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産業用イーサネット・プロトコルはそれぞれに固有の歴史があり、産業用アプリケーションから見ると、それぞれ独自の利点があります。この記事では、3 つの主なプロトコル、EtherCAT、Profinet、マルチプロトコルの概要と、重要な利点について説明します。

産業用イーサネット

産業用イーサネットは、ファクトリ・オートメーション、ビル・オートメーション、および他の多くの産業用アプリケーションで使用されています。標準的なイーサネットに対する産業用イーサネットの 1 つの重要な利点は、確定的なリアルタイム・データ交換と、1ms 未満のアイソクロナス・サイクル時間です。

大半の産業用イーサネット規格は、標準的なイーサネットの MAC (メディア・アクセス制御) を使用して実装することはできません。代わりに、産業用イーサネット規格では、専用の ASIC (特定用途向け集積回路) または FPGA (フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ) が必要です。その理由は、イーサネット・フレームがカットスルー形式で受信されるからです。これは、最初のイーサネット・ポートがフレームを受信している最中に、専用の産業用イーサネット MAC ハードウェア・ブロックがそのフレームの処理を開始し、そのフレームを 2 番目のイーサネット・ポート宛に送信することを意味します。カットスルー方式を使用すると、1 つのイーサネット・フレームに関して、1μs というポート相互間の遅延を実現できます。

EtherCAT

EtherCAT (Ethernet for control automation technology、制御オートメーション・テクノロジー向けイーサネット) は Beckhoff Automation が考案した規格であり、2003 年以降は、EtherCAT Technology Group umbrella (EtherCAT、技術部会連合体) の管轄下にあります。技術的な側面では、EtherCAT は図 1 に示すように、コントローラと EtherCAT デバイスで構成されるネットワーク・アーキテクチャを採用しています。簡潔なライン・トポロジーをサポートするために、EtherCAT デバイスは 2 個のイーサネット・コネクタを搭載しています。EtherCAT ネットワークは、最大 65,535 台の EtherCAT デバイスをサポートできます。

 図1:EtherCAT フレーム・フローを備えたコントローラとデバイスのネットワーク例

EtherCAT フレームを生成するのは、EtherCAT コントローラ (マスター) のみです。すべてのデバイスは、このフレームを受信して処理します。最後のデバイスは EtherCAT フレームをループバックします。この EtherCAT フレームは、(それ以上処理されることなく)すべてのデバイスを経由してコントローラに返されます。EtherCAT フレームは、各デバイスに対応するプロセス・データを格納するためのスペースをあらかじめ保持しています。どのデバイスも、フレームの長さ自体を変更することはありません。

EtherCAT デバイスは、特定のイーサネット・ハードウェア (EtherCAT MAC) によるサポートを必要とします。各デバイスは、EtherCAT フレームが到着次第、着信フレームを処理する必要があるからです。代表的な実装は、図 2 に示すように、ASIC または FPGA を使用することです。「即座に処理する」とは、EtherCAT フレームの受信を実行している最中に、EtherCAT MAC がこのフレームを処理することを意味します。代表的な EtherCAT デバイスでは、受信フレームと送信フレームの間で、1μs というポート相互間遅延が生じます。

 図2:ASIC/FPGA と外部プロセッサを搭載した EtherCAT デバイス

EtherCAT デバイスに関する重要な特長および機能として、以下を挙げることができます。

  • 分散クロック - デバイスとコントローラの間で、高精度の時間同期手法を使用します。
  • ループバックを使用したリンクダウンの高速検出 (イーサネットの物理レイヤ [PHY] トランシーバによるサポートが必要) – リンクダウンを検出した時点で、『DP83822』または『 DP83826E』のようなイーサネット PHY は EtherCAT MAC にその旨を通知します。10μs 以内に、EtherCAT MAC は EtherCAT フレームをループバックします。

