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セキュリティを最大限に高める、産業界、オフィス、住宅などでの、ビデオ監視インフラが注目されています。この10年間で、カメラの技術は、イメージ・センサ、画像処理、コネクティビティ、人工知能による映像解析など、大きな技術的進歩を遂げてきました。ほとんどのカメラは、MIPI(Mobile Industry Processor Interface)を使用してイメージ・センサとビデオ・プロセッサに接続しています。これにより、さまざまな解像度のイメージ・センサを搭載したカメラのアップグレードが可能になります。図1は、ビデオ監視カメラ・システムを構成するさまざまな構成要素を示しています。

 1:基本的なインターネット・プロトコル(IP)監視カメラ

高解像度の画像や映像を求める絶え間ない要求が推進役となって、イメージ・センサの改良と技術革新が進んだことにより、解像度は320×240ピクセルから4096×2160ピクセル、さらにはそれ以上へと約10倍に増加しました。画素数の増加は、MIPIインターフェイスを通じてイメージ・センサからビデオ・プロセッサに伝送する必要があるデータが増えることも意味しています。IPカメラのイーサネット物理層(PHY)も、高画質ビデオの伝送を可能にするために10Mbpsから1Gbpsへの移行が必要だと考えられています。この点こそ、ビデオ圧縮アルゴリズムを実行するビデオ・プロセッサの能力が重要になるところであり、このアルゴリズムによってイーサネット・ケーブルで伝送されるデータ量を最小限に抑えます。

4K解像度で30fpsのイメージ・センサであれば、9.56Gbpsのデータ・レートで非圧縮ビデオを生成します。MIPIは、これほど高いレートやさらに高いレートもサポートするように設計されていますが、このレートでイーサネットを通じた伝送を行いながら非圧縮高解像度ビデオを保存するのは、経済的に成り立ちません(これには膨大な容量の記憶領域が必要になります)。H.265のような効率的なビデオ圧縮アルゴリズムを用いると、4Kイメージ・センサの画質を中程度に圧縮した状態でも、データ・レートの要求条件は10Mbps以下に下がります。イメージ・センサのメーカーはさらに高解像度のセンサを開発しようとしていますが、国際電気標準会議、国際標準化機構、国際電気通信連合などの標準化団体は、イーサネットによるビデオ・データ・レートを一定の動作状況下では10Mbps以下に制限するビデオ圧縮アルゴリズムを検討しています。

IPカメラの標準的なイーサネット・インターフェイスでは、仕様に基づいてケーブル長100mという制限を設けていますが、最小ケーブル長を1,000mに延長できる新しい技術があります。IPカメラからネットワーク・ビデオ・レコーダまでの距離は1km以上になることがあり、この距離を標準的なイーサネットで結ぶには、リピータの設置やファイバ・ケーブルの利用が必要になります。ある代替方法では、同軸ケーブル(RG-59)を使用して長距離を実現しますが、イーサネット信号をCAT 5eから同軸ケーブルに(また、その逆に)変換するパッシブ・アダプタが必要です。同軸ケーブル100mあたりのコストは、標準的なイーサネット・ケーブルのコストより高くなる傾向があります。

最近、米国電気電子技術者協会(IEEE)は、シングル平衡ペアの導線による10Mbps動作および関連する電力供給を目的とした新たなイーサネット規格IEEE 802.3.cgを策定しました。より具体的には、10BASE-T1L: IEEE 802.3 PHY仕様であり、これはシングル平衡ペアの導線を介した、少なくとも1,000mの長さ(二地点間接続向けのAWG18ワイヤを使用した長距離)にわたる、10Mbpsイーサネット・ローカル・エリア・ネットワーク向けの仕様です。今ではシングル・ペア・ケーブルでデータと電力の両方をサポートできるため、IEEE 802.3.cgを採用すると、ビデオ監視アプリケーションのコストを大幅に削減でき、ケーブルも容易に敷設することができます。


