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電気自動車 (EV) の普及が進むにつれて、車両をさらに手頃な価格に抑えながら、本来の航続距離を実現できるようにすることが、自動車メーカー各社にとっての課題となっています。これは、バッテリ・パックのコスト削減と同時に、エネルギー密度を高めることを意味します。航続距離を延長するには、セルに充電する電力を 1 ワット時 (Wh) でも増やし、また確実に取り出せるようにすることが不可欠です。

バッテリ管理システム (BMS) の主な機能は、セル電圧、パック電圧、およびパック電流を監視することです。加えて、BMS では高電圧設計を採用している関係上、バッテリ構造内の不具合を検出し、危険な状況からバッテリを保護するために、高電圧ドメインと低電圧ドメインの間の絶縁抵抗を測定する必要もあります。 

1:従来型の BMS アーキテクチャ (a) インテリジェントなバッテリ・ジャンクション・ボックス (BJB) を採用した BMS アーキテクチャ (b)

図 1 に、バッテリ管理ユニット (BMU)、セル・スーパーバイザ・ユニット (CSU)、バッテリ・ジャンクション・ボックス (BJB) から構成される一般的な BMS アーキテクチャを示します。BMU は通常、マイコン (MCU) を搭載しています。マイコンは、バッテリ・パック内のすべての機能を管理します。従来型の BJB はリレー・ボックス、またはスイッチ・ボックスに電力接触器 (リレー) を組み合わせたものであり、この接触器はバッテリ・パック全体を負荷側のインバータ、モーター、バッテリ・チャージャのいずれかに接続します。

図 1a に従来型の BMS を示します。この種のジャンクション・ボックス内には、アクティブな電子回路はありません。BJB 内のすべての測定は、BMU によって実施されます。BJB を A/D コンバータ (ADC) の各端子に接続する複数の配線が存在しています。

図 1b にインテリジェントな BJB を示します。このボックスの内部には専用のパック・モニタがあり、このモニタはすべての電圧と電流を測定し、シンプルなツイスト・ペア通信を使用してその情報をマイコンに渡します。これによって複数の配線やケーブル・ハーネスが不要になるだけでなく、ノイズが減少し、電圧と電流の測定機能が向上します。

電圧、温度、電流の測定

図 2 に、BQ79731-Q1 をバッテリ・パック・モニタとして使用する BJB 内部で、パック・モニタが測定するさまざまな高電圧、電流、温度を示します。

2BJB 内部の高電圧測定

  • 電圧:高電圧は、分圧用の抵抗ストリング (抵抗ラダー) を使用して測定します。これらの電圧測定値を使用して、システム内にある各種高電圧部品の状態を監視します。
  • 温度:温度測定値を使用すると、マイコンが補償を適用できるようにシャント抵抗の温度を監視したり、接触器の温度を監視して、通常の動作条件を超えるストレスが接触器に加わっていないことを確認したりできます。
  • 電流:電流測定値は、次のいずれかに基づきます。
    • シャント抵抗:EV (電気自動車) 内の電流は最大で数千アンペア (A) に達することがあるので、シャント抵抗は 25μΩ ~ 50μΩ の非常に小さい値にします。
    • ホール効果センサ:絶縁状態を維持しながら高電圧レールで EV の電流を測定するために使用します。そのダイナミック・レンジは通常は限定されているので、範囲全体を測定するために、システム内に複数のセンサを配置する場合もあります。

過電流障害の検出と保護

短絡、高電圧端子への接触、機器の故障などの事象が発生した場合にバッテリ・パックの致命的な損傷を防ぐために、BMS 内では過電流事象の検出と防止が必須です。BJB ユニットに内蔵の過電流回路は、シャント抵抗またはホール効果センサとバッテリ・パック・モニタによって測定された、電流センス情報を使用します。この測定値はバッテリ・パック・モニタ内で処理され、スレッショルドと比較されます。同時に、バッテリ・パック・モニタには、複数の専用出力を通して過電流事象を信号伝達する機能もあるので、ヒューズ・ドライバはこの信号を使用して高電圧セパレータ (パイロヒューズ) を遮断することができます。この応答時間はできるだけ高速化する必要があるため、バッテリ・パック・モニタ・デバイス内に専用の信号処理パスを実装しています。

