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次世代のバッテリ管理システム(BMS)のワイヤレス実装により、電気自動車の内部から重い通信ケーブルを取り除き、走行距離と信頼性を向上

 

TIの電気自動車(EV)のワイヤレス・バッテリ管理システム向けの新ソリューションは、EVを軽量化し、1回の充電での走行距離を延ばし、最高レベルの機能安全性標準に準拠して信頼性を高める設計を可能にします。

電気自動車は、快適な内装や洗練された技術を誇っていますが、その下の車台には可能な限り多くのバッテリ・セルが詰め込まれています。セルが多いほど充電容量が大きくなり、より長い距離を走行することができ、これは消費者が大きく注目している特徴の1つです。

しかし、すべてのバッテリ・セルはモニタに有線接続される必要があり、モニタは重要な情報をコントローラに通知することで、バッテリの正常性とパフォーマンスを最大限に高めます。標準的なEVでは約100個のセルが直列に接続され、数メートルの配線長で数キログラムもの丈夫な銅線が使用されています。その結果、バッテリ管理ケーブルが迷路のように張り巡らされ、貴重なスペースを消費してしまいます。このすべてのケーブルの重量は、走行距離、信頼性、価格などの観点から邪魔な要素と認識されます。

TIの新しいワイヤレス・バッテリ管理システムのコンセプトは、独自のワイヤレス接続プロトコルと一連の電子チップを含み、システム・レベルの機能安全性準拠へのサポートを初めて公表するものであり、この重く、高価でメンテナンスを要する配線を不要にして、EV設計に新たな機会を生み出します。

 TIが自動車メーカーによるワイヤレス・バッテリ管理システムの実装をどのように支援しているかをご覧ください。

TIで車載製品マーケティング・エンジニアを務め、接続性を専門としているDaniel Torresは、次のように語っています。「ワイヤの心配をしなくて済むので、スペースを活用する新しい方法を考え出したり、異なるサイズや種類のバッテリを組み合わせて配置したりもできます」

BMS:陰に隠れた重要な構成要素

EVの所有者は、EVのバッテリ管理システムについて深く考える機会はあまりないかもしれませんが、バッテリ管理システムは、すべてのセルの電圧、電流、温度を監視している重要な構成要素です。
 
TIの車載バッテリ製品の製品ライン・マネージャであるAnkush Guptaは、次のように語っています。「他の何よりも、電気自動車の性能、信頼性、寿命を最大限に高めるのはBMSです。バッテリの電荷や他の動作特性を注意深く管理することで、各セルから必要に応じてより多くの電力を絞り出しながら、セルが早く消耗したり損傷したりするのを防ぎます。また、通信ワイヤをなくすことで、車両が軽量化し、高度なバッテリ機能を持つEVを設計するためのスペース効率、自由度、柔軟性を向上させることができます」

AnkushとDanielによれば、このようなエンジニアリングの成果は、多くの消費者が省エネで排ガスのないEVに移行する妨げとなってきた「距離の不安」、つまり電力を使い果たす心配を減らすことに直接つながります。

 

ワイヤレスBMSの力

ワイヤレス化は、電気自動車特有の脆弱性である、密集した配線やそれらを保持するハーネスに不具合が生じる可能性にも対処できます。

TIのパワートレイン・システム・エンジニアであるMark Ngは、次のように語っています。「ワイヤ・ハーネスやコネクタは、振動や湿度などの問題にさらされる機械部品です。これらはおそらく、バッテリ自体よりも修理を必要とする部品です」

ワイヤレスBMSには、そのような脆弱性は存在せず、電気自動車メーカーは最大の修理コストの1つを除外することができます。また、保守時のバッテリ自体へのアクセスも、より簡単で低コストになります。

さらにワイヤレスの利点は、バッテリが自動車内で使われている間に限られません。

長期間使用され、車両内での寿命を終えたEV用バッテリは、リサイクルしてデータセンタのバッテリ・バックアップ・ユニットや、太陽光発電や風力発電の設備に接続されるエネルギー・ストレージなどに再利用することができ、ワイヤレス機能によって監視も簡単になります。

Danielは言います。「セルは、工場のフロアから倉庫、そして自動車内、さらには取り外した後の保管まで、その寿命全体を通して監視する必要があります。それぞれの新しい状況でセルに線をつなぐ代わりに、棚に置いたまま無線でデータを読み取ることができます」

