(この技術記事はEduardo Bartolomeとの共著です。)

ポイント・オブ・ケア(PoC)分子診断市場の成長を後押しする主な要因は、感染症の有病率の高さ、オーダーメイド医療の認知と受容の拡大、そして、結果の正確さや可搬性の向上につながる分子技術の進歩です。PoC分子診断技術のおかげで、何日も検査結果を待たなくても初診時に迅速に診断して治療内容を決定できるので、医師はより良い標準治療を提供することが可能になります。この技術記事では、この種の検査について簡単に説明し、これらの機器の主要ブロックに使われる実際のいくつかのコンポーネントについて詳しく説明します。

 図1:PoC分子診断アナライザ機能に関する一般的な表現

大まかに言うと、生体の検体には、光学蛍光で検出可能なほどの目標DNAが含まれていないことがあります。そのため、解析にはDNAの増幅(クローン化/増殖)が必要です。増幅技術には主に、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)とループ介在等温増幅法(LAMP)の2つがあります。


予防、診断、治療。

TIは、世界中の人々のための革新的な医療システムの設計と製造を行う皆様の支援に力を入れています。TIのリソースをご覧ください。

PCRおよびLAMPの増幅技術には、ある種の加熱素子と冷却素子が必要です。PCRのプロセスに必要な熱電クーラー(TEC)は、異なる3つの温度による温度変化のサイクルを繰り返します。これらの温度変化には、検体を95℃に加熱、50℃~56℃に冷却、そして72℃の温度を維持することが含まれます。このサイクルを繰り返すことで、何十億ものDNAのコピーが合成されます。LAMP増幅のプロセスでは、加熱および冷却素子が検体の温度を60℃~65℃で一定に維持します。温度サイクルを無くすことで反応が促進されますが、より高度なプライマー・セットが必要にもなります。

TEC装置が適切に動作するには、核酸増幅プロセスに必要な加熱と冷却を監視するための高い温度精度が要求されます。デジタル温度センサ『TMP117』は、-40℃~100℃の温度範囲で±0.1℃(標準値)および±0.2℃(最大値)の精度を実現します。このデバイスに内蔵される16ビットADCは、I2CまたはSMBusを通してデジタル素子とやり取りします。バッテリで動作するシステム向けに設計された『TMP117』は、シャットダウン時の静止消費電流が150nA、1Hzの変換サイクルで必要な電流が3.5µAです。 図2:PoC分子診断アナライザ・センサ・フロントエンドのシステムブロック図

TECの駆動には、効率の良い加熱および冷却素子の動作のために、TPS54201が定電流(1.5A)を供給して『DRV8873』を駆動します。『DRV8873』は、最大10Aのピーク電流でモーターを双方向制御する4つのNチャネルMOSFETで構成され、電流センシング内蔵といった特長により2つの外付けシャント抵抗が不要になるため、BOMコストと面積が削減されます。詳細については、アプリケーション・レポート「ペルチェ素子(TEC)の駆動:効率とエージング」(英語)をご覧ください。

増幅が行われると、病原体の特徴を対象とする蛍光標識が光源により励起され、1つのフォトダイオードまたは1組のフォトダイオードが蛍光を検出します。時間(つまり増幅サイクル回数)に対する信号レベルが、検体に含まれる所定の病原体の初期濃度の指標になります。検体内に目標DNA部分がわずかしかなくても、増幅プロセスの早い段階でこのような信号レベルを測定できることで、陽性結果(目標のゲノム物質の特定)を得るまでの時間が短縮されます。DDCファミリを構成するデバイスは、1~256個のダイオードから同時に電流をサンプリングでき、電流アンプとADCを1つの回路に統合しています。これらのデバイスは、入力換算ノイズが非常に低く(RMSで1ピコアンペア未満)、入力バイアス電流が小さく(0.1pA)、最大24ビット分解能の高直線性ADCを備えます。

この種の検査に関係する複雑さは、いくつかの科学分野にまたがっており、この記事で扱う範囲を超えています。しかしながら、機器設計に欠かせない電子部品のいくつかを選択しようとする際の正しい方向を示すことができたと思っています。

参考情報
+アプリケーションレポート(英語):“RTD Class-AA Replacement With High-Accuracy Digital Temperature Sensors in Field Transmitters.”
+リファレンス・デザイン:ハードウェア・インターフェイス / 統合型電流センシング機能搭載、車載 10A H ブリッジ・モーター・ドライバの EVM
+ユーザー・ガイド(英語): DDC11xEVM-PDK
体外診断装置向け IC / リファレンス・デザイン.

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2020年5月20日)より翻訳転載されました。
※ご質問はE2E Support Forumにお願い致します。

Anonymous