ビル・オートメーションにシングル・ペア・イーサネットを活用

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10BASE-T1L PHYは、シングル平衡ペアの導線による実効データ・レート10Mbpsの全二重通信を用いて、各方向同時に動作します。10BASE-T1L PHYでは、リンク・セグメントに沿って7.5Mbaudで伝送される3値パルス振幅変調(PAM3)を使用します。33ビットのスクランブラが、電磁両立性の改善に役立ちます。MII伝送データ(TXD<3:0>)が4B3T(four-binary three-ternary)でまとめて符号化されることにより、伝送されるPAM3シンボルの移動平均(DCベースライン)を制限内に保つことができます。管理データ入力/出力インターフェイスを用いて10BASE-T1L PHYのトランスミッタ出力電圧を1.0Vpp差動または2.4Vpp差動に設定すると、複数のケーブルでより長い通信距離を実現するのに役立ちます。

DP83TD510E』は、IEEE 802.3cgの10Base-T1L仕様に準拠した超長距離イーサネットPHYトランシーバです。本デバイスは、単一の3.3V電源で動作するように設計されており、IEEE 802.3cgの10Base-T1L仕様で規定されている2.4Vppと1.0Vppの両方の電圧モードをサポートしています。また、2,000mまでのケーブル長をサポートすることができ、これは超低ノイズの結合型レシーバ・アーキテクチャによって可能になります。本デバイスでは、プロセッサのMAC層との接続用に、MII(media-independent interface)、RMII(reduced MII)、RGMII(reduced Gigabit MII)、RMII低電力5MHzマスター・モードを提供しています。『DP83TD510E』診断ツールには、開発時のデバッグと現場での障害状態検出を容易にするために、時間領域反射率測定(TDR)、アクティブ・リンク・ケーブル診断(ALCD)、信号品質インジケータ(SQI)、マルチ・ループバック、一体型PRBSパケット発生器が含まれています。

シングル・ペア・イーサネット(SPE)ネットワークは、図2に示すようなビデオ監視アプリケーションに示されるローパス・フィルタを介し、同じシングル・ペア・ケーブルでデータ線に重畳して電力を供給するPoDL(power over data lines)もサポートしています。

 2:ビデオ監視におけるPoDLの事例

表1は、IEEE 802.3.cg規格がサポートするさまざまな電力クラスの一覧です。負荷に供給可能な最大電力は52Wであり、これはクラス15に規定されています。10より下の電力クラスは、IEEE 802.3.buがカバーしています。

表104-1a – クラス10~15に対するPSE、PI、PDのクラスごとの電力要件一覧表

クラス

10

11

12

13

14

15

VPSE(max) (V)

30

30

30

58

58

58

VPSE_OC(min) (V)

20

20

20

50

50

50

VPSE(min) (V)

20

20

20

50

50

50

IPI(max) (mA)

92

240

632

231

600

1579

Pclass(min) (W)

1.85

4.8

12.63

11.54

30

79

VPD(min) (V)

14

14

14

35

35

35

PPD(max) (W)

1.23

3.2

8.4

7.7

20

52

表1:IEEE 802.3.cg規格がサポートする電力クラス
出典:イーサネットのIEEE規格

クラス8および9(48V調整電力供給機器)またはクラス14および15(最大50~58V)であれば、動作するのに52Wもの電力が必要になるかもしれないIPカメラ用の所要電力レベルをサポート可能です。ほとんどのカメラ・システムにはこの電力で十分であり、内蔵ヒータを備えたものにも対応できます。改修が必要なビルの場合には、中間のソリューションとして、標準的なイーサネットとSPEの間で変換を行う変換器を用いることになるでしょう。図3は、IPカメラ・システムのコネクティビティに関する事例を示しています。

 図3:IPネットワーク・カメラのコネクティビティ

将来のIPカメラ製品は、電力供給機器用のポートを提供するネットワーク・ビデオ・レコーダと同様に、ケーブル敷設の容易なSPEをサポートするものと見込まれています。このように簡素なSPEネットワークを用いて圧縮ビデオの質を向上させることで、複雑さやコストを増大させずに、優れた監視が可能になります。

参考情報:
IPネットワーク・カメラ

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上記の記事はこちらの技術記事(2021年2月18日)より翻訳転載されました。 
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