自動車の電動化に関連する市場成長のトレンドと、電気自動車 (EV) 産業の拡大は、バッテリの構成とテストの分野に新しい課題をもたらしています。この分野は、リチウムイオン・バッテリの大量生産にとって引き続き最大のボトルネックになっています。これに対応するために、設計エンジニアが探し求めているのは、テスト機器のチャネル密度の向上、システム全体の効率向上、システム・コストの削減を実現する方法です。これらに該当するソリューションの 1 つが、GaN (窒化ガリウム) 技術です。この記事では、バッテリ・テスト・システムで GaN を実装し、チャネル密度の向上、システム全体の効率向上、電力コストの削減を支援する方法を解説します。その結果、テスト・ファクトリ (工場) から出荷されるバッテリのスループットを高めやすくなります。

バッテリ・テスト・システムの詳細

バッテリ・テスト機器は、バッテリ製造過程の一環としてセルの放電と充電を行います。図 1 に、一般的なバッテリ・テスト・システムのブロック図を示します。このシステムは、双方向の絶縁型 AC/DC 電源と、低電圧を出力する複数の高精度テスト・チャネルから構成されます。

 図 1:バッテリ・テスト・システムのブロック図

大半のバッテリ・テスト・システムは双方向の AC/DC 電源を使用します。この電源は多くの場合、非絶縁型の AC/DC PFC (力率補正) 段と絶縁型 DC/DC 段で構成されています。この種の電源には、サイズと効率という2 つの主な課題があります。電源はキャビネット・スペースの最大 40% を占有する可能性があり、テスト機器のチャネル密度に制限を課すことになります。スイッチング損失や導通損失、逆回復損失、消費電力などの要因によってシステム全体の効率が低下し、その結果、電力料金の上昇やバッテリ製造コストの増加につながります。

トーテムポール PFC の採用による AC/DC 段の効率向上

GaN トランジスタには、電力密度、効率、スイッチング速度、周波数の点で利点があるので、多くの高電圧アプリケーションはすでに GaN トランジスタを採用済みです。GaN は端子の静電容量が小さく、第 3 象限の逆回復損失が発生しないので、トーテムポール・ブリッジレス PFC 段のようなスイッチング周波数の高いハード・スイッチング・トポロジを実現できます。このような高い周波数は、MOSFET (金属 - 酸化膜 - 半導体の電界効果トランジスタ) や IGBT (絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ) では実現できない特長です。図 2 で、各種 PFC トポロジを比較します。

 図 2:トーテムポール PFC と他の一般的な PFC トポロジの比較

トーテムポール PFC ソリューションには少ない部品点数、小さい損失、高い電力密度という特長があるので、AC/DC 電源の効率向上に関する要求が高まっている現状で、このソリューションはますます価値が高くなっています。GaN の逆回復損失はゼロなので、トーテムポール PFC 段に実装するのに最適なパワー・トランジスタです。C2000Tm GaN を使用する 4kW 単相トーテムポール PFC のリファレンス・デザインは、GaN を使用して、99.1% 以上のピーク効率と 4kW の電力出力を実現するトーテムポール PFC トポロジの実装例を示します。サーバー電源、電気自動車向けのオンボード・チャージャ、試験 / 測定システム、グリッド・インフラなど、高い効率を必要とする各種アプリケーションにとって、トーテムポール PFC は適切な選択肢になります。

GaN の採用によるチャネル密度の向上

SiC (シリコン・カーバイド) FET や MOSFET に比べると、GaN はより小さいフォーム・ファクタとより高いスイッチング周波数で動作することができます。バッテリ・テスタ内の双方向 AC/DC 電源にとって、これらの特性は特に重要です。キャビネット・スペースの空きを多く確保し、低電圧の高精度テスト・チャネルの数を増やすことができるからです。MOSFET ソリューションに比べて、GaN を採用すると AC/DC 段のサイズを約 50% 小型化できるので、チャネル密度を約 30% 高めることができます。GaN ベース、6.6kW、双方向、オンボード・チャージャのリファレンス・デザインは、『LMG3522R030』GaN FET を採用しています。同等の SiC リファレンス・デザインに比べて、このデザインは GaN の採用により、電力密度と効率の向上、およびフォーム・ファクタの大幅な小型化を実現しています。同等の SiC デザインに比べて、GaN を実装するとスイッチング周波数を 62% 高くすると同時に、サイズを約 60% 縮小することができます。

GaN はより高いスイッチング周波数を使用するので、充電から放電への遷移を SiC や MOSFET より高速化 (1ms 未満) することもできます。これらを総合すると、GaN を採用する場合、電力密度、効率、遷移の性能を犠牲にせずに、工場でのバッテリ製造のスループットを高めることができます。GaN を実装すると、バッテリ構成の段階でボトルネックを小さくし、工場の生産性をいっそう高めることができます。

バッテリ・テストの設計の信頼性が向上

バッテリ・テスト・システムでは、信頼性が特に重要です。工場は 1 年中操業するので、信頼性の高い電源は不可欠です。シリコン FET 向けに確立された標準的な信頼性テスト手法を GaN FET にも適用できますが、それに加えて、GaN FET の信頼性の検証に特化した新しい測定手法も策定されています。

TI の GaN FET 製品ラインアップは、保護向けの多様な機能を内蔵しているので、コストと信頼性の優位を実現しやすくなります。これらの機能に加えて、実質的に 4 千万時間を上回る信頼性テストも実施済みなので、TI の GaN パッケージは回復力の優れた設計に貢献します。パッケージの特長として、統合型ゲート・ドライバ、過熱報告機能、過電流保護向けの複数のオプションを挙げることもできます。これらの機能を実現するうえで外部回路は必要ないので、コストを節減できます。図 3 に、『LMG3422』と『LMG3522』の各デバイスのブロック図を示します。

 図 3:『LMG3422』と『LMG3522』のブロック図

絶縁型 DC/DC 段内部の電力損失を最小化

集中型の大電力 AC/DC 段と 800VDC レール動作への移行を進めている工場でも、GaN はバッテリ・テスト・システムに利点をもたらします。このアーキテクチャは、800V から 12V への単一段の絶縁型 DC/DC 段で DC レール電圧を降圧した後、バッテリをテストするために非絶縁型双方向降圧コンバータを使用して 0V ~ 5V の範囲へと降圧します。800V から 12V への変換を行う絶縁型 DC/DC 段で GaN を実装すると、SiC ソリューションに比べて電力損失を低減することができます。テスト・チャネルの数によっては、複数の DC/DC コンバータを 800VDC バスに接続することになります。

まとめ

サーバー電源とテレコムの各分野では、多くのアプリケーションが GaN の採用をすでに成功させており、効率と電力密度の向上による利点を達成しています。バッテリ・テスト・エンジニアも機器の設計で GaN を考慮することにより、同様の利点を達成し、電力コストの削減やチャネル密度の向上とともに、開発中のシステム・アプリケーションで信頼性の高い GaN FET を実現できます。

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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年10月7日)より翻訳転載されました。
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