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世界各地でハイブリッド車 (HEV) と電気自動車 (EV) の成長が続いている現状で、これまで以上に多くの車載システム開発者が、競争上の優位性を維持できるように革新を進めています。HEV/EV のパワートレイン・システムの差別化は従来から重要な注目領域でしたが、市場をリードする各企業では現在、HEV/EV の温度管理機能、つまりエアコン (HVAC) システムの差別化についても無視できなくなっています。温度管理システムは、HEV/EV (パワートレイン・システムに次いで) 2 番目に多くの電力を消費します。その消費電力は、航続距離に直接影響します。

内燃エンジン (Internal Combustion Engine:ICE) は数十年にわたって、自動車の走行系と HVAC システムの動力源になってきました。一方、HEV では ICE のサイズが縮小され、EV では ICE を省略しているので、HVAC システムに 2 つの付加的なコンポーネントを導入することになります。

  • ブラシレス DC (BLDC) モーターは、エンジンの代わりに AC コンプレッサを回転させる役割を果たします。
  • 暖房の場合、エンジンの代わりに、PTC (正温度係数) ヒーター、またはその代替となるヒート・ポンプが熱媒体 (水など) を加熱します。ヒート・ポンプを使用する場合、バッテリの熱管理機能はバッテリの熱を車内に移動します。ヒート・ポンプを統合すると、重量の軽減、航続距離と時間の延長、コストの削減という最終的な成果につながります。

1 をご覧ください。

 

1HEV/EV の冷暖房システム

この記事では、この種の電子式 HVAC アプリケーションに関連する設計課題の概要を提示し、リアルタイム制御の性能、スケーラビリティ、コストを活用して、それらの課題に対処する方法を説明します。

信頼性が高いリアルタイム制御の性能

市場をリードする電動コンプレッサ (e-compressor) システムの主な特長は、大きい起動トルク、高効率、小さい可聴ノイズ、小さい EMI (電磁干渉) です。

ここで、HVAC の性能にとって非常に重要な複数の要素と、それらを考慮することの重要性についてまとめます。

  • 大きい起動トルク:電動コンプレッサのように慣性の大きいシステムは、コンプレッサのモーターをできるだけ迅速に所定の速度で回転させるために、大きい起動トルクを必要とします。そうすれば最終的に、HVAC システムを使用するエンド・ユーザーの快適性や利便性が向上します。
  • 高い効率:電動コンプレッサ・システムは、約 5kW という大きい電力を消費します。これは、HEV/EV の車内でパワートレイン・システムに次ぐ大きさです。したがって、効率の改善を通じて HVAC の電力を節減すれば、航続距離を延長できます。HEV/EV の開発者と消費者にとって、航続距離は重要な懸案です。
  • 小さい可聴ノイズと小さい EMIICE (エンジン) を搭載した自動車の場合、エンジンがすでに可聴ノイズを生成しています。それに比べると、HVAC システムに由来するノイズは無視できる大きさです。一方、EV/HEV の場合、HVAC が作動していない場合は非常に静粛であるのに対し、作動中は可聴ノイズがはっきり聞こえます。HEV EV は、電動コンプレッサが必要とする BLDC モーターや電子回路に由来する EMI の影響も受けやすくなります。HEV/EV が搭載する電動コンプレッサは、既存の他のシステムの動作に影響を及ぼす可能性のある電磁ノイズや、消費者の運転環境に影響を及ぼす可聴ノイズを生成しないのが理想です。
  • 電動コンプレッサ製品の品質がシステムのリアルタイム制御の性能から直接の影響を受けるのに対し、従来型の PTC (正温度計数) ヒーターはリアルタイム制御なしで全機能を果たせます。設計者はこれらの製品を差別化するために、主にコストを重視することになります。PTC ヒーターは (1 個の抵抗を使用して) システム全体に流れる電流を測定し、制御することで、最終的に車内の温度を制御します。
  • 複数のモーターを単一システム内に統合することを前提にすると、ヒート・ポンプは確かに強力なリアルタイム制御の性能に依存します。システムとマイコン (MCU) のアーキテクチャは、統合型のヒート・ポンプ・システムを効率的かつ優れたコスト効率で制御するうえで重要な役割を果たします。

2 のブロック図に、TI C2000Tm リアルタイム・マイコンのアーキテクチャとペリフェラルを活用し、マルチモーター制御を通じてヒート・ポンプ・システムを実現する方法を示します。

 

2C2000 リアルタイム・マイコンを使用して制御するヒート・ポンプ・システム

スケーラビリティ

世界各地の OEM (自動車メーカー) 各社が提示するトレンドは進化を続け、要件も多岐にわたることを踏まえると、複数のアプリケーション要件にわたってスケーリングできる、互換性の高いプラットフォームの活用は優先事項の 1 つになります。車載の HVAC コンプレッサ、PTC ヒーター、ヒート・ポンプの設計に対してプラットフォーム・ベースのアプローチを採用すると、開発期間の大幅な短縮と開発コストの大幅削減に役立ちます。特にマイコンの場合、パッケージの種類、ピン数、フラッシュ・メモリ、温度範囲、機能安全 (車載セーフティ・インテグリティ・レベル:ASIL-B)、サイバーセキュリティ、通信インターフェイス、コストに関する多様なオプションを取り揃えることは、車載 HVAC の設計者がスケーラブルなプラットフォームを実現するうえで重要な要素になります。 

コスト

システムの部品表 (BOM)、開発リソース、開発期間は、いずれも車載 HVAC の開発者にとって大きなコストにつながります。(マイコンを含め) コスト効率の優れたコンポーネントや、スケーラブルなプラットフォームを活用できる能力、さらに各種リファレンス・デザインが、これらの懸案に対処するのに役立ちます。

TI 高電圧、HV/EV (ハイブリッド車と電気自動車) の HVAC (エアコン) eCompressor 向け、モーター制御機能のリファレンス・デザインは、高電圧と 5kW に対応するリファレンス・デザインで、C2000 リアルタイム・マイコンである TMS320F2800157-Q1 で制御する EV/HEV の電動コンプレッサ・アプリケーションを意図して製作したものです。このリファレンス・デザインは、HEV/EV の電動コンプレッサの設計時に、性能、スケーラビリティ、コストに関連して直面するいくつかの課題に対する解決策を提示します。

リファレンス・デザインの実際の動作を短いビデオ (英語) でご覧ください。EV HVAC eCompressor motor control (英語)

まとめ

HEV/EV の採用は、今後数十年間にわたって増加し続ける見込みです。HVAC の制御に電子系ソリューションを採用することも同様に増えていきます。これらの自動車内の車載 HVAC サブシステムが必要とする各種コンポーネントは、信頼性の高いリアルタイム制御、スケーラビリティ、コストなど設計上の課題をもたらすことになります。各種 C2000 リアルタイム・マイコンとリファレンス・ソリューションを活用することで、ICE (内燃エンジン搭載車) から HEV/EV HVAC システムへと円滑に移行できます。

参考情報

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