20年近く使われているテクノロジーがコネクテッド・カーへの道を切り開いたことには、驚かされるかもしれません。eCall(車両緊急通報)は、ハイテクの標準としては古いものですが、今年3月、EUは全新車にeCallの搭載を義務付けました。この法律はテクノロジーと法令が交差した一例にすぎません。この両者のデリケートな関係により、100%コネクテッド・カーの実現までに要する時間が決まるかもしれません。

eCallは、最も基本的な定義によれば、緊急時に救援を求めるために自動発信できるベーシックな車載携帯電話で、市場には1990年代から存在するテクノロジーです。消費者は将来に向けて、より高度な統合を望んでいますが、TCU(テレマティクス制御ユニット)はそこで役立ちます。

TCUは、eCallの全機能に加え、位置情報、無線経由でのアップデート、音声通話といった各種データの送受信を含む追加機能をコネクテッド・カーに提供します。TCUがなければ、eCallは通報しか行えません。図1は、緊急通報機能を備えたTCUの概略です。

 図1:最新TCUに統合された緊急通報機能

eCallシステムが統合された一般的なTCUの要件

TCPの設計には多数のハードウェア・バリエーションがあります。OEMおよびティア1サプライヤにはそれぞれ独自の設計仕様があり、その仕様に応じて車両内のさまざまな場所にTCUが置かれます。

EUの指令では、新車のeCallシステムについて以下の要件が規定されています。

  • 衝突時および衝突後、車載バッテリを使用せずに自動的に動作すること。
  • 極端な温度(-20℃または-40℃)にも耐えること。
  • 10年のバッテリ寿命の間に、8~10分の通話を接続できること。
  • 携帯電話ネットワークでの緊急サービス・コールバックに60分間対応できること。
  • 国際標準化機構(ISO)26262 Automotive Safety Integrity Level(ASIL:自動車安全性要求レベル)の基準Aに適合していること。 

 バックアップ・バッテリ

バックアップ・バッテリは、TCU設計の出発点です。EUの要件に基づいて、バックアップ・バッテリは6W~20Wのオーディオ出力と、約2A(公称350mA)のGSM(Global System for Mobile Communications:モバイル通信用グローバル・システム)モジュールからのピーク電流に対応しなければなりません。

バックアップ・バッテリの選択により、バッテリの種類(リチウム・イオン、リン酸リチウム・イオン、およびニッケル水素)、セル数、および電流出力能力に応じて、システムの残りの部分が決定されます。パワー・パス内部のどこにバッテリを置くかによって、使用する充電器あるいは低ドロップアウト・レギュレータの種類、そして昇圧レギュレータの必要性が決まります。

図2および図3は、異なる充電方法に基づいたパワー・パスのバリエーションを2つ示しています。各バリエーションでは、同じ数量の部品を使い、同じタスクを実現していますが、バックアップ・バッテリの選択とバッテリ充電器の能力に基づいて構成が異なります。

バリエーション1は低コストでシンプルな設計ですが、複数の昇圧レギュレータを用いており、サイズと冗長性のトレードオフが求められます。バリエーション2はリチウム・イオン・バッテリを使用しているため、高度な保護が必要ですがセル数が少なくなります。どちらも可能な選択肢ですが、コスト、サイズ、信頼性のすべてを考慮したうえで適切な構成を選ぶ必要があります。

 図2:TCUパワー・パスのバリエーション1

 図3:TCUパワー・パスのバリエーション2

パワー・レギュレータ

バックアップ・バッテリの検討の次は、パワー・レギュレータが別の設計上の検討事項になります。車載用アプリケーションの場合と同様に、車両のバッテリからの電源は、過酷な温度に耐え、広い入力電圧範囲に対応し、EMI(電磁波妨害)を軽減する必要があります。テレマティクス・システムは、高温状態が続く車内のさまざまな場所(フロント・ガラス、助手席のコンパートメント、トランク、エンジン)に設置され、最高150℃のIC接合部温度、および優れたボード熱特性と効率性が求められます。

入力電圧は、OEMのロード・ダンプ、逆極性、コールド・クランキングの諸条件に応じて異なりますが、通常は4.5Vから最大42Vです。スイッチング・レギュレータは、カー・ラジオのAM/FMバンドに干渉してはなりません。そのため、スイッチング周波数は(AMバンドより高く、FMバンドより低い)約2.1MHzか、(AMバンドより低い)約400KHzでなければなりません。適切なスイッチング周波数を持つスイッチング・レギュレータの選択、ディザリング/スペクトラム拡散の使用、最適なレイアウトの実装、これらすべてが、優れたEMI性能を確保するために重要な要素です。

オーディオ

オーディオ出力には大きな幅があります。4W~6W級の低出力システムを選ぶ設計者がいる一方で、最大20Wのシステムも存在します。消費電力とバリエーション以外にも、スピーカーの診断/保護機能(出力負荷の開放/短絡、出力から電源およびグランドへの短絡など)は、一般的な車載用の短絡保護、ロード・ダンプ、および温度保護/監視に加えて、オーディオには不可欠な機能です。

データ・レート

テレマティクス・システム内へのデータ、モデム、メモリ・ストレージの統合が進むにつれて、ヘッド・ユニットまたはセントラル・ゲートウェイと接続するデータ・レートは上昇しています。単なるCAN、LIN(ローカル相互接続ネットワーク)はもちろん、USBでさえ過去のものとなり、10/100Mbps、さらには1Gbpsにより置き換えられています。

テレマティクスの将来への期待

テレマティクスの動向には、法令の要因、インフラ要件、ユーザ・エクスペリエンス、ドライバーからの期待、あるいは現在テレマティクスが断片化された市場であるという事実など、さまざまな異なる力が働いています。オンボード診断ドングルなどの小規模なアフターマーケットのテレマティクス製品の進歩、および車両と他の車両や運転環境との間の通信を促進するV2Xモジュールなど、さらに高度なシステムにも注目する必要があります。このようなデバイスには最新のTCUと同様のモデム、プロセッサ、データ通信が搭載されるかもしれません。

コネクテッド・カーの将来は、テレマティクスのイノベーション、そして車載エンジニアが適切に設計の課題に応え、トレンドに追従できるかにかかっているというのは、今でも真実でしょう。

 その他のリソース

※上記の記事はこちらの技術記事(2018年8月31日)より翻訳転載されました。
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