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商用と住宅用の両方で使用できる、標準的な電気自動車 (EV) 充電ステーションのデザインには、エネルギー計測機能、AC と DC の残留電流の検出機能、安全基準に準拠するための絶縁機能、駆動機能を備えたリレーと接触器、双方向通信機能、保守とユーザー向けのインターフェイスが含まれています。充電ステーションの目標は電力を効率的に自動車に転送することですが、電力転送を実装することは、充電ステーションの役割の手始めにすぎません。

IHS Markit の最新のレポート (英語) によれば、2030 年までに推定 2,000 万の公共 EV 充電ステーションがグリッド (商用電力網) に接続され、住宅用の充電ステーションも需要に対応して大幅に増加する見込みです。EV 充電ステーションの設計には、特有の課題がいくつか伴います。EVSE (electric vehicle supply equipment:電気自動車給電機器) は、通信、安全、セキュリティに関する機能を搭載する必要があるほか、グリッド統合という将来像に対応できるように、容易なアップグレード・パスを用意することも重要です。この記事では、TI の Sitara『AM625』プロセッサを使用した、Level 2 AC (レベル 2 の交流) EV 充電ステーション向けのスケーラブルなハードウェアとソフトウェアのデモで提示されている、設計上の 3 つの検討事項を紹介します。


デモ・ビデオ:Sitara『AM62』プロセッサを採用して V2G (自動車からグリッド) 通信機能を搭載したスマート EV 充電ステーション (英語)

設計上の検討事項 1:将来の通信規格とグリッド統合に関する理解

将来の EV は、電力需要が大きいとき、または停電時に、バッテリに蓄積したエネルギーをグリッドに返すエネルギー源の役割を果たすと予測されています。このようなエネルギーの双方向交換の可能性を考慮し、それを管理することは、グリッド統合の 1 つの側面です。その結果、通信機能は、EV 充電ステーションの重要な設計検討事項になります。自動車の充電ポイントからグリッド、および充電ステーションからクラウドの両方で、フロント・エンド (ユーザーから容易に認識できる機能) とバック・エンド (内部機能) の間の通信を設計する場合、図 1 に示すように充電プロセスがデータ、安全性、セキュリティに関する各種規格を満たす必要があります。

 図 1:V2G 技術

ISO (国際標準化機構) 15118 規格は、EV と充電ステーションの間の双方向通信プロトコルの概要を規定しており、自動車の識別、充電制御、充電ステータスに関する情報を交換することで、プラグ・アンド・チャージ (接続してすぐに充電) のような機能を実現できます。ISO 15118 規格への適合を、フロント・エンドとバック・エンド間の通信に関する要件に含めることで、現時点の規定に準拠できるだけでなく、グリッド統合という将来像を踏まえた持続性のある設計を実現できます。

プロセッサの統合とソフトウェアの機能に関して現時点で適切な水準を選択すると、近い将来のグリッド統合に関してシンプルな最適化を実現できます。図 2 に示す EV 充電の設計で使用する Sitara 『AM625』 には、メインライン Linux® カーネルと標準的な SDK (ソフトウェア開発キット) が付属しているので、保守の効率化と更新の簡素化が可能になります。また、『AM625』プロセッサは IP (知的財産) を保護するために、内蔵ハードウェア・セキュリティ・モジュール (HSM) を使用したセキュア・ブートもサポートしています。また、高度なパワー・マネージメントのサポートにより、アイドル時にシステムの消費電力を最適化できます。

 図 2:AC チャージャのブロック図と DC チャージャのブロック図

設計上の検討事項 2:AC または DC のフレキシブルな充電を実現できるように、モジュール・ベースの設計を活用

EV チャージャにとって最適なコネクティビティ・ソリューションを判断するには、使用事例、設置環境、グリッド統合に向けたスケーリングについて検討する必要があります。商用 EV チャージャは通常、請求配分や自動車データの詳細情報を管理するためにクラウド・コネクティビティを必要とします。また、複数の充電ポイントの間で一元的なデータ管理を行う可能性を検討する必要が生じることもあります。住宅用のチャージャは最終的に、スマート・ホームの延長線上に位置付けられ、有線とワイヤレスの各種既存ネットワークへの統合が必要になります。

Open Charge Point Protocol (OCPP:オープン規格の充電ポイント・プロトコル) は、充電ステーションと、データ交換を管理する充電ステーション・ネットワークとの間で定義される通信の規格です。このプロトコル向けの設計を行うには、複数のコネクティビティを想定したオプションが必要であり、イーサネット、携帯電話網、Wi-Fi®、Sub-1GHz いずれかの信号を使用して実現できます。

