乗用車は、車の長さと幅にわたって分散した一連の電子制御ユニット (ECU) で構成されており、それらの ECU が多様なネットワークを使用して互いに情報交換している、と考えてみましょう。車車間および路車間通信 (V2X)、自動運転、自動車の電動化を進めるために、より高度な車載エレクトロニクスを追加すると、ECU の数が増加し、それらの間で交換されるデータの量も増大します。

ドメイン・アーキテクチャの簡単な解説

ドメイン・アーキテクチャでは、ECU の機能に基づいて ECU を複数のドメインに分類します。それに対し、ゾーン・アーキテクチャは新しいアプローチであり、自動車内の物理的な位置に基づいて ECU を分類し、集中型ゲートウェイを活用して通信を管理します。この物理的な近接性は、ECU 相互間のケーブル配線短縮につながり、スペースの節減や自動車の重量軽減と同時に、プロセッサの速度改善にも役立ちます。

ドメイン・アーキテクチャについて理解するには、表 1 に示すように、一般的に ECU を機能に基づいて 5 種類に分類するという考え方から始めます。

ドメイン

ECU の機能

パワートレイン・ドメイン

電子モーター制御やバッテリ管理、エンジン制御、トランスミッションとステアリングの制御も含め、自動車の運転機能を管理します

先進運転支援システム (ADAS) ドメイン

カメラ・モジュール、レーダー・モジュール、超音波モジュール、センサ・フュージョンを含め、多様なセンサの情報を処理し、ドライバーを支援するために決定を下します

インフォテインメント・ドメイン

ヘッド・ユニット、デジタル・コックピット、テレマティクス制御モジュールを含め、自動車内のエンターテインメントを管理し、自動車と外部の間で情報を交換します

ボディ・エレクトロニクス / ライティング・ドメイン

ボディ・コントロール・モジュール、ドア・モジュール、ヘッドライト制御モジュールを含め、車内の快適性、利便性、ライティングの各機能を管理します

パッシブ・セーフティ・ドメイン

エアバッグ制御モジュール、ブレーキ制御モジュール、シャーシ制御モジュールなど、安全性に関連する機能を制御します

1:一般的に ECU 5 つのドメインに分類

各種 ECU はネットワーク経由で通信とデータの交換を行います。ネットワークは各ドメイン内で固有で、そのドメインに適したものであり、同時に、外部ドメインに属する ECU との通信も行います。あるドメイン内のネットワークは、他のドメイン内のネットワークと異なる可能性があり、それに対処するためにゲートウェイがブリッジの役割を果たします。

図 1 に、ドメイン・ベースのアーキテクチャを採用した自動車を示します。この図では、1 つの集中型ゲートウェイ・モジュールが、車内のさまざまなドメインに接続されています。各ドメインは複数の機能を実行します。ドメイン・コントローラ、たとえば、パワートレインを担当する自動車の制御ユニットは、ゲートウェイ機能を搭載しています。このドメイン・ゲートウェイは、該当ドメインを構成する複数の ECU 間でのデータ通信、および該当ドメインから車内の他のドメインへのデータ通信を支援します。

また、ドメイン・コントローラは複数の ECU も搭載しており、通常は個別の ECU という形で実装される機能を統合することで、システム・コストの最小化に役立ちます。TI の Jacinto 7 プロセッサが搭載しているのは、未加工データの処理能力に優れた Arm® Cortex® A-72 コア、リアルタイム制御向けの Arm Cortex R-5F、高速ネットワークに適したギガビット Time-Sensitive Network (TSN) イーサネット・スイッチです。

 

1:ドメイン・アーキテクチャ

ゾーン・アーキテクチャの概要

仮に、自動車が 1 つの部屋であり、ECU がさまざまなトピックについて話し合うためにその部屋に集められた人々であると想定すると、ドメイン・アーキテクチャは無秩序な方法でそれらの参加者を配置していることになります。その結果、部屋全体に広がっている対話グループの他の参加者に聞こえるように、各参加者は大声で叫ぶ (長いケーブル配線とそれに見合った電力を使用する) 必要が生じます。

図 2 に示す自動車はゾーン・アーキテクチャを採用しており、車内での位置に基づいて ECU を編成し、車載コンピューティング・モジュールを追加します。この車載コンピューティング・モジュールは、機能にかかわりなくすべての計算を実行できる高い処理能力があるコンピュータです。この図はまた、複数のゾーン・モジュールと、それぞれに関連する複数のエッジ・ノードも示します。これらは、自動車のさまざまな領域に存在します。

