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宇宙でのミッションに使用されることを意図している各種エレクトロニクス製品は、独自の条件と課題に直面します。特化型の IC パッケージを活用すると、これらの課題のいくつかを緩和することができます。TI では従来、まず商用 (宇宙以外) 用途の各種デバイスを開発し、プラスチック・パッケージでの検証を終えた後でのみ、エンジニアリング・チームはセラミック・バージョンの設計を開始していました。ただし、セラミック・パッケージは通常、プラスチック・パッケージに対してドロップイン互換ではありません。つまり量産を行うには、テストと特性評価に使用する新しいハードウェアを開発し、セラミック・パッケージ向けのテスト・ソリューションを確立する必要があります。そのような工程の必要性は、宇宙用ハードウェアの設計者にとって問題を招きます。セラミック・パッケージのデバイス製造が始まるのを待って、その後にようやくプロトタイプ製作を開始するか、さもなければプラスチック・パッケージの IC を使用してプロトタイプ製作を開始し、セラミック・サンプルが入手可能になった時点でボードの再設計と再製作を行うか、という面倒な二者択一に直面するからです。

SHP とは

TI では、従来は産業用アプリケーションで採用されてきたプラスチック・パッケージに封止した宇宙認定デバイス向けに、SHP (Space High-grade in Plastic) と呼ばれる新しいデバイス検査仕様を策定しました。プラスチック・サブストレートのボールグリッド・アレイ (BGA) と、プラスチック封止型パッケージの両方が、SHP に該当します。SHP 認証レベルに従うことで、通常はセラミックの QML (Qualified Manufacturers List) Class V デバイスを採用する過酷なミッション・プロファイルに適したデバイスを製造できます。

SHP レベルは、宇宙での過酷なミッションで重要となるパラメータの多くについて、TI の宇宙用強化製品よりも高い信頼性を達成することを表します。表 1 に示すように、最も重要な違いは、シングル・イベント・ラッチアップ (SEL) とトータル・ドーズ効果 (TID) への耐性がより高いこと、製品のバーンインとウェハー・ロットごとの寿命テストを実施していることです。

宇宙用強化製品

SHP

QML-P*

QML-Y**

QML-V

仕様の策定者

TI

TI

DLA (Defense Logistics Agency:米国の国防兵站局) / JEDEC (半導体技術協会)

DLA/JEDEC

DLA/JEDEC

パッケージ

プラスチック・サブストレートまたは封止型

プラスチック・サブストレートまたは封止型

プラスチック封止型

セラミック・サブストレート

(プラスチック・サブストレート**)

セラミック

密封

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

はい

単一の制御されたベースライン

はい

はい

はい

はい

はい

ボンド・ワイヤ

(使用している場合)

アルミニウム

純錫を使用しているか?

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

生産時のバーンイン

いいえ

はい

はい

はい

はい

American Society of Testing and Materials (ASTM) E595 に準拠した気体排出試験

はい

はい

はい

該当しない**

該当しない (プラスチック不使用)

ロット・レベルの温度サイクル

ロット・レベル

グループ D

グループ D

グループ D

グループ D

ロット・レベルの HAST (高加速寿命試験)

はい

グループ D

グループ D

グループ D

該当しない

1 つのリールに複数のウェハー・ロットを取り付けてよいか?

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

いいえ

ウェハー・ロットごとの寿命テスト

いいえ

はい

はい

はい

はい

TI の仕様を満たすには、以下の項目が必須

以下の項目は、QML 仕様では必須ではない

TI 放射線 (TID) ロット受け入れ試験 (RLAT / RHA)

すべての SEP と SHP は RLAT を実施済み

これらのクラスに属する TI のパーツは通常、RLAT を通じて RHA を実施するが、製品によって異なる (新規パーツはすべて RLAT を実施予定)

シングル・イベント・ラッチアップ (SEL) 試験

(レベルは製品ごとに異なる可能性あり)

TI = 43 MeV

TI 製品は通常、これらのスクリーニング・レベルで 60MeV ~ 120MeV

放射線、トータル・ドーズ効果 (TID)

(level could vary by product)

TI = 30krad 50krad

(RT:耐放射線特性)

TI 製品は通常、これらのスクリーニング・レベルで 50krad ~ 300krad

(RHA:放射線耐性保証)

*QML Class P:2022 年の JEDEC/DLA レビューの対象

**QML Class Y:2022 年の DLA/JEDEC レビューのうちプラスチック・サブストレート。

表1:TI の SHP 認証カテゴリと他の既存または策定中の規格との比較

宇宙グレードと産業用グレードの各バージョンで、同じピン配置と同じ基本パッケージに基づくプラスチック・パッケージを使用することで、設計の課題を軽減できます。開発期間の短縮と開発リソースの削減に加えて、宇宙用アプリケーションの設計者は、放熱効率、サイズ、帯域幅に関するプラスチック・パッケージの利点を考慮に入れる必要があります。

