このシリーズの第 1 部で、TI の InstaSPIN-FOC™ テクノロジーを使用したセンサレスのモーター起動について、また第 2 部で、モーターを起動するときに十分なトルクを生成し、モーターが回転している間にトルクを最大化する方法の説明を続けました。 このシリーズの第 3 部そして最終回では、最大 100% つまり定格トルク出力に達する変動性の高い動的負荷を使用するアプリケーションでの課題に対処する方法について説明します。
連続角度トラッキング
問題を本当の意味で解決するには、速度ゼロや非常に低速で動作している時点で回転子フラックスの角度を継続的に推定できる能力に加えて、低速オブザーバと高速オブザーバの間での切り替えを安定した方法で実行できる能力が必要です。 この能力を実現できるようにする新しい一連のライブラリが、InstaSPIN-FOC テクノロジーとともに供給されています。 このライブラリは、2 つのパートで構成されています。
- IPD_HFI: 初期の位置検出(Initial Position Detection、IPD)、およびゼロ速度と低速での動作に対応する高周波注入(High Frequency Injection、HFI)
- AFSEL: IPD_HFI と FAST の間でのロジック切り替え
図 1: FAST と IPD_HFI を使用した動作の周波数
初期(速度ゼロ)の位置検出
IPD_HFI モジュールの IPD 部分は、固定子コイルを取り囲む鉄の BH 曲線を使用して、回転子の N 極、したがって d 軸を判定します。 以下の図に示すように、磁界の強さは BH 曲線の動作ポイントにバイアスを加える結果になります。 固定子コイルによって、正磁界と反磁界が印加されます。 磁界が両方とも正になった時点で、BH 曲線は飽和へと押し出されます。 磁界が反対になった時点で、BH 曲線の動作ポイントはリニア領域に向かって移動します。 BH 曲線のこれら 2 つの動作ポイントの間でのインダクタンスの違いに基づいて、IPD アルゴリズムは回転子の N 極がどこに配置されているかを判定します。
図 2. 回転子のさまざまな向きに対応する BH 曲線と相対位置
低速での位置検出
回転子の N 極の位置が決まった後、システム性能を最善の方法で制御するには、起動と FAST の間の非常に短い期間であっても、信頼性の高い方法で有効な角度を推定できるように、モーターが動作している間 N 極を常時追跡する必要があります。 IPD_HFI ソリューションでは高周波信号を使用して N 極を追跡します。 ただし、この機能は、モーターの設計で大きな突起が設けられていることを前提としています。 突起を導入するために、両極の間に残っている回転子の鉄の隙間を使用して、回転子の表面より下に回転子の磁石を配置します。 この構造を、突起のない表面を採用した設計と比較してください。
図 3: 突起ありと突起なしの回転子の設計
突起ありのタイプでは、周囲を取り囲む鉄に比べて磁気材料の相対透磁率がかなり小さいので、 フラックスが磁石の周辺に位置しているときの磁気抵抗の差は、鉄の経路での磁気抵抗より大きくなります。 回転子の角度が進むにつれて、磁気抵抗は周期的に変動します。 固定子コイルの地点でインダクタンス L を測定すると、以下のようになります。
図 4. 突起の大きい回転子のインダクタンス変動
IPD_HFI の HFI 部分ではこの情報を活用して、回転子が低速で回転している間に回転子の N 極を継続的に捕捉します。 回転子の角度として、S 極のピークではなく N 極を確実に捕捉できるように、IPD の位置を使用し、D 軸の N 極を初期値として HFI を初期化します。 このシグネチャを励磁するために使用する高周波信号は、モーターの時定数に基づいて選択するものです。
切り替えロジック
HFI アルゴリズムは低速時は非常に良好に機能しますが、最大速度制限があります。 この最大速度制限に達する前に、FAST のようなより高速なオブザーバに制御を切り替える必要があります。 低速(HFI)推定機能と高速(FAST)推定機能のどちらかを選択するモジュールは、AFSEL(Angle Frequency Select、角周波数選択)です。 AFSEL では、低速推定機能と高速推定機能の両方から入力される角度と周波数、および一方の推定機能からもう一方の推定機能に制御を渡すときの速度が必要です。
図 5. InstaSPIN-FOC と、FAST(EST)、IPD_HFI、AFSEL の組み合わせ
制約
突起ありのモーター設計が必要とされることに加え、主な制約の 1 つとして、モーターの突起部分を流れる電流による効果が生じることが挙げられます。 負荷がかかっているモーターを起動するには、必要なトルクを生成するために、モーターで十分な電流を消費する必要があります。 電流が増加するにつれて、磁気抵抗の変動は減少するので、インダクタンスの変動も減少し、HFI 部分はトルク生成を最大化するための十分な精度を維持して角位置を推定することができなくなります。 この点はテストする必要があり、モーターの設計と初期の突起(変動)によっても大きく左右されます。 いつでも、それが大きい方が、良い結果につながります。
実装例
「Torque Control」の実装例は、MotorWare revision 1.01.00.14(英語)以降の「proj_lab21」で公開されるようになりました。
当初、このプロジェクトでは、DRV8301 Rev D EVM インバータと TI 製 C2000™ Piccolo™ F28069 マイコンの組み合わせのみが公開されています。 MotorWare™ サポートの将来の改訂時に拡張が行われて、インバータとコントローラのこれ以外の組み合わせと、「Speed Control」のようなシステム例の詳細な説明が掲載される予定です。 InstaSPIN と IPD_HFI の詳細はこちら:www.ti.com/instaspin。
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
http://e2e.ti.com/blogs_/b/motordrivecontrol/archive/2015/06/26/motor-start-up-techniques-part-three
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