OCPP 対応を通じてフレキシビリティの課題に対処するには、EV チャージャが複数のコネクティビティ・オプションを採用する必要があります。たとえば、Wi-Fi は一般的に幅広く普及しています。そのため、Wi-Fi を使用して EV チャージャを既存のインフラに接続したり、有線接続が可能ではない場合に充電ステーション・ネットワークとのローカル・コネクティビティを確保したりできます。地下駐車場のような条件の厳しい RF 環境に EV チャージャを導入する場合は、接続の信頼性を確保するために、LTE よりも Sub-1GHz のような周波数の低い通信の方が適しています。設計が商用と住宅用のどちらを意図している場合でも、またチャージャの場所がどこであっても、設計にはフレキシブルかつ信頼できるコネクティビティ・ソリューションが必要です。

適切なコネクティビティ・ソリューションを選択する際には、より高い動作温度範囲をサポートし、極端な温度変化が発生する非常に過酷な環境であっても安定的な接続を確保できる必要があります。また、商用ネットワークやホーム・ネットワークとの相互運用性も確保する必要があります。TI の 『WL1837MOD』WiLink 8 モジュールは、優れた RF 性能に加え、他の Wi-Fi デバイスとの間で信頼性の高い相互運用性を実現します。また、プロビジョニングと導入が容易になるように、Bluetooth も内蔵しています。実製品の開発に対応した、マルチコア Arm® をベースとしたプロセッサ・システム・オン・モジュール (SoM) である Phytec の Phycor-am62x と組み合わせることで、『WL1837MOD』は、サード・パーティー・ソフトウェアとの統合を容易にするエコシステム・ソフトウェア互換性と、OCPP 2.0.1 およびそれ以降との将来の統合や最適化に対応するアップグレード・パスの両方を実現できます。

設計上の検討事項 3:セキュリティと安全性のオプションを通じた将来性の管理

ISO 15118 と OCPP 2.0.1 が将来的に自動車とユーザー両方のデータに関して詳細情報を増やしていく方向に進化している点を考慮すると、コネクティビティと通信の両方にとってセキュアなソフトウェアが不可欠です。EV 充電のスケーラブルな将来を実現するうえで、プロセッサは重要な役割を演じます。つまり、データの品質と充電レベルに関するシステム・モニタとして機能すると同時に、支払いや自動車データの詳細情報を伝達するセキュアなゲートウェイを実現する、複合的な役割を果たします。

ISO 15118 のアプリケーション層とトランスポート層の両方がデータ・セキュリティを実現します。TLS (トランスポート層セキュリティ) 1.2 またはそれ以降は、トランスポート層の通信を暗号化します。ISO 15118-2 で TLS が必須になるのは、プラグ・アンド・チャージの識別メカニズムを使用する場合のみですが、将来の ISO 15118-20 規格では、あらゆる使用事例とあらゆる識別メカニズムで TLS が必須になります。『AM625』 は、以下のようなオンボード HSM セキュリティ機能を備えています。

  • セキュア・ブート
  • セルフ・プログラマブルなハードウェア (eFuse) キー
  • 暗号化ブートと認証ブートのサポート
  • デバッグ (JTAG) ポート
  • セキュリティ強化デバイスではデフォルトでポートを閉鎖
  • eFuse の設定により、永続的な閉鎖が可能

各種 EV 充電ステーション設計が採用している安全性には、セキュア・ケーブルによる接続、地絡の監視、リレーの駆動、高電圧絶縁など複数の要素があります。TI のモーター・ドライバ IC である『DRV8220』は、内蔵 H ブリッジ、ロジック制御機能、保護機能を搭載しており、プラグ・ロック、地絡の監視、リレー・ドライバを容易に実装できます。

まとめ

EV 充電分野は進化の最中であり、標準化、インテリジェント化、効率化を進めています。長期的に予期されるグリッドとの統合に対応できるように、設計者はフレキシブルなコネクティビティとセキュリティを実現する必要があります。プロセッサ・ベースの適切な設計を選択するには、増加を続けるデータ処理の需要と、信頼性の高いソフトウェア・スタックのニーズについて検討する必要があります。

アプリケーション・ブリーフ、デモ・ビデオ、TI のリファレンス・デザインを参照すると、Level 2 AC 充電に関する設計の詳細を確認できます。

EV 充電に関する追加のリソース:
EV 充電に関するデモ・ビデオ (英語) 
『TIDA-010239』リファレンス・デザイン (英語)
+ブログ記事:『高速でフレキシブルな EV充電ネットワークの構築

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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年6月22日)より翻訳転載されました。
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