設計上の課題 1:放熱効率

従来の密封型セラミック・パッケージを設計する場合には、ダイを空洞内に配置し、空洞の上部にふたを溶接する方法で、耐湿ソリューションを実現する必要がありました。この設計では、ダイと金属製のふたの間にエアギャップ (空隙) が残り、これは放熱用エポキシで埋めることが困難です。一方、フリップ・チップ BGA SHP パッケージの場合、金属製のふたは放熱用エポキシを間にはさむ形でフリップ・チップ・ダイの裏面に密着するので、それらの間にエアギャップは生じません。

TI は、カラム・グリッド・アレイのセラミック・パッケージが示す約 16℃/W という熱抵抗を、プラスチック BGA パッケージの約 0.8℃/W に減らすことで、ダイからパッケージまでの放熱効率を改善しました。チップ周辺のシステムが高温動作する場合でも高い信頼性を維持できるため、(液冷の場合の) 液体ポンプ、追加ヒート・シンクの金属、または他の熱除去システムが不要になり、放熱を目的とするシステムのサイズ、重量、コストを削減できます。

設計上の課題 2:サイズの制約

宇宙業界はサイズと重量に基づいて発射コストを計算します。そのため、ソリューションが小型で軽量であるほど、軌道への打ち上げコストが安価になります。フリップ・チップ BGA パッケージの合計パッケージ・サイズは、どの寸法においても、同等のセラミック製品より小型になります。図 1 に、QML-V ADC12DJ3200QML-SP が採用している 15mm x 15mm の密封セラミック・パッケージを示します。この製品の合計の高さは 6mm を上回ります。その右に、プラスチック BGA を示します。新製品である ADC12DJ5200-SP と ADC12QJ1600-SP はいずれもこのパッケージを使用していますが、これらは 10mm x 10mm のパッケージに収められ、合計の高さは 2mm 未満です。このような大幅なサイズ縮小は、合計ソリューション・サイズの小型化、システム全体のサイズと重量の低減、または同じ面積でより多くの A/D コンバータ (ADC) を実装できることを意味します。

 図1:密封セラミック・パッケージとプラスチック・パッケージの比較

図 2 に、10mm x 10mm x 1.9mm のパッケージ・サイズを採用した ADC12DJ5200-SP と ADC12QJ1600-SP (これらは共通のパッケージを使用)、および以前の世代である 15mm x 15mm x 6.2mm のセラミック ADC12DJ3200QML-SP を比較し、その改良状況を示します。

図2:宇宙グレード ADC の世代間でパッケージ・サイズを比較

設計上の課題 3:帯域幅の拡大

フリップ・チップ・パッケージを採用する高周波製品の場合、セラミックに比べると、プラスチックは以下の理由で電気的特性の改善につながります。

  • フリップ・チップ・パッケージを採用する高周波製品の場合、セラミックに比べると、プラスチックは以下の理由で電気的特性の改善につながります。プラスチック・パッケージを形成する有機サブストレートの比誘電率は約 3.7 です。セラミックの場合、9.8 です。その結果、隣接する信号ライン間の容量性結合は、プラスチック・パッケージを採用するとセラミックの 2.5 分の 1 未満で済み、クロストークとシグナル・インテグリティの改善につながります。
  • 誘電率が低いので、100Ω の差動ラインや 50Ω のシングルエンド・ラインで配線相互間の距離や、配線とグランド間の距離を短くすることが可能です。その結果、セラミック・サブストレートに比べてプラスチック・サブストレートでは、インピーダンス制御を行った複数のラインをより高い密度で配線できます。
  • 静電容量がより小さいプラスチック・サブストレートは、重要なアナログ信号の帯域幅とリターン・ロスの改善に役立ちます。

加えて、セラミック・サブストレートでタングステンを使用するのに対し、プラスチック・サブストレートを採用する場合、信号ラインと電源プレーンで銅を使用できるため、結果としてプラスチックの方が帯域幅が広くなります。タングステンに比べて、銅は電気的抵抗が 1/3 未満です。

まとめ

TI の SHP 宇宙認証レベル製品は、従来のセラミック・パッケージに比べて、放熱効率の向上、フットプリントの小型化、帯域幅の拡大を実現します。産業用グレードと宇宙グレードの各バージョン間で共通のパッケージとピン配置を採用しているので、開発ユーザーは商用グレードのデバイスのサンプル出荷が始まった直後に宇宙向けハードウェア設計に最新の技術を取り入れることができます。なぜなら、商用製品で動作するすべてのプロトタイプが、ドロップイン互換の宇宙認定 SHP 製品でも動作するからです。置き換えてすぐに、システムを打ち上げる準備ができます。

参考情報

  • TI の他の放射線強化製品と放射線耐性製品の詳細は、TI.com/spaceをご覧ください。
  • 新しくリリースされた宇宙製品に関する最新情報は、『TI Space Products Guide』 (英語) をご覧ください。

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2022年10月17日)より翻訳転載されました。
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