このブログ・シリーズのパート I では、「ブラインド」起動について説明しました。 「ブラインド」起動は、負荷条件が予測可能なアプリケーションでは特に、モーターをスピンアップするうえで非常に実用的な方式です。 ただし、広い範囲のモーターとアプリケーションに対応するには、起動性能を最適化するために複数のパラメータを正しく選択する必要があります。 ここで詳細について説明します。

パラメータ 1: 開ループから閉ループに移行するスレッショルド(Open to closed loop threshold、 Op2ClsThr)

例: モーター A は掃除機i用であり、最大 60,000rpm(4 極、2000Hz)で動作します。 このモーターの BEMF は 5mV/Hz です。 モーター B は天井換気扇用であり、最大速度は 150rpm(8 極、10Hz)です。 モーター B の BEMF は 1V/Hz です。

モーター A の Op2ClsThr は 200Hz 付近に設定する必要があります。このモーターは、200Hz のときに閉ループ制御に適した 1V の BEMF を生成するからです。 一方、モーター B の Op2ClsThr は 200Hz のような高い回転数に達しないため モーター B にとって適切な選択肢は、1Hz または 1.5Hz です。

ごくわずかの BEMF のみを必要とする閉ループ制御を使用している場合は、低速で制御を閉ループ制御に渡すことを考慮できます。

パラメータ 2: 整列時間(AlignTime)

次の起動より前に、モーターは任意の位置で停止する可能性があります。 「ブラインド」起動では多くの場合、モーターが特定の「不適切な」初期位置にある場合にスピンアップに失敗します。そのような位置がどこなのか不明だからです。 そのため、初期化が必要です。

正弦波電流をモーターの相に流す前に、一定の期間にわたって固定状態で(たとえば、U から V に)DC 電流をドライブし、モーターを固定的な既知の位置で確実に安定させる方法で、モーターを初期化できます。 この方法を「整列と起動」と呼びます。

整列の結果、固定的な既知の位置から、次の手順である加速を開始することができます。 この技法は主に、起動の信頼性向上につながります。モーターの初期位置に関する不確定性を排除できるからです。

整列時間は、モーターがどの初期位置にあったかにかかわりなく、予期される位置で確実に安定するように、十分長い時間にする必要があります。 ただし。モーターの初期位置が整列位置の反対側(電気的には 180 度離れている)に存在している可能性もわずかにあります。 この条件が成立した場合は、整列のためにどれほど長い時間を設けたかにかかわりなく、モーターは移動しません。

2 つの解決策があります。

1) デュアル整列: 互いに 120 度(または、0 度や 180 度を除く、他の任意の角度)離れた位置で、整列を 2 回実行します。 最初の整列を実行するより前に、モーターが不運な位置に止まっていた場合は、最初の整列でモーターは動きませんが、2 回目の整列では確実に 2 回目の整列位置まで移動されます。

2) 動的整列:

固定位置で整列を実行する代わりに、整列を実行している間に位置をゆっくり移動します。

この操作は加速と組み合わせることができ、その結果、よりなめらかで、より信頼性の高い起動を実行することができます。

パラメータ 3: モーターの加速度: (A1)

モーターの駆動トルクは、加速の運動量を実現すること、およびシャフトの摩擦とその他のすべての負荷を上回ることが必要です。

 

Td = A1*J + Tf

Td = Kt*Ip*cos(θ)

したがって、A1 < Kt*Ip / J

 

A1: 加速度

Tf: モーターの負荷トルク

J: モーターの慣性

Td: モーターの駆動トルク

θ: 合成された三相電流と回転子の位置の間にある角度

Kt: モーターのトルク定数

Ip: モーターの相ピーク電流

モーターの慣性が大きいほど、加速度を緩やかにする必要が生じます。モーターの Kt が小さいほど、加速度を緩やかにする必要が生じます。駆動電流が大きいほど、より高速な加速度をサポートできます。 Kt*Ip > Td の場合は、θ は 0 から 90 度未満まで自動的に増加します。

パラメータ 4: 2 次加速(A2)

2 次加速は、動的整列と加速プロファイル(放物線)を生成することを意図しています。 起動前にモーターに対して IPD または整列を実施した場合は、2 次加速は必要ありません。

パラメータ 5: 起動電流

起動電流とは、「ブラインド」操作期間のうちに流される電流のことです。 「ブラインド」起動の加速度を選択した場合は、起動電流は起動時間に影響を及ぼしません。 ただし、起動電流が小さくなるほど、起動が失敗する変動が発生しやすくなります。 一方、アプリケーション側で小さい起動電流が必要とされる場合は、加速度を緩やかにして、信頼性の高い起動を保証する必要があります。「ブラインド」起動にはいくつかの欠点があります。

1) 閉ループ方式に比べて起動が遅いこと。

100% の起動成功率を達成するには、次の式を満たすように加速度を設定する必要があります。 A1 < Ip*Kt / J さらに、大きなマージンも設けます。コントローラは、モーターが相に同期していない(モーターがドライブ速度への追従に失敗した)かどうかを把握していないからです。 何らかの要因が原因でモーターの回転が妨げられた場合は、コントローラは相と同期していないモーターに補正を加えることができず、補正を試行することもありません。 たとえば、組み立てが原因でシャフトの摩擦が他のモーターよりわずかに大きい場合や、コントローラがモーターをスピンアップしようとしたときに、モーターがまだ完全停止しておらず、逆方向に動いている場合です。

2) 負荷が予測可能な場合のみ動作すること。

シェーバー、バリカン、玩具などでは、顧客の使用方法に応じて負荷が大幅に変動することがあります。

3) モーターとアプリケーションごとに、異なるパラメータが必要とされること。

開発者は負荷条件を理解し、あらゆる具体的なアプリケーションに合わせてコントローラを調整する必要があります。

結論として、「ブラインド」スピンアップが実用的な方式と考えられるのは、ファン、ポンプ、その他負荷が予測可能な種類のモーターです。

「ブラインド」スピンアップの欠点は、モーターが前後どちらかに向かって起動する可能性があることです。美観の点では、モーターのブレードがユーザーに向かって露出している(たとえば、天井換気扇や卓上ファン)ことは望ましくありません。 また、逆方向のスピンが禁止されているアプリケーション(たとえば、HDD のモーターや VCM)では、「ブラインド」スピンアップを選択しないでください。 初期位置検出(IPD)方式では逆方向の回転や、起動時にモーターが前後に移動することを防止できます。 IPD の原理、IPD の代表的な実装、IPD パラメータの選択について説明している、このシリーズのパート III をご確認ください。

 

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上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

https://e2e.ti.com/blogs_/b/motordrivecontrol/archive/2014/12/19/start-your-bldc-journey-with-motor-startup-part-ii-choosing-your-parameters


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