この記事では、高出力モータを駆動しながら機能安全を実現する、小型の48Vモータ・ドライバをどう設計するか、について説明します。自動車メーカーは、温室効果ガス(GHG)排出量の削減を最終的な目標として、マイルド・ハイブリッド車(MHEV)を開発しています。MHEVには、車の変速機につながる48Vモータ駆動システムが内蔵されています。GHG排出量削減のため、惰性走行のときはMHEVの内燃エンジン(ICE)を停止する一方、48Vモータ・システムによって、車に電力を供給する48Vバッテリを充電します。

高出力モータ駆動の考慮事項

標準的な48Vモータ駆動システムでは、車載パワートレイン・アプリケーションのために10kWから30kWの電力が必要です。この電力レベルには従来の12Vバッテリ・システムでは不十分なため、高出力モータ駆動に対応できる48Vアーキテクチャを採用する必要がありました。


モータ駆動設計の重要課題の解決のために

モータ駆動システムの駆動回路設計の重要課題の解決について、ホワイト・ペーパー「小型で機能安全な48V、30kWのMHEVモータ駆動システムを構築する方法」(英語)をご覧ください。

図1に示すように、48Vモータ・ドライバは、モータを回すために外付けMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を制御します。30kWの目標を達成するには、これらの外付けMOSFETが600Aを超える電流に対応する必要があります。MOSFETのRDS(on)を最小限に抑えることで、放熱と導通損失を抑え、チャネルごとに複数のMOSFETを並列に配置することで熱の分散を助けることができます。MOSFETの総ゲート電荷は、1,000nCに達することがあります。

設計では、ソリューション全体で車載電磁環境適合性(EMC)仕様を満たすために、スイッチング損失によって生じる電力損失の最適化も必要です。『DRV3255-Q1』などの高ゲート電流ゲート・ドライバは、最高3.5Aのピーク・ソース電流と最高4.5Aのピーク・シンク電流により、ゲート電荷の高いMOSFETを駆動できます。このように出力電流が高いことで、ゲート電荷が1,000nCであっても、迅速な立ち上がりと立ち下がりが可能になります。ゲート・ドライバの出力電流レベルが選択可能なので、スイッチング損失とEMC性能のバランスが最適になるように、立ち上がりと立ち下がりの時間を細かく調整することができます。

 1:高出力48Vモータ・ドライバで最もよく使われる電源アーキテクチャ

バッテリ電圧は公称で48Vではありますが、動作時の過渡条件によって電源電圧が著しく変動する可能性があります。図2は、ISO(国際標準化機構)21780に規定される電圧レベルです。さらに、MOSFETの寄生ボディ・ダイオードの逆方向回復の時間を考えると、モータ・ドライバのピンは、負の過渡電圧にも耐える必要があります。

 2ISO 21780に規定される48Vシステムの電圧レベル

105Vの電圧に耐えるハイサイドのブートストラップ・ピンを備える『DRV3255-Q1』は、90Vでの真の連続的な動作に対応し、過渡電圧では最大95Vに対応します。ブートストラップ、ハイサイドMOSFET電源およびローサイドMOSFET電源は、-15Vの過渡電圧定格を持ち、高出力モータ駆動システムに求められる強固な保護性能を提供します。

48Vモータ・ドライバの機能安全に関する考慮事項

48Vモータ駆動システムは、不要な電力を発生させるリスクがあり、これがシステムにダメージを与える過電圧状態につながる可能性があります。通常のシステムでの対応は、ハイサイドかローサイドのMOSFETをすべてオンにし、モータ電流を再循環させて、それ以上電力が生成されないようにすることです。万一障害が発生した場合は、機能するMOSFETを適切に切り替えて、さらなる損傷を防ぐ仕組みがシステムに備わっていなければなりません。このタイプの保護機能を実装するには、一般に外付けのロジックとコンパレータが必要になります。

DRV3255-Q1』にはアクティブ短絡ロジックが内蔵されているので、障害を検知したときにどのように対応すべきかわかります。障害発生時にMOSFETをすべて無効にするのではなく、障害の状態に応じて、ハイサイドMOSFETまたはローサイドMOSFETをすべて有効にするか、ローサイドとハイサイドのMOSFETを動的に切り替えるかを、このロジックに設定することができます。さらに、『DRV3255-Q1』は、ISO 26262の機能安全に準拠するよう設計されています。診断・保護機能を内蔵し、安全性要求レベルD(ASIL-D)までの機能安全モータ駆動システム実装に対応します。

48Vモータ・ドライバのサイズに関する考慮事項

エンジン・コンパートメントのスペースは限られているので、48Vモータ駆動システムの基板は小型であることが求められます。図3は、従来の48V高出力モータ駆動設計の、標準的なモータ・ドライバのブロック図です。強固な保護機能がある安全なモータ駆動システムの実装には、クランプ・ダイオード、外付け駆動回路、シンクパスの抵抗およびダイオード、コンパレータ、さらに外付け安全ロジックが必要です。このような外付け部品があるため、基板面積が増え、システムのコストがかかります。

 3:モータ・ドライバのブロック図(1相)

DRV3255-Q1』は外付けのロジックやコンパレータを統合し、調整可能な高電流ゲート・ドライバを持ち、大きな過渡電圧に対応しながら、追加の外付け部品が不要であるため、図4のように基板全体のサイズを抑えられるという大きなメリットがあります。

 

 4:『DRV3255-Q1』モータ・ドライバの概略ブロック図(1相)



参考情報:
+関連技術記事:
48Vシステムに関連する5つの疑問について考察する
Evolution of 48-v starter generator systems(英語)”
+ホワイト・ペーパー:
Bridging 12 V and 48 V in dual-battery automotive systems(英語)”

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※上記の記事はこちらの技術記事(2021年2月17日)より翻訳転載されました。 
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