Yisong Lu(イソン・ルー)はブログ・シリーズのパート 1、2、3 で、三相同期モーターを対象とした複数の「センサレス」起動技法、特に、DRV10x シリーズの統合型モーター・コントローラにこれらの技法を適用する方法について説明しました。 一方、筆者は同じく三部構成のブログ・シリーズで、TI の高性能ソリューションである InstaSPIN-FOC™ で利用できる起動オプションについて説明する予定です。
センサレス制御は当初、動作時間の大半が高周波動作(機械的速度)であるアプリケーションに使われていました。 これは主に、ほとんどのセンサレス技法が、最小の周波数で回転している回転子によって生成される逆起電力信号を必要とする、という事実によるものです。 InstaSPIN-FOC ソリューションで使用されている FAST™ ソフトウェア・オブザーバの場合は、この最小動作周波数は他のオブザーバを使用する場合よりかなり低くなり、時には 1Hz 未満まで低下します。 しかし、依然として最小周波数での動作が必要です。
図 1: FAST ソフトウェア・オブザーバの動作周波数
InstaSPIN-FOC のデフォルトの起動機能は、パート I とパート II で説明されているコンセプトに似ていますが、迅速に起動できる(1Hz 未満)FAST の独自機能により、回転子の速度が非常に低い場合でも回転子の角度推定を高精度で実施することができるので、起動に使用する技法を適用する必要があるのはごく短い期間のみである、という結論が得られます。 堅牢な起動を実現するうえで、この事実は大きな利点であり、変動性の高い動的な負荷を使用するアプリケーションの場合は特にそう言えます。
InstaSPIN-FOC の主要な起動技法を「ForceAngle」(角度強制)と呼びます。 ForceAngle については、InstaSPIN User’s Guide(英語)のうち、特にchapter 14.3 で説明しています。
図 2: InstaSPIN-FOC システムで使用する、推定または強制された回転子フラックス角度
初期状態、および FAST が推定を高精度で実施して十分な BEMF(逆起電力)を測定できるようになるまでは、回転子フラックス角度は不明です。 ForceAngle ソフトウェア・フラグが無効な場合は、FAST オブザーバの角度出力は、フィールド・オリエンテッド・コントロール・システムが Park と Inverse Park を変換する目的で使用されます。 FAST が十分な BEMF 電圧フィードバックを取得するまでは、推定値は予測不可能です。 ただし、不正確ながらも推定角度がコントロール・システムに対して提示され、コントロール・システムはその値をモーターに適用し、回転子の動きを誘導することができます。 回転子の動きはわずかな量ですが、FAST が妥当な角度推定値まで収束することのできる十分な BEMF 電圧が生成され、その結果、制御された大きなトルク・ドライブにより、優れた動作領域を実現することができます。 したがって、回転子を移動させるための十分なトルクが生成される場合は、この方式を使用してモーターを起動することができますが、起動性能の観点ではこのトルクは整合性を欠いている可能性があります。
より安定化された起動を実現するには、ForceAngle フラグを有効にすることが推奨されます。 ForceAngle が有効な場合は、USER_FORCE_ANGLE_FREQ_Hz 変数によるユーザーの設定に従って、固定周波数で移動している回転子から角度のエミュレーションを実行する方法で、推定角度が生成されます。 FAST によって推定された周波数が、USER_ZEROSPEEDLIMIT に設定されているユーザーの記述した制限を上回るまでは、エミュレートされたこの回転角度が使用されます。 FAST が妥当な推定値を生成するには低速制限が必要ですが、実際に回転子がこの値を上回る速度で確実に駆動されるように、FORCE_ANGLE_FREQ を常に ZEROSPEEDLIMIT 周波数の少なくとも 2 倍より大きい値に維持しておくことをお勧めします。
たとえば、テストの結果、FAST が 2Hz で妥当な推定値を供給すると判断した場合は、次の 2 つの変数を以下のように設定します。
#define USER_ZEROSPEEDLIMIT (2.0 / USER_IQ_FULL_SCALE_FREQ_Hz)
// ForceAngle フラグが有効な場合は、USER_ZEROSPEEDLIMIT * USER_IQ_FULL_SCALE_FREQ_Hz = (ForcedAngle の代わりに FAST が使用する周波数制限):
#define USER_FORCE_ANGLE_FREQ_Hz (4.0)
// より堅牢な起動を実現するために、エミュレートされた励起が周波数制限を上回っていることを保証します。
このシリーズの次回投稿を引き続きお読みになり、起動時に十分なトルクを生成し、モーターをスピンアップする間はトルクを最大化する方法をご確認ください。
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
http://e2e.ti.com/blogs_/b/motordrivecontrol/archive/2015/04/28/motor-start-up-techniques-part-one
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