電圧と電流の同期処理

電圧と電流の同期処理とは、パック・モニタとセル・モニタの間で電圧と電流のサンプリングに時間遅延が生じるのに対し、それらを同期させるための対策を意味します。これらの測定値は主に、電気インピーダンス分光法 (electro-impedance spectroscopy:EIS) を通じて、充電状態と正常性状態を計算する目的で使用します。セル全体で電圧、電流、電力を測定してセルのインピーダンスを計算することにより、BMS は自動車の電力の瞬時値を監視できます。

電力とインピーダンスに関して最も高精度な推定を行うには、セル電圧、パック電圧、パック電流の時間同期を実施する必要があります。特定の時間区間内に複数のサンプルを取得する場合、この区間を同期区間と呼びます。同期区間が短いほど、電力推定値またはインピーダンス推定値の精度は高くなります。充電状態の推定値の精度が高いほど、ドライバーが取得できる残り航続距離情報の精度も高まります。

同期処理の要件

次世代 BMS は、電圧と電流を 1ms 未満の区間で同期測定する必要があります。ただし、この要件を満たすには、いくつかの課題が存在します。

TI のバッテリ・モニタは、セル・モニタとパック・モニタに対して ADC 変換開始コマンドを発行する方法で、時間的関係を維持することができます。また、これらのバッテリ・モニタは、デイジーチェーン・インターフェイス経由で ADC 変換開始コマンドを送信する際の伝搬遅延を補償するために、ADC サンプリングの遅延機能をサポートしています。

リモート・デバイス通信のサポート

インテリジェントな BJB のもう 1 つの利点は、多用途のデイジーチェーン・インターフェイスを使用して、データ通信を効率化できることです。このインターフェイスは、バッテリ・パックとバッテリ・セルの各モニタ・デバイスとの通信に加えて、自動車内のさまざまな物理的位置に配置されたモジュール内にある EEPROM メモリや各種センサのようなリモート・デバイスとの通信にも使用できます。この場合、パックとモニタ・デバイスは、デイジーチェーン・インターフェイス経由で送信される I2C または SPI のデータに対してインターフェイス変換の役割も果たします。その結果、複数の配線やケーブル・ハーネスが不要になり、EV 全体の重量を低減できます。

自動車業界が電動化を進めるために膨大な開発作業を実施している中で、ジャンクション・ボックスにエレクトロニクスを追加して BMS の複雑さを低減しながら、システムの安全性を高めることが求められています。パック・モニタは、リレーの前後それぞれの電圧と、バッテリ・パックを流れる電流を局所的に測定できます。電圧と電流の測定精度の向上は、バッテリの最適な使用という成果に直結します。TI の BQ79631-Q1 と BQ79731-Q1 は、システムに必要な機能すべてを 1 つのデバイスに統合することで、インテリジェントな BJB の性能最適化と将来のコスト削減に貢献できます。電圧と電流を効果的に同期させることで、正常性状態、充電状態、および EIS (電気インピーダンス分光法) 計算の精度が向上し、EV バッテリの使用を最適化できます。

加えて、バッテリ・セル・モニタ・ファミリである TI の BQ79616-Q1 と BQ79718-Q1 は、CSU (セル・スーパーバイザ・ユニット) 実装の一部としてセルの電圧と温度を高精度測定できるので、包括的な BMS エコシステムの構築に寄与します。

参考情報

次のホワイト・ペーパーもご確認ください。『自動車電動化に関連するバッテリ管理分野での機能安全に関する検討事項

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