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高い音や超音波が原因でガラスが割れる可能性がある、という話をこれまでにお聞きになったことはあるでしょう。では、超音波でガラスをクリーニングする、という発想についてはどうでしょうか。高精度の制御のもとで高周波の振動を引き起こすことにより、超音波技術でガラスの表面をクリーニングできます。この技術を使用すると、雨の日に雨滴を自動的に検出し、自動車のリア・カメラのレンズから自動的に除去することが可能です。ドライバーの操作は何も必要ありません。

この記事では、超音波レンズ・クリーニング (ultrasonic lens cleaning:ULC) 技術の概要と、セルフ・クリーニング・カメラ・アプリケーションの実現化にそれがどのように貢献しているかについて説明します。

超音波レンズ・クリーニング技術の仕組み

まず物理学から始めましょう。どの物体にも、その分子構造と幾何学的配列に従って決まる固有周波数があります。これは、その物体にエネルギーを印加した後、その物体が振動または共振する固有の周波数です。たとえば、ギターの弦をはじくと、弦は自らの固有周波数で振動します。同様に、ワイン・グラスを軽くたたくと、自らの固有周波数で振動します。特に、物体の固有周波数を見つけ、その周波数で物体にエネルギーを印加する動作を繰り返すと、新規に発生する波と既存の波が、相互に強め合う方向で干渉を引き起こします。その結果、これらは同じ位相を保ったままで強度を増します。この現象を共振と呼びます。

共振をより良く理解できるように、ブランコに乗っている誰かを押すことを想像してみてください。ブランコが後ろ側の一番高い位置まで来たタイミングでその人を前に押すと、その人はより高い位置まで揺れ動くようになります。一方、不適切なタイミング (たとえば、まだブランコが後ろに向かって動いている最中) でその人を押した場合、あなたはブランコの機械的エネルギーの一部を自分の腕で吸収し、ブランコの振動動作が達成していた高さを引き下げることになります。

ガラス、シリコン、ポリカーボネートを材料とするいずれのレンズにも、形状と厚さによって決まる固有周波数があります。それぞれの材料の固有周波数で超音波の振動 (人間の可聴範囲外にある振動) を加えると、材料は共振します。ガラス製物体の固有周波数で超音波を印加したときに、その物体が共振して最終的に割れるポイントに到達するのと同様、ピエゾ・トランスデューサと高度な半導体を使用して超音波の振動を高精度かつ特別なパターンで印加すると、物体の表面から水滴、ほこり、その他の汚染物質を効果的に除去することができます。次の図 1 に、超音波レンズ・クリーニング・システムの断面図を示します。その下の図 2 に、超音波レンズ・クリーニング・システムが水滴を除去するアニメーションを示します。超音波レンズ・カバーは通常、約 10μm という変位量で振動し、これは人間の目で識別できる変位量ではありませんが、このアニメーションでは動きを誇張して示しています。

図 1超音波レンズ・クリーニング・システムの一例

図 2超音波レンズ・クリーニング・システムが水滴を除去するアニメーション

この技術が重要な理由

米国運輸省 (U.S. Department of Transportation) は 2014 年に、2018 年 5 月 1 日以降に製造する自動車に対してリア・バックアップ・カメラ (後退用カメラ) を取り付けることを義務付けました。現在、米国内の一部の自動車は、最大 8 台のカメラと、LIDAR のような技術を使用する他の外部センサを搭載しています。

これらのカメラとセンサは、自らのレンズがきれいで、何もさえぎられていない場合のみ、正常に機能します。泥はねや雨滴が付着した場合、自律機能は簡単に無効になってしまいます。自動車のスマート化対応、安全性、洗練度合いは向上を続けているので、自律的な緊急ブレーキなどのアプリケーション向けに、これらのセンサがあらゆる気候条件で動作することを求める義務が生じる可能性も高そうです。医療機器の分野ではすでに、水を入れた容器による超音波クリーニング・システムが採用されていますが、機械設計、ソフトウェア・アルゴリズム、半導体統合に関する革新を通じて、超音波による表面クリーニング機能は、開放型の環境でも使用できるようになりました。また、セルフ・クリーニング方式のカメラ・レンズ技術は、自動車業界に限定されているわけではありません。カメラを採用しているほとんどのアプリケーションで、この技術を活用できます。たとえば、交通監視カメラ内視鏡マシン・ビジョン・カメラなどです。

他のクリーニング方式に関する検討

自動車を製造する OEM 各社はこれまでに、カメラ・クリーニング方式として、小型ワイパー、圧縮空気、回転レンズなどを実験し、一部は実際に採用してきました。残念ながら、これらの方式には、過度に複雑、高額、あらゆる状況で動作するわけではない、という欠点があります。一部の高級自動車は、目に見えないジェット水流を吹き付けてカメラ・レンズをクリーニングする機能を採用しています。これは、余分な配管と液体タンク容量を必要とするアプローチです。しかも、ジェット水流は雪や氷を除去することはできず、雨天のときは役に立ちません。

一方、超音波レンズ・クリーニング・システムは機械的な振動を使用して熱を迅速に発生させることができるので、雪や氷を溶かし、水を吹き飛ばすことができます。このシステムは水滴を自動的に検出し、振動を通じて霧化する方法で、レンズから継続的に雨滴を除去できます。適切なアルゴリズムと機械設計を採用すれば、これらのシステムは他の汚染物質、たとえばほこりや泥、場合によっては虫なども除去することができます。これは複雑に思えるかもしれませんが、特定用途向け半導体を採用すると、非常に小さいフットプリントでこの動作を実現できます。特定用途向け半導体の採用により、超音波による自動レンズ・クリーニング・システムを自己完結型にし、電源とオプションのデータ・ライン以外は外部からの支援を何も必要としない仕様を実現できます。

まとめ

安全で信頼性の高い自動車のニーズに対応するため、自動車業界は超音波レンズ・クリーニングを採用するだろうと筆者は予測しています。農業、交通カメラ、スポーツの動画撮影を想定した自律型システムなど、他の種類の最終製品も、この技術を採用する可能性があります。この技術には、性能上の利点、運用効率、メンテナンスの合理化という長所があるからです。超音波レンズ・クリーニングは、高い音でガラスを割るわけではありませんが、この技術には驚きの声を上げて歓迎するだけの価値があります。

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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年5月5日)より翻訳転載されました。
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