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電気自動車 (EV) 充電システムのメーカー各社は、今後何年にもわたって運用できる、信頼性の高い充電システムを設計すること、消費者に対して、シームレスで安心感のある充電体験を提供することの2点を意識しています。

330 社以上のメンバー企業が参加する CharIN (Charging Interface Initiative:充電インターフェイス協議会) のような業界団体では、さまざまな国や地域であらゆる種類の EV を充電できるように、充電システムの分野で相互運用性のための規格を推進しています。いくつかの国や地域の EV チャージャ メーカーが採用しているコンバインド充電システム (Combined Charging System:CCS) の開発に加えて、CharIN は NACS (North American Charging Standard:北米充電規格) の標準化に向けてさまざまな形で着実に取り組んできました。米国では、Tesla の高速充電ステーションが NACS を使用しています。

今年の前半に、筆者は CharIN North America の執行役員である Erika Myers 氏と話し、多くの自動車メーカーが NACS を採用している最近のトレンドに関する彼女の考えについて聞きました。Myers 氏はこう語っています。「CharIN では、ある程度の期間にわたり、CCS 規格と NACS/SAE J3400 が EV 充電オプションとして共存すると予測しています。私たちの見解では、どちらの規格にも充電の信頼性に関する消費者の要求を満たすために必要な、シームレスな移行体験をもたらす潜在能力があります。充電エコシステムの中で一貫性のある相互運用性を確保するには、優れたユーザー体験を実現すると同時に、市場の複雑さを緩和し、消費者の当惑の解消し、EV普及率を上昇させるような業界の協力が重要です」。

TI は CharIN のメンバーとして、規格の進化に伴い、EV 充電の接続と相互運用性に関するニーズを簡素化できるよう、お客様と協力し続けています。しかし、お客様が対応する必要がある規格が多いという点や、最も能力の高いエンジニアチームさえ圧倒されるような印象を抱くほど、システム全体の構築難易度が高いという事実に変わりはありません。EV 充電メーカーの設計上の決定に影響を及ぼすいくつかの要因を見ていきましょう。

コネクタの種類

一般的な種類の EV 充電コネクタ

国をまたぐようなEVでの長距離移動の最中に、自分のEVが特定の充電ステーションに接続できなかったとします。さらに、EV のバッテリ残量が少なくなると、航続距離への不安が募り、路上で立ち往生する前に自分のEVと互換性のある充電ステーションを見つけなければならず、神経が昂るでしょう。走行中にDC高速充電ステーションが見つかったとしても、自分のEVと互換性がないかもしれませんし、また適切なコネクタを備えていたとしても他のドライバーが既に使用中、という可能性もあります。

この課題を解決するために提案されている1つの方法が、NACS コネクタを採用することです。この方式は AC 充電と DC 充電の両方に同じ種類のコネクタを使用し、他の標準化コネクタよりも小型のフォーム ファクタを採用しています。Pionix 社の Janek Metzner 氏はこう語っています。「NACSの採用は、予測より早くにに定着しつつあります。SAE (米国自動車技術者協会) がこのコネクタを公式に標準化した場合、その採用率はさらに上昇するでしょう」。Linux をベースとする Pionix のオープン ソース EVerest プラットフォーム ソフトウェア スタックは、TI の AM625 プロセッサと互換性があり、EVSE (electric vehicle supply equipment:電気自動車給電機器) と自動車との間の通信が可能になります。

前述の Meyers 氏と Metzner 氏の見解は互いに異なっているようにも思えますが、実際は整合性があります。CharIN と Pionix はどちらも、世界的な規模で EV への移行が進む中、相互運用性を改善するという前提で創設された団体です。TIは、再生可能なエネルギー源、効率的な EV 充電、より効率的でスマートなグリッドへの移行を可能にするアプリケーションの開発を可能にする組込みプロセッサやアナログ製品の製造に注力しています。充電ステーションと自動車が互いに物理的な互換性を確保し、同じ方法で通信できるのであれば、コネクタの種類はどれであってもほとんど影響がありません。次の表 1 に、さまざまな種類のコネクタの分類と定義を示します。

コネクタの種類

定義

SAE J1772

AC EVSE (電気自動車給電機器) を対象として、SAE (米国自動車技術者協会) が規定するコネクタの電気機械的規格であり、北米で一般的に採用されています。Type 1 コネクタとも呼ばれます。

Type 2 コネクタ

上記の Type 1 コネクタに対応する欧州版コネクタです。Mennekes または IEC 62196-2 とも呼ばれます。

CCS1、CCS2

Type 1 と Type 2 の各コネクタに対する DC 充電拡張型であり、通信と AC 電力に使用するピン の下に、より大きい DC+、DC- の各ピンを追加したものです。

NACS

North American Charging Standard (北米充電規格) の略称。「Tesla」コネクタとも呼ばれ、現在 SAE J3400 として定義と標準化が進められている種類のコネクタです。

表1:コネクタの種類、略称、定義

アナログ ハンドシェイク

電子業界では、「ハンドシェイク」とは、1 つのシステム内で連携して動作する2つの ICの間で確立される合意のことを指します。ハンドシェイクは同一の回路基板にある 2 個の IC 間で行われることもありますが、2 つのシステムが 1 本のケーブルで結ばれている場合を考えると理解がしやすくなります。EV 充電ステーションと自動車は必ず比較的長いケーブルを使用して接続されるため、ケーブルのプラグを EV のレセプタクルに差し込むときに、2 台のシステムがハンドシェイク (握手) する様子を視覚的にイメージすることができます。