エンジニアリングの課題

このような目的を満たすワイヤレスBMSソリューションを設計することは、バッテリ管理、接続性、および車載システムに関する専門知識を持った社内全体のエンジニアによる緊密なコラボレーションを必要とするプロジェクトでした。TIで2.4GHz接続のマネージャを務めるRam Vedanthamは、要件が非常に困難なものであったと振り返ります。「ニーズの多くが互いに相反していました。早急に進めたい一方で、設計プロセス全体にわたって何時間ものブレインストーミングやホワイトボード・ミーティングを重ねる必要がありました」

例えば、ソリューションでは約100個のセルから数ミリ秒以内に2mVの精度でデータを収集するために高いスループットが必要であり、しかもノイズが多く条件の厳しい環境内で1,000万パケットあたり1つというエラー率が求められました。また、駐車中の車内の熱管理を監視しながらバッテリの消耗を防ぐために、チップはより低い電力で動作する必要がありました。

このような設計上の課題に対処するため、コネクティビティ チームでは、信頼性の高い独自のワイヤレス・プロトコルを作成して、2.4GHzワイヤレス・ネットワークのリアルタイムの可用性が不可欠な環境での通信を容易にしました。ドライバーがEVを始動させたとき、直ちにシステムがバッテリを管理し、リアルタイムで通信を行えるように、ネットワークはすぐに利用可能になる必要があります。

Ramは言います。「要は、車の始動時にボタン1つ押すだけで、ネットワークがすべての必要なコンポーネントを互いに接続するということです。ここで、新しい独自のワイヤレス・プロトコルの信頼性と性能が活かされます。私たちのチームでは、このプロトコルの機能によって、システム要件を満たすための性能、電力、機能のバランスが取れるように、設計上のトレードオフや意思決定を行いました」

チームは信頼性を犠牲にすることなくバッテリの性能レベルを高めるために、ワイヤレス接続の限界を押し上げる必要があったとAnkushは語っています。

業界初の機能安全性の実現

チームの作業に対する検証として、ソリューションは代表的な機能安全性評価機関であるTÜV-SÜDによる評価を受け、ASIL Dに準拠したシステム・レベルの機能安全性への対応を示す業界初のワイヤレスBMSコンセプトとなりました。ASIL Dには路上での安全性に関する最も高い整合性要件が含まれ、EVメーカーにおける重要な考慮事項の1つとなっています。また、このコンセプトは産業用アプリケーションのSIL 3についても評価され、準拠を示しています。

Markは言います。「お客様は、自分の車のシステムが安全で信頼できるかどうかに注意を払います。TIのシステム・レベルのコンセプトは、代表的な機能安全性評価機関による評価を受けた、ASIL D準拠の機能安全性への対応を示す初めてのソリューションです」

容易な実装

ワイヤレス・バッテリ管理システムは、多くの配線や再構成を必要としないため、実装も容易です。

「新しい車種や既存の車種にワイヤレスBMSを追加するのは非常に簡単で、すぐにスペースを節約できます」とRamは言います。その結果、さまざまな自動車メーカーが今後数年間に生産する自動車にワイヤレスBMSソリューションを搭載することを計画しており、この新しいテクノロジを次世代の車両に採用する動きは予想以上に活発です。

消費者にとって、ワイヤレスBMSは潜在的に、自動車の走行距離が延長することで、EVコストの低下に加え、より環境にやさしい車両となる可能性があります。

Ramは言います。「この用途に特化して開発された新しいワイヤレス接続プロトコルの使用により、TIのワイヤレスBMSソリューションは、性能と安全性の両面でEV業界を真にリードしていきます。自動車メーカーがこのテクノロジをこれまで以上に迅速にお客様に届けられるようになります」

Danielは付け加えます。「現在、EVを購入することは多くの人にとってコスト的に困難であったり、電池切れの心配があったりするかもしれません。ワイヤレスBMSは、電気自動車のより幅広い普及へと私たちを一歩近づける可能性があります」

情熱を注いで、より良い世界を創造

より軽量で長距離を走行可能な電気自動車のワイヤレス・バッテリ管理システム(BMS)を開発するお客様を支援することは、TIのイノベーターたちの情熱 ― 半導体を通じて電子機器をより求めやすい価格で提供することで、より良い世界に向け貢献する ― を体現しています。各世代のイノベーションを通じて、小型化、効率化、信頼性の向上、低コスト化を実現するテクノロジを構築してきました。新しい市場を開拓し、半導体は、あらゆる分野の電子機器に採用されるようになりました。TIでは、これをエンジニアリングの進歩として捉えています。TIが何十年にもわたって実践してきたことで、今日も受け継がれています。

※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。 
※上記の記事はこちらの技術記事(2020年1月6日)より翻訳転載されました。 
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