イーサネットは登場以来、急成長し、商業・企業市場で広く普及しています。イーサネットが産業用途でも広く普及したことは、明確に定義された規格と実装の容易さから見て、論理的な帰結でもあります(図 1 参照)。しかし、過酷な産業環境下でイーサネットの使用要件に対応するためには、さまざまな配慮と工夫が必要です。

 産業環境は商業環境とは大きく異なっており、独自の課題を克服する必要があります。産業環境下では、しばしば、高温、高電圧、大きなノイズ、機械的応力などの過酷な条件が存在します。産業グレードのイーサネット物理レイヤ(PHY)は、要求の厳しい環境下でもイーサネット・プロトコルに従って正しく動作しなければなりません。本稿では、産業グレード・イーサネット PHY に関して特に重要な 3 つの特性について考察します。

図 1:イーサネットは産業環境下で複数の異なるセクション間の通信ブリッジとして機能可能

1. 低レイテンシ:レイテンシとは、パケットが発信地から目的地に到達するまでの経過時間です。ネットワークを構成するさまざまなセクションが、ネットワークの総レイテンシに関係します。産業ネットワークの通信はタイム・クリティカルで、遅延は最小限かつディタミニスティック(確定的)でなければなりません。遅延時間の増加とパケット到着時間のばらつきは、システムの性能低下につながります。

標準的なイーサネットは非ディタミニスティック(非確定的)です。IEEE 802.3 規格は、イーサネットPHY のレイテンシの上限を規定していません。しかし、産業環境下では、イーサネット・トランシーバにとってレイテンシが低く、かつディタミニスティック(確定的)であることが非常に重要です。レイテンシが低く、かつディタミニスティック(確定的)であれば、応答速度が上がり、予見性が向上します。低レイテンシ環境下では、ネットワーク経由で伝搬する情報の到着待ち時間が短縮され、結果としてアプリケーションの実行速度が上がります。また、ディタミニスティック・レイテンシは、遅延を一定に保ち、異なるネットワークの同期機能を向上させます。

2. EMI/EMC の低減:電磁干渉(EMI)とは、システムが生み出す、意図しない電磁エネルギーです。他方、電磁適合性(EMC)とは、他のシステムから発生する電磁エネルギーの作用下で、システムが正常に機能する能力です。EMI と EMC はともに、電磁エネルギー発生源が複数存在する産業環境では重要なパラメータです。EMI 特性が劣るシステムは、大量の電磁エネルギーを放散し、周囲にある敏感なデバイスの動作を妨げるばかりか、無駄な放射を発生することから、エネルギー効率の低下を招きます。他方、EMC の劣る設計では、システムが過度に敏感になり、性能面で問題を引き起こします。EMC 特性の劣るシステムの性能は、Wi-Fi や携帯電話など、どこにでもある電磁波源の影響を受けやすくなります。

EMI/EMC に関しては、欧州規格(EN)、国際無線障害特別委員会(CISPR)、米連邦通信委員会(FCC)など、複数の機関が制定した規格が存在しており、世界では地域や市場ごとに適用される基準が異なります。デバイスを使用するための認証を取得するには、これらの規格に定められた要件に適合しなければなりません。これらの規格は、デバイスの最終アプリケーションによって異なります。産業市場の EMI/EMC 基準は、商業市場向けの基準に比べ格段に厳しくなっています。

3. ESD 保護:静電放電(ESD)とは、帯電した物体に接触した時にシステムに流れる電気のことです。ESD 現象は短時間で終わりますが、システムに膨大な量のエネルギーを注入することがあります。デバイスがそれに耐えられるように設計されていなければ、結果は甚大で、しばしばデバイスの破損につながります。ESD は目に見える損傷の痕跡を残すとは限らないため、複雑なシステムでは損傷したデバイスを探し出すのが非常に困難になります。ESD はパラメータとして非常に重要なため、国際電気標準会議(IEC) 61000-4-2 などの各種規格が設けられており、デバイスはそれぞれの最終用途に応じて、これらの規格に定める最小要件を満たす必要があります。EMI/EMC と同様、ESD 要件は産業市場では商業市場よりも厳しくなります。

産業グレードのイーサネット PHY は、低ディタミニスティック(確定的)レイテンシで、厳しいEMI/EMC 基準を満たし、ESD 現象への耐性を持つことが必要です。TI のイーサネット製品ラインアップはこうした要件に適合しており、世界の数多くの過酷な産業環境下で使用されています。上に述べた要件を満たすTI の最新製品の一つが、産業用ギガビット・イーサネット PHY ファミリの DP83867 です。400 ナノ秒未満という業界最小の低レイテンシと、IEC 61000-4-2 規格値を超える業界最高の 8kV という ESD 保護性能を実現しています。さらに、EMI 低減のための EN5501 Class B 標準に適合しています。

その他のリソース

 

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/industrial_strength/archive/2015/11/17/top-3-considerations-for-harsh-industrial-ethernet

*ご質問は E2E 日本語コミュニティにお願い致します。

 

Anonymous