他のプロトコルとともに EtherCAT をサポートしようとする場合、ASIC または FPGA を使用すると、余分のコストとボード面積が必要になります。代わりとなるソリューションは、SitaraTm プロセッサが搭載している PRU-ICSS (プログラマブル・リアルタイム・ユニットと産業用通信サブシステム) ペリフェラルを使用することです。この場合、同じ IC を使用して複数の産業用イーサネット・プロトコルをサポートすることができます。

 EtherCAT の詳細については、こちらの記事 (英語) をご覧ください。

Profinet

Profinet (Process field network、プロセス現場のネットワーク) は、ファクトリ・オートメーションの分野で有力な産業用イーサネット規格の 1 つです。Profinet には複数のバージョンが存在しており、今回の記事では Profinet I/O (Profinet input/output) について説明します。

図 3 に示すように、Profinet は全二重の 100Mbps イーサネットを使用し、デバイスとコントローラで構成されるネットワーク・アーキテクチャを採用しています。このネットワークは、ネットワーク内でコントローラの役割を担当する Profinet コントローラと、デバイスの役割を担当する I/O デバイスで構成されています。Profinet はネットワーク・トポロジーの点で非常にフレキシブルであり、ライン・トポロジー、リング・トポロジー、スター・トポロジー、およびハブとスイッチ・デバイスを使用したそれらの組み合わせに対応しています。

 図3:オートメーション・システム内の Profinet ネットワーク (出典:Profibus International)

長年にわたり、Profinet 規格は市場の要件に基づいて進化を続けてきました。さまざまな種類の性能クラスは、単純に A、B、C と名付けられています。各性能クラスは、それより下位にあるクラスに対して性能と機能を向上させています。このアプローチにより、Profinet は以前の世代の Profinet デバイスとの下位互換性を維持しています。

ここで、各性能クラスの重要な機能を要約します。

Conformance class A (CC-A):

  • リアルタイム・イーサネット通信
  • サイクリック I/O
  • パラメータ構成
  • アラーム

多くの場合、この性能クラスは標準的なイーサネット MAC 上に実装されています。このデバイスは、2 個のイーサネット・ポートを必要としません。1 個の MAC で十分です。

CC-Bは、CC-A と同等の機能を実現し、さらに以下の機能を追加しています。

  • ネットワーク診断
  • トポロジ検出
  • システム冗長化

Profinet I/O のこのバージョンは、1ms 範囲内のサイクル時間でも動作します。

CC-Cは、CC-B や CC-A と同等の機能を実現し、さらに以下の機能を追加しています。

  • アイソクロナス・リアルタイム (IRT) として知られる、特定の Profinet フレーム用に帯域幅を確保
  • コントローラとデバイスの間での時間同期

Profinet I/O のこのバージョンは、最短 31.25μs のサイクル時間をサポートします。ただし、大半のアプリケーションは、250μs またはそれより長いサイクル時間でも正常に動作します。Profinet I/O の IRT バージョンを使用するには、専用の 2 ポート産業用イーサネット MAC が必要です。

 Profinet IRT の詳細については、こちらの技術記事 (英語) をご覧ください。

マルチプロトコル

提供されている産業用プロトコルの数が多いことが原因で、製品メーカー全体は単一の共通産業用イーサネット規格を定義できていません。むしろ、この分野は細分化されています。多くの主要メーカーは自社や顧客のニーズに適した具体的な産業用イーサネット規格を定義してきました。多くの場合、シリアル・ベースの既存フィールド・バスから、そのような産業規格が派生してきました。

製品に 1 つの産業用イーサネット規格を追加し、次いで認証団体からその通信インターフェイスの認証を取得する場合、固有の課題が発生します。多くのメーカーは、さまざまな規格を使用している多様な顧客へ自社の機器を売り込むために、複数の産業用イーサネット・プロトコルをサポートする必要があります。製品に複数のイーサネット規格を追加する 1 つの方法は、産業用イーサネット規格ごとに 1 枚の個別基板 (PCB) モジュールを製作することです。次いで、このようなモジュールの中から、一度に 1 枚をメイン・ボードに接続します。ただし、プロトコルを交換するには、常にハードウェアの変更が必要になります。その結果、部品表 (BOM) の観点で製品の複雑度が増し、複数の PCB モジュールの製作と、マルチチップ・ソリューションの供給も必要になります。

