは、適切なオーディオ性能を得るために8.2µHまたは10µHのインダクタを使用する必要があります。
一方、TIのクラスDアンプ『TPA6304-Q1』のスイッチング周波数は2.1MHzです。このアンプではリップル電流が削減されるので、図1に示すようなずっと小型で軽量な3.3µHインダクタを利用できます。
図1:インダクタのサイズとスイッチング周波数の関係
『TPA6304-Q1』の設計には、TIの最新のミクスト・シグナル製造技術が用いられています。3.3µHインダクタを併用することで、図2のような完全な4チャネル・アンプ・ソリューションのサイズが、必要となるパッシブ部品すべてを入れて全体で272mm2に縮小されます。
図2:4チャネルクラスDアンプ『TPA6304-Q1』
これを考慮に入れると、従来のクラスABアンプそのものよりも『TPA6304-Q1』ソリューション全体の方が小さいことが図3からわかります。
図3:『TPA6304-Q1』 クラスDアンプ・ソリューションとクラスABアンプとのサイズの比較
懸念2:クラスDアンプではEMCが問題になる
本質的に、クラスDオーディオ・アンプは、クロックのサイクルごとにその出力のオン/オフをスイッチングします。一方、クラスABアンプはスイッチングを行いません。しかし、このことは、制御不可能な電磁環境適合性(EMC)問題がクラスDアンプで起きることにはつながりません。
『TPA6304-Q1』のアンプ設計でEMCの懸念を軽減するいくつかの方法を具体的に検討したいと思います。
- 『TPA6304-Q1』デバイスの設計は、EMC全体の振る舞いを制御するよう高度に最適化されています。また、前に述べた3.3µHインダクタはインダクタ/コンデンサ(L-C)フィルタの一部であり、これによりクラスDアンプの出力段で高速スイッチング過渡事象からのEMCを最小限に抑えることができます。
- 図4のように、400kHz帯でスイッチングする従来のクラスDアンプでは、AM帯域の範囲内に直接、高調波成分が発生します。この高調波成分から干渉信号が生成されてAM受信感度が落ち、これによりAMラジオ局の受信が妨害されます。そのため、このAM帯域の高調波の影響を低減するために、400kHz クラスDアンプ設計には、ある種のEMC防止策の実装が必要になります。
図4:標準的400kHz クラスDアンプの高調波
- それよりずっと高い2.1MHzのスイッチング周波数で動作する『TPA6304-Q1』では、AM帯域の上にかなり大きいマージンがあるため、AM帯域のEMI防止策を実装する必要がなくなります。また、図5に示すように、この設計ではAM帯域に干渉する低周波数スパイクもありません。
図5:AM帯域より上にある『TPA6304-Q1』の高速スイッチング周波数
- 一部のPCBのレイアウト設計でEMIが問題になった場合のために、『TPA6304-Q1』はTIのキルビーラボが開発した独自のスペクトラム拡散テクニックを実装しています。図6に、この機能により、ナロー・バンドのエネルギー源をずっと広い周波数帯に拡散させることで、ピーク・エネルギーが低くなる様子を示します。
図6:スペクトラム拡散テクノロジーの背景
まとめ
2.1MHzの高速スイッチング周波数で動作する車載用クラスDオーディオ・アンプ『TPA6304-Q1』は、次世代のカー・オーディオや外付けアンプを求める業界の要求に応えます。このアンプ設計は、システムの熱負荷を低減するのに加えて、クラスABアンプからクラスDアンプへの移行に伴うPCBサイズやEMCへの懸念にも対応します。
参考情報
+ホワイト・ペーパー ”車載用オーディオでアンプのサイズと熱負荷を最小にするための設計上の検討事項”
+評価モジュール:『TPA6304-Q1』 evaluation module
+スピーカー・アンプの詳細はこちら
+車載インフォテインメントとクラスタの詳細はこちら
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※上記の記事はこちらの技術記事(2019年10月9日)より翻訳転載されました。
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