さまざまなゾーン・モジュールと、集中型ゲートウェイやコンピューティング・モジュールの間で通信を行うために、コントローラ・エリア・ネットワーク (CAN) のような低帯域幅ネットワークを使用することも可能です。ただし、イーサネットのような高速ネットワークも適切な選択肢です。これらは、自動車の幅広い温度範囲でも、高信頼性かつ滑らかな動作を実現できるからです。集中型コンピューティング・モジュールとゾーン・モジュールの間で分散型コンピューティングを実施するうえで、PCIe はネットワークの適切な選択肢になります。

2:ゾーン・アーキテクチャ内にある複数のパワー・ディストリビューション・モジュール

パワー・ディストリビューションに関するゾーン・アーキテクチャの利点

エンジニアは ECU の再編成というこの手法の利点を活用し、パワー・ディストリビューション・アーキテクチャを最適化することもできます。特に、自動車内にあるさまざまな負荷や ECU に対して電力を分配 (配電) するスマート・ジャンクション・ボックスの再設計が可能になります。具体的には、リレーやヒューズを半導体ソリューションで置き換えることができます。

ゾーン・アーキテクチャの場合、各パワー・ディストリビューション・ボックスが該当ゾーン内にあるモジュールに電力を供給できるように、複数のパワー・ディストリビューション・ボックスを分散配置します。図 2 に、ゾーン・アーキテクチャでの配電のコンセプトを示します。この図から、各ゾーンのパワー・ディストリビューション機能に、ネットワークのトラフィックを管理するゾーン・モジュールも統合していることが理解できます。この新しいパワー・ディストリビューション・アーキテクチャは、ハーネスとケーブルの重量を低減することにつながります。その結果、従来型の内燃機関 (エンジン) を搭載した自動車では燃費が向上し、バッテリ搭載の電気自動車では航続距離を延長できます。

ドメイン・アーキテクチャからゾーン・アーキテクチャへの移行 移行に役立つクロスオーバー・アーキテクチャ

自動車のアーキテクチャ全体を現在のドメイン・アーキテクチャから新しいゾーン・アーキテクチャへ移行するには、膨大な作業が必要です。新しいゾーン・モジュール設計の必要性に加えて、ほとんどの場合、新しいアーキテクチャをサポートするために、ソフトウェア全体を再開発し、再構成する必要があります。さらに、溶断式ヒューズを置き換え、自動車のハーネス全体を再設計したうえで、それらを徹底的に検証し、確認する必要もあります。  これらすべては、自動車のアーキテクチャを、クロスオーバー・アーキテクチャのようなものに移行している、とも言えそうです。

図 3 に、既存のドメイン・アーキテクチャと新しいゾーン・アーキテクチャを組み合わせたクロスオーバー・アーキテクチャを示します。これらのアーキテクチャは、ドメインと、それらに対応するエッジ・ノードを引き続き維持しています。ゾーン・アーキテクチャ内の集中型コンピューティングは、先進運転支援システム (ADAS)、車内インフォテインメント (IVI)、車両制御ユニット (VCU) の各コンピューティング・モジュール、および対応する集中型コンピューティング・モジュールとの直接の通信を行うドメイン固有のエッジ・ノードに再分割できそうです。クロスオーバー内のゾーン・モジュールはおそらくパワー・ディストリビューションを重視し、ゾーン内にあるエッジ・ノード全般に対するゲートウェイをあまり重視しないと考えられます。つまり、ゾーン・モジュールは、従来のボディ・コントロール・モジュール (BCM) によく似ています。ただし、ゾーン・モジュールは車内に複数存在している点が異なります。

  

3:クロスオーバー・アーキテクチャ

まとめ

ECU の数が増加するにつれて、自動車のアーキテクチャはドメイン・アーキテクチャへと進化してきました。このアーキテクチャは、各 ECU が実行する機能に基づき、互いに関連のある複数の ECU をグループ化する方式です。ただし、この場合はネットワークとパワー・ディストリビューション両方の複雑さが高まるという短所があります。自動車の設計者は現在、ゾーン・アーキテクチャをベースとする自動車を設計しています。第 1 世代の自動車は、データとパワー・ディストリビューションの両方を最適化するために、クロスオーバー・アーキテクチャを採用しています。この新しいゾーン・アーキテクチャは最終的に、ハーネスとケーブルの重量を低減することにつながります。その結果、従来型の内燃機関 (エンジン) を搭載した自動車では燃費が向上し、バッテリ搭載の EV では航続距離を延長できます。

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