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太陽光発電と風力発電は、再生可能エネルギーを電力網(グリッド ) に供給しますが、それらを最大限活用するには電力の供給と需要の不均衡が、大きな制約となっています。例えば、太陽光エネルギーを十分に得られる正午ごろは、電力の需要があまり大きくありません。そのため、消費者が電力 1 ワットあたりに支払う料金は高くなってしまいます。

 

公益事業 (電力会社) 規模の、または住宅用、商用、産業用の各シナリオを想定したエネルギー ストレージ システム (ESS) アプリケーションは、日中に太陽光や風力のような再生可能エネルギー源からエネルギーを蓄積し、電力需要が大きい時間帯、またはグリッドの電力料金が高い時間帯に蓄積されたエネルギーを供給します。ESS は、ピーク時間帯にエネルギーを使用できるように蓄積することで、グリッドの安定性を高め、エネルギー コストを削減します。

 

一般的な種類の ESS 1 つであるバッテリ エネルギー ストレージ システム (BESS) については、設計上の課題がいくつか存在します。主なものとして、安全な使用法、バッテリの電圧、温度、電流の高精度監視、セル相互間やバッテリ パック相互間の強力なバランシング能力が挙げられます。ここでは、これらの各課題について詳しく見ていきます。

 

課題 1:安全性

最初の課題は、BESS の寿命全体にわたってバッテリの安全性を維持することです。通常、この寿命は 10 年を上回ります。BESS アプリケーションは多くの場合、リチウムイオン (Li-ion) バッテリ、特にリン酸鉄リチウム (LiFePO4) バッテリを使用します。

 

Li-ionバッテリは、電圧、温度、電流がその最大限度を上回った場合に発煙、発火、破裂を引き起こしやすい傾向があります。したがって、バッテリの電圧、温度、電流の各データを監視して保護することが非常に重要です。バッテリ管理システムは、それらすべてのバッテリ情報を収集し、いずれかのパラメータが規定範囲を超えている場合は充電や放電を防止します。したがって、バッテリの障害や、バッテリ管理システムの故障につながる潜在的要因を考慮し、分析する必要があります。

 

1 に、BESS アーキテクチャを示します。TI エネルギー ストレージ システム向けスタッカブル バッテリ管理ユニットのリファレンス デザインは、BQ79616 を使用するスタッカブル BMU(バッテリ管理ユニット) を提示します。このデザインは、冗長データ測定を通じて問題点を検出します。一方、エネルギー ストレージ システム向けバッテリ制御ユニットのリファレンス デザインは、システムの安全性を確保するスイッチ付きの BCU(バッテリ制御ユニット)を提示します。

1BESS アーキテクチャ

課題 2:高精度のバッテリ監視

高精度のバッテリ データは、安全性の確保とエネルギーの最大活用を実現します。LiFePO4 の充放電曲線に広く平坦な領域が存在することを考えると、セル電圧のわずかな測定誤差が、残り容量に関する大きな誤差につながる可能性があります。したがって、充電状態に関する正確な推定には、バッテリ電圧とバッテリ パック電流の高精度測定が重要です。高精度の充電状態情報は、誤ったセル バランシングを防止するための鍵となります。過充電と過放電のどちらも、バッテリで使用可能な最大エネルギーを無駄にする可能性があります。

 

もう 1 つの重要な測定値は、温度です。火災や破裂というバッテリ事故の大半は、バッテリの熱暴走によるものです。

 

2 に、TI のスタッカブル バッテリ管理ユニットのリファレンス デザインを示します。このデザインは、バッテリ モニタである BQ79616 を使用し、–20℃ ~ 65℃ の範囲で ±3mV という小さいセル電圧誤差を達成します。住宅用システムの場合、BQ76952 バッテリ モニタを使用することもできます。この製品は、-40°C ~ 85°Cの範囲で ±5mV のセル電圧誤差を達成します。マルチプレクサ スイッチによって温度測定チャネルの数が拡張され、各バッテリ セルとパワー バス コネクタの温度を監視できるようになります。スタッカブル バッテリのリファレンス デザインは、マルチプレクサ スイッチの診断チェックを実行できるように余分の温度チャネルを確保しています。

