今、すべてが電気だけで走る完全な電気自動車(EV)の時代を目指し、利用可能な技術、市場や環境に対する規制、インフラの構築などさまざまな面からの取り組みが一斉に行われています。国際エネルギー機関のレポート「Global EV Outlook 2020」によれば、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)を含む電気自動車の販売台数は、2019年に世界全体で過去最高の210万台に達し、路上を走るこれらの車の累計は720万台となっています。  

しかし、EVは年率40%もの成長を遂げているものの、世界の自動車市場全体ではわずか1%、売上額では2.6%に過ぎず、それ以外はICE(内燃機関)タイプの自動車が占めています。自動車メーカーは二酸化炭素の排出を減らし、政府の規制を遵守する必要性から、48Vマイルド・ハイブリッド(MHEV)モデルの導入を積極的に行っています。 


図1は、ハイブリッド車から電気自動車に移行する各段階でエネルギー依存度がどう変わるかを示しています。 

とはいえ、完全に電動化されたドライブ・トレインについて誤解していたり、こだわりを持っていたりする人もいます。ここでは、MHEVについての5つの疑問について検証します。 

1:48V MHEVというセグメントはいずれ市場から消え去るのか 

ICE車の購入を希望する人がまだ多数を占めているにもかかわらず、ICE車に代わるさまざまなタイプのプラグインHEVやバッテリ駆動タイプの電気自動車(BEV)が市場に出回っています。デロイトの「2020グローバル自動車消費者意識調査(英語)」によれば、インドでは車の購入を検討している人の10%、ドイツでは43%の人は、ICE車にかける以上のお金をEVにかけたくないと思っていることがわかります。48V MHEV車は市場から消え去ると考えている人がいるかもしれませんが、航続距離やコストの問題を解決して消費者の要望を満たし、消費者を電気自動車の未来に誘う可能性の方が高いと思われます。  

2:OEMは48Vを跳び越してEVへ向かうのか 

コンサルタント会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、レポート「リブースト:変化するパワートレイン・コンポーネント市場においてサプライヤが成功する方法(英語)」で、プラグインHEVおよびバッテリ駆動EV市場の現在の成長軌道を下支えするためには、2030年までに(送電線網のアップグレードを除く)EV用充電インフラに累計で500億ドルもの投資が必要であると推定しています。また内燃エンジン車をバッテリ駆動EVにするには大幅な設計変更が必要でコスト高になるため、ほとんどのOEM(相手先ブランド製造メーカー)は、内燃エンジン車の構造を段階的に変更するだけで済む48Vシステムに注力しています。  

電気系サブシステムの数が増加する中で、電力需要の増大とともに環境への懸念や規制遵守の圧力も増しているため、48Vシステムへの関心は高まる一方です。 
業界のサプライヤがMHEVに向けたラインアップを拡充する中、MHEVの計画を発表し、市場導入を進めるOEMの数はますます増えています。  

3:48Vシステムの車は価格が高くなるのか 

バッテリなど新しいコンポーネントを追加するにはコストがかかりますが、次のように、他のさまざまな点でコストを抑えることができます。 

  • 48Vでは、12Vの場合よりも小規格の電線を使用できるため、長さ4km近くに達するケーブルとワイヤ・ハーネスの小サイズ/軽量化が可能 

  • 48Vの電動ポンプ、ファン、パワー・ステアリング・ラック、コンプレッサは効率が優れているため、これらのコンポーネントによるコスト減 

  • バッテリに対する要求仕様がPHEVおよびBEVよりも低いため、バッテリ・コストが低下 

  • 小型化が可能。たとえば、6気筒エンジンと同等の性能を小型で低コストの4気筒エンジンで実現可能  

さらに、MHEVのアーキテクチャには、最もコストが低いP0(ドライブベルトで駆動)から最も統合度の高いP4(電気モーターがアクスルに直接トルクを伝達)までの選択肢があるため、設計によってコストを調整することができます。  

MHEVでは、規模の経済によって初期費用をさらに抑えることができます。また、発進/停止時のエンジンオン時間短縮、回生ブレーキ(回復ブレーキ)による運動エネルギーの利用、ICEエンジンに対するトルク・アシスト機能などにより燃料効率が向上するため、真の所有コストが低減します。  

4:48Vシステムによって12Vシステムは不要になるのか 

MHEVでは、従来の12VバッテリをDC/DCコンバータで昇圧して48Vシステムに接続する方式が今後も続くと思われます。現在の設計では、48Vシステムは空調、トルク・アシストの負荷制御、発進時間短縮の支援に、12Vシステムは従来どおりのエンジン/トランスミッションの制御、アクティブ・セーフティ機能/インフォテインメント機能の制御に使用されています。そのため、再設計のコストや関連コストが最小限になります。 

先端的な自動車メーカーは、最終的に48Vシステムに完全に切り替えると思われますが、それには10~15年を要する可能性があります。  


デュアルバッテリ自動車システムにおける12Vと48Vの連携 

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5:世界には今、完全なEVが必要なのか 

今の世界では現実的な問題としてCO2の排出量を削減する必要があります。さまざまな規制によって、目標に向けた取り組みの効果がようやく現れ始めています。欧州連合は2021年から走行距離1kmあたりのCO2排出量を95gに制限し、さらにこれを2030年までに59gにする計画を発表しています。中国、インド、カナダ、英国なども今後20~30年の間にICE車を段階的に廃止するという目標を発表しました。 

積極的にEVに切り替えたいと思っており、それ���できる消費者は、今すぐにでもEVを利用することができます。一方で、MHEVでは自動車の電動化を段階的に実現する道筋にさまざまなタイプが用意されています。この道筋は、規模の経済と顧客の期待という2つの大きな追い風を利用しながら、コスト、航続距離、環境といった問題の解決を促進する道として大きな役割を果たしています。現在、多くの自動車メーカーおよびOEMは、数多くの48V製品ラインナップを揃えており、その数は増える一方です。 

MHEVまたはEVの設計にかかわらず、TIはあらゆるレベルの設計支援を続けていきます。 

 

参考情報: 
+関連技術記事:”クルマの電動化による車載電圧ボード・ネットの発展

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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年10月21日)より翻訳転載されました。 
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