最近、新しいモデルの自動車を運転した方なら、自動緊急ブレーキ、クロス・トラフィック・アラート、車線変更支援などの先進運転支援システムをおそらく利用されたことがあるのではないでしょうか。しかし、自動車がどのようにして、正面衝突を避けるために停止するタイミングを知るのか、考えたことがあるでしょうか。または、どのようなシステムが、目的の車線がふさがっているときにドライバーが車線変更するのを防いでいるのでしょうか。さらには、駐車スペースからバックで出るときに、自動車はどのようにして、他の車が近づいていることを知るのでしょうか。
これらすべての質問で、答えの一部として含まれるのが車載レーダです。レーダは単純に、無線電波を使用して物体の距離、角度、および相対速度を決定する手段です。今日の車両安全システムでは、レーダをカメラ、超音波、その他のセンサとともに使用することで、車両の周囲に関する情報を取得します。高度な処理技術を使用してこのセンサ・データを統合することで、物体の識別およびそれに伴う意思決定の性能が向上し、それによって車両は、たとえばドライバーが隣りの車線へと無意識に流されているのか、それとも意図的に移動しているのかを判断できます。このような情報の必要性によって、1つまたは複数のレーダ・システムを搭載した自動車の数が大きく増加しました。
死角検出(BSD)、車線変更支援(LCA)、フロント/リア・クロス・トラフィック・アラート(F/RCTA)、自動緊急ブレーキ(AEB)、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)などのシステムに対する顧客の需要が高まることで、レーダー・センサの生産量も増加しました。多くの車両には、図1に示すようなレーダが1つまたは複数搭載されています。
図1:車載用レーダ・システム
従来、これらのシステムの多くは24GHz帯の周波数を使用してきました。車載向けには現在、狭帯域(NB)と超広帯域(UWB)の両方が利用可能です。レギュレートされていない24GHz NBは、24.05GHz~24.25GHzの200MHzにわたっています。24GHz UWBは、21.65GHz~26.65GHzの5GHzにわたります。
欧州電気通信標準化機構(ETSI)と連邦通信委員会(FCC)によって策定されたスペクトルに関する規定および標準により、ヨーロッパと米国の両方で、UWB帯の使用は2022年(“sunset date”)までに段階的に停止される予定です。
24GHz UWBを段階的に廃止する中で、規制機関は車載レーダ用に77GHz帯の周波数を開放しました。図2に示すように、77~81GHzで使用可能な帯域幅は最大4GHzの掃引帯域幅を提供し、これは24GHz NBで利用できる200MHzよりもずっと大きくなっています。
図2:使用可能な車載用レーダ帯域
なぜ掃引帯域幅が重要なのか?
今日のレーダ・システムは以前のように、高エネルギーのPing電波を放射して反射波を受信するまでの時間を測定することはありません。周波数変調連続波(FMCW)レーダは、“チャープ”と呼ばれる、システムの帯域幅全体にわたる周波数掃引(ランプ)を送信します。信号の経路上にある物体は、このチャープを反射します。送信器を出たチャープの周波数と(いずれかの時点での)受信された反射信号の周波数との差は、送信器から物体までの距離と直線的に関係しています。
この距離測定では分解能と精度がともに重要です。分解能によって、2つの物体が区別されるのに必要な物体間の距離が決まります。精度とは単に、距離測定の精度です。距離測定の誤差と最小分解距離は、チャープの帯域幅に反比例します。使用可能な周波数の幅により、24GHzから77GHzへの移行は、距離の分解能と精度について20倍の性能向上につながります。24GHzレーダの75cmに対して、77GHzシステムの距離分解能は4cmであり、互いに近接した複数の物体をより精密に検出できます。
分解能
送信された信号と受信された信号との位相差を使用して、物体の相対速度を測定できます。波長が小さくなるほど、それに比例してこの速度測定の分解能と精度は向上します。したがって、センサが24GHzから77GHzに移行すると、速度測定は3倍向上します。
システム・サイズ
これらの理由によっても、システム設計者が77GHz帯に移行するのに十分でない場合には、24GHzからの切り替えで得られるもう1つの魅力的なシステム上のメリットがあります。それはソリューションのサイズです。77GHz信号の波長は24GHzシステムの1/3であるため、与えられた視野とゲインに対するアンテナ・パターンのサイズは、X方向とY方向の両方で1/3になります。つまり、77GHzアンテナに必要な合計面積は、同等の24GHzアンテナの面積の1/9になります。これにより、自動車内の限られたスペースに、ずっと小さなモジュールを配置できるようになります。場合によっては、レーダ・モジュールを今日の車載用安全システムで一般的に使われるカメラと同じくらいに小さくできます。これらのアンテナのサイズの比較を図3に示します。
図3:24GHzと77GHzのアンテナ・サイズの比較
車載用レーダ・システムへの需要が高まるのと同時に、センサ自体も変化しています。これは、24GHzから77GHzへの移行によって、より小さなパッケージでより優れた精度と分解能が得られることから、当然と言えます。これを念頭に置けば、なぜ車載用レーダが24GHzから77GHzに移行しているのかは簡単に理解できます。
その他のリソース
小さな77GHzシステム向けのソリューションの詳細については、以下のリソースを参照してください。
- ホワイト・ペーパー「従来の24GHzから最新の77GHzレーダへの移行」(英語)
- AWR 1642を使用した近距離レーダー(SRR)のリファレンス・デザイン
- TIの超近距離レーダのアプリケーション・ページ
- ホワイト・ペーパー「AWR 1642 mmWaveセンサ:近距離レーダー・アプリケーション用の76~81GHzレーダー・オン・チップ」(英語)
- ホワイト・ペーパー「自動運転アプリケーションに理想的なTIのスマート・センサ」
- ホワイト・ペーパー「ミリ波センサの基本」
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
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