2スタッカブル バッテリ管理ユニットのリファレンス デザイン

ESS の充電状態監視を実行するには、高精度かつ高い信頼性の電流測定ソリューションも必要です。電圧と電流のセンサである BQ79731-Q1 は、電流センス用にデュアル 24 ビット A/D コンバータを内蔵しているほか、システムの安全性と電流データの精度の確保に役立つ複数の冗長チャネルを搭載しています。

 

課題 3:セルとバッテリ パックのバランシング能力

負荷の変動が原因で、バッテリ パックの電流消費速度は必ずしも一様ではありません。このような変動により、複数のパック間で残りエネルギーの不均衡が生じ、ESS 全体で使用できる最大エネルギーが低下します。また、新しいバッテリ セル間での不一致、または冷却条件の違いが原因で、たとえ 1 個のパック内であっても、セルの相互間で不均衡が生じる可能性があります。パッシブ セル バランシング トポロジは抵抗でバッテリのエネルギーを消費するため、パック レベルのバランシングには推奨されていません。パッシブ セル バランシングでは消費電力が過大になり、パックの発熱につながります。

 

製品の寿命全体にわたって、バッテリ パックの不均衡は悪化を続けます。既に説明したように、ESS の寿命は 10 年を上回ることがあります。一部のパックは、10 年間で他のパックより急速に経年劣化する可能性があり、ユーザーは経年劣化したパックを交換する必要が生じます。強力なパック レベルのバランシング回路を使用しない場合、ESS 内にある残りのパックとエネルギーがほぼ等しくなるように、だれかが新しいパックの充電または放電を行わなければなりません。そのような作業は難易度が高く、高コスト、かつ労力がかかることから、リスク要因にもなります。

 

バッテリ セルの不均衡は、セルの容量による影響も受けます。バッテリ メーカー各社は、ESS 全体で電力量あたりのコスト (ドル/kW ) を最適化するために、280Ah 314Ah、ときには 560Ah という、従来に比べ大容量のバッテリ セルの開発を進めています。より大容量のセルを搭載したパックは、パック内のすべてのセルが同量のエネルギーを継続的に供給できるように、より大きい実効バランシング電流を必要とします。

 

複数のパックをバランシングするには、いくつかの方法があります。図 3 に、エネルギー ストレージ システム向け、双方向 CLLLC 共振コンバータのリファレンス デザインを活用し、高電圧バスから 1 個の双方向絶縁型 DC/DC コンバータを経由して、複数のパックの充電と放電を行う 1 つの方法を示します。充電電流と放電電流を制御することで、絶縁型 DC/DC コンバータが複数のパックをバランシングし、残りの容量またはパックの電圧を互いに等しくします。充電電流と放電電流の両方がこの双方向 DC/DC コンバータを経由するため、全体の効率は低く、双方向 DC/DC コンバータの電力定格は大きくなります。

図3:バッテリ パックから高電圧バスに接続する双方向絶縁型 DC/DC コンバータ

図4:パックから低電圧バスに接続する双方向絶縁型 DC/DC コンバータ

まとめ

安全で信頼性の高いバッテリ管理システムは、Li-ion LiFePO4の各バッテリ パックの安全性に関する懸念を解消し、適切に設計された保護機能を通じて単一デバイス障害が発生した場合でも ESS の寿命を延長します。高精度なデータのセンシングとパック レベルやセル レベルのバランシングにより、同じ容量での充電と放電が可能になり、ソーラーや他の再生可能エネルギー源の最大活用につながります。その結果、エンド ユーザーは安全かつ安定的に、低コストの再生可能エネルギーを入手できるようになります。

 

参考情報

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