モーターからの回生は、モーター・ドライブ・システムで発生する一般的な問題です。 多くの設計者は公称電圧の 2 倍に達するモーター電源電圧(VM)を選択する必要がありますが、これはシステム・コストの上昇につながります。 幸い、電源電圧の上昇の詳細について最初に理解した時点で、必要とされる VM マージンについて理解することができます。 よくある質問(FAQ)に関するこのシリーズの最初の投稿で、Nicholas Oborny(ニコラス・オボーニー)はモーター・ドライバのデータシートを読み取る方法を説明しました。 今日は、説明の続きとして、電圧上昇レベルを推定する方法を紹介します。

VM 上昇の波形

図 1 に、減速プロセスの際の回生が原因で発生した代表的な VM 上昇の波形を示します。 入力 PWM(パルス幅変調)のデューティが 99% から 70% に変化した時点で、VM 電圧は 24V から 32V に上昇しました。 (テストに使用した TI 製モーター・ドライバ・デバイスは、5A ブラシ付き DC モーター・ドライバの DRV8840 です。)

図 1: 回生と VM 上昇

上昇のメカニズム

上昇メカニズムについて理解するには、ここで DC/DC パワー・マネージメントに関するある程度の背景知識が必要です。 そのため、代表的な昇降圧回路がどのように動作するかを考えましょう。図 2 をご覧ください。 興味深い挙動は、PWM が H ブリッジ経由でモーターをドライブしている間に、降圧プロセスと昇圧プロセスの両方を実施していることです。 図 3 に示すように、PWM の駆動時間の間は、代表的な降圧回路になっています。 図 4 に示すように、PWM のオフ時間の際に、逆起電力(BEMF)は昇圧の原因として機能しています。

図 2: 降圧回路と昇圧回路


図 3: 降圧トポロジー

 

図 4: 昇圧トポロジー

ラシ付き DC モーターの動作モデルは、式 (1) のように表現できます。

PWM のデューティ・サイクル = D の場合の通常のドライブ条件では、式 (2) に示すように、電圧 VDRV によってドライブされる速度でモーターが動作します。

(1) に基づいて、次の式が得られます。

昇圧効果により、VBST は次の式で表現できます。

(2)、(3)、(4) から、次の式が得られます。

したがって、通常の動作条件では、VM 上昇は発生しません。

PWM のデューティ・サイクルが D1 から D2 に減少する場合は、減少ポイントの直前では次のようになっています。

デューティが減少した直後では、モーターの速度が急激に変化することはできないので、VBST は次のように新しいデューティ・サイクル D2 に基づく値になります。

(6)、(7) から、次の式が得られます。

K*D1/D2 > 1 の場合、次の式が得られます。

VBST は VVM より高くなり、上昇効果という結果になります。 K が 1 に近いと仮定すると、デューティ・サイクルを減少させるときは D2 < D1 になるので、必ず VM 上昇が発生します。 たとえば、100% から 50% に減少させると、VBST = 2*VM になります。 また、90% から 30% に変化させた場合は、VM にとって 3 倍の高さに相当する上昇電圧が観察される結果になります。

上昇のテスト

実用的には、観測される VM 上昇は上記の式 (8) で推定したほど高い値にならない可能性があります。電源と VM のコンデンサには、上昇レベルを減少させるのに役立つシンク能力があるからです。 推定方法を検証するために、電源から VM まで接続するダイオード Ts1 を図 5 のように追加し、電源によるシンクなしで純粋な上昇効果を確認しようとしてみます。

図 5: 上昇電圧のテスト

表 1 と図 6 にテスト結果を示します。 (注: 一部の上昇電圧は、DRV8840 のデータシートに記載されている VM の仕様を上回っています。これはテストのみを目的にした接続です、 仕様を上回る条件でデバイスを使用することは決して推奨されません。)

表 1: テスト結果と計算結果


図 6: 結果の棒グラフ

 


図 7: PWM を 100% から 50% に減少させたときの VM 上昇(図 5 の Ts1 を接続した状態)

上昇電圧の緩和

VM 上昇を制御する方法は 2 つあります。

  • 高速減衰の使用。 DRV8840 を高速減衰モードで使用すると、図 4 に示す昇圧トポロジーは存在しなくなります。 逆起電力は常に VM 電圧を下回るようになり、VM 上昇はまったく発生しません。 ただし、図 8 に示すように、目標の速度に達するまでに、より長い時間を要するようになります。

図 8: 高速減衰の使用時は VM 上昇なし

  • 過渡電圧サプレッサ(TVS)を使用した VM 上昇のクランプ クランプ電圧が公称 VM 定格を多少上回る TVS を選択し、図 5 の Ts2 の位置に配置すると、VM 上昇がクランプされます(図 9 を参照)。 筆者が 27V の TVS を使用したところ、VM 上昇は実質的に 29.6V でクランプされました。 TVS は動的ブレーキとしても機能し、モーターの減速プロセスが迅速化されました。

図 9

まとめ

モーター減速プロセスで観測される VM 上昇は、実際は運動エネルギーが電気エネルギーに変換される現象を示しています。 以下の要因を考慮してください。

  • VBEMF < VVM の状況であっても、逆起電力が VM 電源電圧に対して電流を逆流させる理由を説明するうえで、昇圧トポロジーは主要な要因です。高速減衰を使用すると、減速セクションの間も VM 上昇は発生しませんが、モーター速度が低下するまでに、より長い時間を要する結果になります。
  • TVS クランプ方式や他の動的ブレーキ方式は、VM 上昇を緩和するとともに、高速な減速レートを維持するための適切な方法です。 

その他のリソース

 

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

http://e2e.ti.com/blogs_/b/motordrivecontrol/archive/2015/07/13/motor-drive-forum-top-faqs-part-2-how-to-estimate-motor-regeneration-and-vm-pumping


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