レーダー・センサは、車両が周囲の環境を検知する方法だけでなく、車内に何が置かれているか、誰が乗っているかを検知する方法にも変化をもたらしています。例えば、後部座席に置き去りにされた子供や健康上の問題を抱えたドライバーを検知できる自動車や、状況を改善するための処置を講ずるよう設計されたシステムを想像してみてください。

固体を透過して他の物体を検知できるレーダーの能力により、置き去りにされた子供の検出、在席状態の監視、ドライバーのバイタル・サインの評価などを、これまで以上に高い精度で行えるようになります。

この技術記事では、より多くの自動車メーカーがレーダー・センサへと関心を向けている中で、車内センシング市場における3つのトレンドについて詳しく考察します。

トレンドその1:幼児置き去り検知の先を行く機能

ヨーロッパ新車アセスメント・プログラム(Euro NCAP)などの規制機関に準拠するために、自動車メーカーはレーダー・センサを使った幼児置き去り検知機能の実装に取り組んでいます。しかし、それで満足するわけではありません。 

このビデオでは、1つのレーダー・センサが車内にいるすべての人の位置を検出して特定し、後部座席にいるのが大人か子供かを分類して、それぞれの人のバイタル・サインを追跡する方法を示しています。 

車内センシング用のレーダーの能力は進化を続け、シートベルト・リマインダやエアバッグ展開などのシステムの精度向上をはじめ、車両の乗員に対してさまざまな形で役立っています。シートに重い荷物を置いたときに、シートベルト・リマインダが作動することはなくなるでしょう。車内に子供が乗っているときはエアバッグの展開速度を変えることで、衝撃による負傷のリスクを減らすことができます。 

またレーダー・センサは、ドライバーの眠気や乗員の呼吸/心拍数なども正確に検出できます。車両ではこの情報を使用して異常事態を特定することができます。警告が発せられたら、ドライバーは休息をとったり、体調に問題があれば車を路肩に止めるなど、適切な行動をとることができます。 

トレンドその2:車内センシングに60GHzのレーダー・センサを採用

自動車のティア1メーカー各社は、レーダーによる車内センシング・アプリケーション用に、複数の異なる周波数帯を利用してきました。例えば、24GHzレーダー・センサは、距離と速度の分解能が低く、正確な結果が得られないため、これらのアプリケーションには不向きです。また、センサのサイズが大きいため、車内への組み込みも難しくなります。さらに、連邦通信委員会と欧州電気通信標準化機構からの指令により、24GHzの超広帯域無線は2022年以降、車載アプリケーションには使用できなくなります。 

速度および角度分解能を高い精度で検出するには、60GHzや77GHzなど、より高い周波数が適切な選択肢となります。地域に応じて、キャビン内センシング・アプリケーションでは60GHzか77GHzのいずれかのセンサを使用できます。多くの地域では60GHzのセンサが選択されますが、ティア1メーカーは各地域の規制機関に連絡して詳細を確認する必要があります。 

テキサス・インスツルメンツでは、60GHz帯(AWR6843)と77GHz帯(AWR1843)の両方で、TIミリ波(mmWave)センサとともにスケーラブルなレーダー製品ポートフォリオを提供しています。これらのシングルチップ・デバイスはピン互換およびソフトウェア互換であり、設計者は共通のプリント基板(アンテナの中心周波数を除く)を作成し、両方のプラットフォームで機能するアルゴリズムやソフトウェアを開発できるため、異なる地域に展開するセンサの構築に役立ちます。 

トレンドその3:あらゆるサイズの車両で使用するためのセンサ・アーキテクチャのスケーリング

車内へのセンサの搭載方法は、その設計(フォーム・ファクタ、アンテナ)と機能の両方に影響を与えます。レーダーはプラスチックや布などの固体を通過できるため、車載機器の設計者はレーダー・センサを車両内のさまざまな場所に配置することができます。 

図1に示すように、2列のシートを持つ車両で、センサをルーフヘッドライナーの下、車両の中央に向けて配置した場合は、AWR6843などの1個のレーダー・センサで、後ろ向きのチャイルドシートに乗っている子供や座席の下に立っている子供を検出できるほか、車両内にいるすべての人を検出して分類することができます。これは、AWR6843チップセットに内蔵された処理装置とメモリによって可能になります。AWR6843に内蔵されたデジタル信号プロセッサとマイコンにより、複雑なアルゴリズムや、ホスト通信用の車載オープン・システム・アーキテクチャ(AUTOSAR)スタックが実装可能です。 

図1:TIのレーダーを使用した、車両の2列のシートにいる乗員の検出と分類
(出典:Azcom Technology)

3列のシートを備えた大型車両であれば、AWR6843センサを2個配置することで全体の乗員を検出可能になります。AWR6843は2つのCAN-FD(Controller Area Networking with Flexible Data rate)インターフェイスを備えているため、2個のセンサが車両のCANネットワークと簡単に同期および通信でき、あらゆるサイズおよびあらゆるシート数の車両に対してソリューションをスケーリングできます。

2TIのレーダーを使用して車両内の5人の乗員を検出(出典:Smart Radar Systems)

また、センサのサイズが問題となるオーバーヘッド・コンソールやBピラーにもセンサを配置することが可能です。TIのレーダーは、きわめて小さいフォーム・ファクタのセンサを実現でき、車両への搭載が容易になります。

TIのレーダー・センサのスケーラブルなポートフォリオには、シングルチップ製品およびイメージング・レーダー・チップセットが含まれています。デバイス間で互換性のあるソフトウェアにより、これまでになく容易な移植性が得られ、次のキャビン内センシング・システムを今すぐ設計開始することができます。

その他のリソース

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年5月4日)より翻訳転載されました。
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