この技術記事では、高精度デジタル/アナログ・コンバータ(DAC)を設計に適した電圧リファレンスにするための主要な仕様について掘り下げ、さらにDACがプログラム可能なことで得られるメリットについても説明します。

車載用、通信用、産業用のシステムの多くは、実世界から情報を受け取り、それに応じた出力を行って、精密に応答を制御します。例えば、自動運転機能は、その周辺の物体とどれくらい近いかという実世界の情報を基に車をコントロールします。通信無線や基地局では、外気温が電波送信に必要な電力に影響する可能性があり、正確な出力を生み出すために増幅が必要になります。産業用機器は、製造の工程や試験、校正を保護するために、リアルタイムに調整を行っています。

このようなシステムの構成部分のほとんどでデジタル技術への移行が進んでいますが、高い精度を生み出すシステムのフロント・エンドは未だにアナログがメインです。レーザー・ダイオードにバイアスをかけたり、モータ位置を指定したり、外部信号を比較したりするために、アナログ・サブシステムには、精密な設定ポイントのリファレンスとなる電圧と電流が必要です。リファレンスは、ある特定の基板の他の多数の部品に対して固定電圧を供給することができるため、安定したリファレンスがシステム全体の精度にとって最も重要です。

次の3つの仕様はDACの安定性と汎用性を決める上で重要であり、これらの仕様のおかげでDACはプログラム可能な電圧リファレンスに適したものになります。


アナログ回路向けに正確で安定したプログラム可能なリファレンスを提供

低ドリフト、2.5Vのプログラム可能な内部リファレンスを搭載した高精度DACDAC81404』について、詳しくはこちらをご覧ください。

仕様その1:出力範囲

プログラム可能なリファレンスとしてDACを利用する際には、出力範囲が非常に重要です。おそらく、リファレンスが供給すべき電圧がどの程度かはすでに把握しているでしょう。『DAC81404』のような一部のDACは、高電圧(5V超)、低電圧(5V以下)、バイポーラ(±5V、±10V、±20V)、ユニポーラ(0V~40Vの範囲)といった、複数の電圧範囲の出力を提供できます。

図1に『DAC81404』の機能の1つを示します。DACは、駆動している負荷RLOADでの電圧降下を検知すると、DACの出力がVOUTで望ましい出力になるように、降下具合に応じてDACの出力を上下にシフトします。この電圧降下は、-12Vから+12Vの範囲で補償が可能です。VSENSE機能はDACの出力精度にも影響し、その結果システム全体の精度が左右されます。図1の回路は、非対称の出力範囲が可能になるという興味深い特長も示しています。例えば、VSENSE機能により、『DAC81404』から-3V~+23Vの範囲で出力を行うことも可能です。


 1:グランド・シフト補償使用、プログラム可能なVOUTリファレンスとしての『DAC81404

仕様その2:安定性と経時ドリフト

良好なリファレンスとなる最も重要な性質の1つが、時間経過と温度変動の両方に対する安定性です。ほとんどの半導体メーカーがDACのデータ・シートに時間経過に対するドリフトを明記していますが、この項目は一般に「経時出力電圧ドリフト」と呼ばれます。この仕様は、ある特定の温度(40℃)で、ある特定の期間(一般に1,000時間)にわたり、DACがそのフルスケール範囲全体で出力電圧を維持できる能力を表します。ここでも『DAC81404』を例に、データ・シート(英語)のスクリーンショットを図2に示します。ここから、上記と同じ基準の場合にフルスケール範囲にわたってドリフトが±6ppmと非常に低いことがわかります。

 2:『DAC81404』の経時出力電圧ドリフト

DAC81404』には、ワーストケースのドリフト仕様が10ppm/°C(最大値)の、高精度の内部リファレンスも内蔵しています。この内部リファレンスは、特定のアプリケーションにとってこのドリフト仕様が十分に低い値であれば、追加コストがかからないという点で便利です。さらに高い精度が要求されるアプリケーションの場合は、『DAC81404』のこのオプションを維持したまま、外部リファレンスを使用することもできます。

仕様その3DC精度(TUE

ほとんどの高精度DACの特性を明確にする共通仕様が、総合非調整誤差(TUE)です。TUEは、DACの相対精度つまり積分非直線性(INL)、オフセット誤差、およびゲイン誤差の二乗和平方根で表されます。式1により、TUEの推定値が算出されます。

TUEは、DACの主要なDC誤差をすべて集約するのに最適な方法であり、DACの精度を決める総合的な仕様を表します。『DAC81404』のような先進的なDACは、TUEが最大フルスケール電圧範囲の0.05%と非常に低くなっています。なぜTUEの低さが重要かというと、DACが温度範囲全体にわたり長期間、ある決まった値を保持する必要があるためです。プログラム可能なリファレンスとして使用する場合、このような安定性が欠かせません。

ボーナス機能:プログラムが可能

プログラム可能なリファレンスがなぜそんなに重要なのでしょうか。固定リファレンスと比べた場合、どのような問題に対処できるのでしょうか。まず、プログラム可能なリファレンスを使用すると柔軟性が得られます。特に、環境の変化やシステム要件に合わせて、時間の経過と共に出力を柔軟に補償できるようになります。製造工程でシステムへの出力を校正することも可能になります。DACの出力は、デジタル入力により制御可能です。DAC出力を必要な任意の値に設定して、リファレンスを置き換えることができます。

まとめ

DACは柔軟な方法で、非常に高精度で低ドリフトの、プログラム可能なリファレンス電圧をシステムに供給できます。DACにはさらに特長があり、グランド検出により汎用性が向上するうえに、柔軟性の高い非対称バイポーラ出力範囲を追加部品なしで実現します。全体的な誤差の低さと低ドリフト仕様を誇る高性能DACでは、外部増幅を追加しなくても、動的に変更可能な高電圧出力範囲を実現できます。

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上記の記事はこちらの技術記事2021219日)より翻訳転載されました。 
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