バッテリ駆動オーディオ・システムの設計者は、再生時間の延長とコストの削減という2つの目標の達成を求めています。古い従来型のクラスDアンプは、信頼性が高い一方、ポータブル・システムでは消費電力が大きすぎるため、これらの目標達成には難がありました。

デジタル入力クラスDアンプは、10年近くにわたってテレビ用のオーディオに使用されてきました。テレビ向けに設計されたアンプには、省電力設計になっていないという問題があります。これらのアンプは、最大出力(一般に約24V)で85%の効率となるよう設計されています。ほとんどのポータブル・システムやスマート・スピーカーは、その半分の電圧で動作し、動作効率は約60%に下がっています。これは、バッテリからアンプに送られる電圧の40%が音の出力に寄与していないことを意味します。つまり、アンプはバッテリ電力の20%~40%を熱として浪費するということです。

ライン電源で動作するスマート・スピーカーの場合、アンプの効率が悪いと、アイドル時であってもアンプ周囲の内部温度が大きく上昇するおそれがあります。ケースに触ると熱く感じるような過度の発熱は、他のコンポーネントの寿命にも悪影響を及ぼし、早期のシステム障害や製品の返品にもつながる場合があります。これらはいずれも、メーカーがお客様の信頼を失う原因となりかねません。

バッテリに蓄えられた化学的エネルギーをスピーカーから出力される音響エネルギーに効率よく変換するという核心的な課題は、出力信号の電圧需要を管理することにかかっています。それを解決することで、バッテリの持続時間が改善されます。バッテリ駆動オーディオ・システムの設計者の多くは、アンプからのエネルギー需要をより適切に管理するために、複数の手頃な方法を求めています。TIでは、すべてのバッテリ駆動システムに対して1つのアプローチでは対応できないことを理解しているため、TIの新しいオーディオ・アンプは3つの異なる方法で消費電力を削減します。

  • 内部クラスH昇圧制御
    1Sバッテリを使用する10Wバッテリ駆動システムに対して最適なオプションは、アルゴリズムで制御される先読みクラスH昇圧を内蔵したアンプです。アンプは直接バッテリに接続され、アルゴリズムが出力信号を解釈して、必要な電圧だけを供給するよう昇圧を制御します。先読み処理では、オーディオ信号を継続的に分析し、電力使用を小さなエンベロープ内に維持しながら昇圧出力を管理することで、消費電力をオーディオ出力に一致させます。このエンベロープ追跡のアプローチにより、オーディオ消費電力が40%も削減されます。これは昇圧のクルーズ・コントロールのようなものと考えることができます。

    図1に示すとおり、TIで実施したテストでは、このアプローチでバッテリ持続時間を40%延ばせることが示されています。クラスH昇圧制御の詳細については、アプリケーション・ノート「オーディオ・アンプにおけるクラスGおよびクラスH昇圧の利点」(英語)をご参照下さい。

 1:クラスH昇圧によるバッテリ持続時間の比較

  • Yブリッジ・マルチレベル電圧入力
    Yブリッジ入力は、スマート・スピーカーなど、アイドル時間の長いデバイスに適しています。このようなデバイスは1日のうちの大部分の時間でアイドル状態ですが、アンプはその間も電力を消費します。Yブリッジ・マルチレベル入力は、アイドル時には3Vレールから電力を消費し、必要に応じて高電圧レールへと動的に切り替わります。図2に、低い電圧で動作しているときの効率の向上が示されています。接続はシンプルで、アンプはソフトウェアや外部制御の必要なしに切り替えを動的に行います。
  • Yブリッジは、アンプを高電圧入力と低電圧入力に同時に接続することを可能にする革新的な手法です。例えば、アンプを3.3Vのレギュレーション・レールと15Vのレギュレーション・レールに接続できます。アンプは、必要な出力レベルを供給するために求められる電力に基づき、高電圧レールと低電圧レー���の間で動的にシフトします。システム内の他の部分がすべて同一だと仮定すると、Yブリッジは動作中に必要なすべての電力を供給しながら、アイドル時の消費電力を80%以上低減します。Yブリッジ・アーキテクチャを搭載した『TAS2764』オーディオ・アンプの詳細をご確認下さい。

 

 2:低電力レベルおよびスタンバイ・モードでの効率の向上

  • Hybrid-Pro外部 クラスH昇圧制御
    大きなBluetooth®スピーカーやスマート・スピーカーなど、より高い出力が必要なシステムでは、TIのHybrid-Pro外部クラスH制御アルゴリズムによってオーディオ信号を連続的に分析し、外部のDC/DCコンバータにフィードバックを提供することで、アンプの電圧を必要に応じて上昇させます。これにより、低音量での再生時や低出力が必要なときには電圧が低くなります。図3に、この動的なプロセスの波形を示します。オーディオ信号の変動に応じた電圧の変化が示されています。標準的なアンプと比較すると、Hybrid-Proモードではバッテリ持続時間を20%以上延長できます。詳細については、技術記事「DSP内蔵のオーディオ・アンプで効率を向上させる方法」(英語)をご参照下さい。

 3Hybrid-Pro外部クラスH昇圧制御

バッテリ駆動システムやスマート・スピーカーには独自の電力要件がありますが、いずれも従来のクラスDアンプでは実現できない高い効率を必要とします。TIのデジタル入力アンプのポートフォリオは、高い音質を維持しながら再生時間を延長し、コストを管理するために役立ちます。

参考情報:
TIのオーディオ・アンプ技術
TAS2563スマート・アンプ
+技術記事(英語):
How a look-ahead boost conquers battery-life challenges in speakers

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年12月10日)より翻訳転載されました。 
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