EV 充電に関係するハンドシェイクにとって重要なコンセプトは、一方の側で電圧を生成した後、もう一方の側で抵抗で終端し、電圧を規定の水準まで下げることです。誰もが同じ電圧と、同じ規定の抵抗値を使用するため、フォルト条件が発生していない限り、このハンドシェイクはいつでも同じ結果をもたらします。基本的な充電を続行するか、高レベル充電と呼ばれるより複雑なネゴシエーションに進むかのどちらかの決定を下すことになります。

普通充電は通信の観点ではシンプルですが、リレーを開閉したり、故障状況を検出したりするための回路がかなり複雑になることがあります。AC レベル 2 チャージャ プラットフォームのリファレンス デザインは、標準的な EV 給電機器 (EVSE) システムに搭載する多くの機能ブロックを実装する際に、出発点として使用できるデザインです。多くの基本チャージャの場合は、MSPM0G3507 のような小さなマイコンで十分かもしれません。しかし、充電ステーションと EV の両方が高度な充電に対応し、両者がデジタル通信への切り替えに同意する場合は、ほとんど常に、組込み Linux を実行する Arm ベースのプロセッサが必要です。表 2 に、充電ステーションが採用している多様なアナログ ハンドシェイク オプションを示します。

アナログ ハンドシェイク

定義

近接パイロット (Proximity pilot:PP)

(北米の場合) 自動車を充電ステーションに接続したときに、自動車がそのことを判定するために使用する信号です。欧州の場合は、充電ステーションがこの信号を使用して、充電ケーブルの電流能力を判定します。

コントロール パイロット Control pilot:CP)

自動車を充電ステーションに接続したときに、充電ステーションがそのことを判定するために使用する信号です。

IEC 61581

国際電気標準会議 (International Electrotechnical Commission) 61851 の略称であり、主に EV 所有者の自宅で家庭用充電器から行われるシンプルな AC 充電に関連して最も一般的に採用されている規格です。「普通充電」とも呼ばれます。

表 2:アナログ ハンドシェイクの用語、略称、定義

デジタル通信 言語と方言

例えば2人の人が同じ言語を話す状況であっても、必ずしもお互いの方言、アクセント、スラングなどを理解できるとは限りません。ISO 15118 規格は、EV と充電ステーションにとっての共通言語です。ただし、ブランドによってはスラングを使用する傾向があり、充電ステーションがそのブランドのEVに完全に対応していない場合、誤って解釈される可能性があります。

消費者が EV を導入するかどうかは、ユーザー体験によって大きな影響を受けます。EV の採用率を高めるには、EV 充電インフラ全体でデジタル通信に関する共通言語を確立する必要があります。TI は、CharIN との連携に加えて、Pionix とも協力して同社がオープン ソースの EV 充電ソフトウェア スタックを消費者に提供できるよう支援しています。このスタックの目標は、EV 充電業界が現在直面している非常に複雑な課題、つまり市場に流通するあらゆるEVと互換性があり、包括的にテストされ、規格に準拠したデジタル通信を解決することを目標にしています。表3に、EV 充電システムに関連する多様なデジタル通信オプションを示します。

デジタル通信

定義

ISO 15118

国際標準化機構 (International Organization for Standardization) 15118 の略称。この規格は、DC 充電、プラグ アンド チャージ (接続してすぐに充電)、双方向充電など、高度な機能を充電セッションで使用できるようにするための通信プロトコルです。「高度な充電」とも呼ばれます。

DIN SPEC 70121

ドイツ工業規格 (Deutsches Institut für Normung) 70121 の略称。これは、ISO 15118 の前身となった仕様であり、ときには ISO 15118 と交換可能な形で使用されることもあります。

PLC PHY

Programmable logic controller physical layer (プログラマブル ロジック コントローラの物理層) の略称。これは、EV と充電ステーションの間の通信に使用する特定の種類の IC であり、高度な充電を行うには両方の側に PLC PHY が存在している必要があります。「HomePlug GreenPHY」とも呼ばれます。

表 3:デジタル通信の用語、略称、定義

TIのAM625をベースとするEVSE開発プラットフォームは、標準に準拠するすべてのデジタル通信を実証およびサポートし、多様なEV充電アプリケーションに対応できる AM625プロセッサ ファミリのスケーラビリティを提示することを目的に製作されました。

*Video*

AM625 ベース、HMI (ヒューマン マシン インターフェイス) 搭載、コネクテッド (ネットワーク接続型)、スマート EV 充電ステーション開発プラットフォーム

シームレスな充電体験

コネクタの物理的互換性に関する課題を解決するために、複数のアダプタを用意し、さまざまな種類のプラグを充電ステーションに設置することは可能です。しかし、共通のコネクタを導入する方が、EV充電をよりシンプルなものにできるでしょう。アナログ ハンドシェイクは基本ですが、これは普通充電にとどまります。使いやすい標準化充電インフラを構築するには、接続されるあらゆるEVと同じ言語や方言を、すべての充電ステーションが話す必要があります。半導体メーカーとしてのTIの目標は、お客様である世界各地のEV充電メーカー各社の目標と同じく、相互運用性の課題を解決するテクノロジーの設計と開発を進め、最終的にはあらゆるEVドライバーにシームレスな充電体験を提供することです。

その他のリソース:

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