この課題を解決するために、設計者は SitaraTm Arm® プロセッサのような製品を使用することができます。これらのアプリケーション・プロセッサは PRU-ICSS を内蔵しており、この機能でマルチプロトコルの産業用イーサネットを動作させることができます。このソリューションの主な違いと利点を要約します。マルチプロトコル・サポートの詳細については、TI のデモ・ビデオ (英語)をご覧いただき、ソフトウェア(英語)を入手してみてください。

PRU は実行時に、デバイスのファームウェアから、産業用イーサネット・プロトコルをロードします。入手可能な PRU-ICSS のプロトコル・ファームウェア・リリースが対応しているのは、EtherCAT、Profinet、Ethernet/IP (インターネット・プロトコル)、HSR-PRP (High-Availability Seamless Redundancy-Parallel Redundancy Protocol、高可用性シームレス冗長性 - 並列冗長性プロトコル)、Field Basic です。それ以外に、Sitara プロセッサは CC-Link IE (Control and Communication Link Using Industrial Ethernet、産業用イーサネットを使用する制御と通信のリンク) Field basic プロセッサ SDKの一部という形でサポートしており、これを使用する場合はどのファームウェアも必要ありません。

このプロトコル・ファームウェアは、カットスルー・フレーム処理など、リアルタイムの重要なタスクを実行します。

PRU-ICSS を、スケーラブルかつ強力な Arm コア (Sitara プロセッサによって異なる、Cortex®-A8、A9、A15、または A53) と組み合わせると、ファクトリ・オートメーション向けの製品として、シングルチップ・ソリューションを製作することができます。その場合、この種の製品は PRU-ICSS のファームウェアをフレキシブルな方法で交換することにより、複数の産業用イーサネット規格での動作が可能になります。このような利点や、産業用イーサネットの重要なリアルタイム処理タスクを実行できる能力に加えて、PRU-ICSS には以下の特長もあります。

  • 外部 ASIC と FPGA のどちらも不要
  • BOM (部品表) と PCB 面積の節減、したがってコストも削減
  • 内部の高速メモリ・バス・インターフェイスを経由し、Arm プロセッサとの間で高速な I/O データ交換が可能
 マルチプロトコルの詳細については、こちらの記事 (英語) をお読みください。

専用型で最適化済みの EtherCAT 内蔵システム・オン・チップを使用して設計する、という課題に直面した場合、『C2000Tm F28388D』リアルタイム・マイコンが適切なオプションになります。925MIPS のリアルタイム信号処理能力を意識し、リアルタイム・レイテンシが非常に短い設計を採用したこれらのマイコンが搭載しているのは、超高速 ADC センシング・ユニット、リアルタイム計算とフレキシブルな高いスイッチング周波数に対応する DSP コア、アクチュエータ向けの高分解能 PWM (パルス幅変調)、および最大 1.5MB のオンチップ・フラッシュです。また、F28388D は EtherCAT を統合(英語)しており、AC サーボ・ドライブやロボットなどのアプリケーションに最適です。EtherCAT、Profinet、マルチプロトコルのどれを使用する場合でも、ここまでに説明したように、産業用アプリケーションの観点からはそれぞれに独自の利点があります。このホワイト・ペーパー(英語)で、産業用通信規格から適切なものを選択する際に役立つ詳細情報をご覧ください。

参考情報(英語):
+技術記事:
"How to select the right industrial Ethernet standard: Ethernet Powerlink"
"How to select the right industrial Ethernet standard: Sercos III"

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上記の記事はこちらの技術記事(2020年7月15日)より翻訳転載されました。 
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