筆者は産業用イーサネットの目的に関する問い合わせを受けることがよくあります。多様な産業用イーサネット規格はどこで使用され、特にそれぞれどのような利点があるでしょうか。
この新しいブログ・シリーズは、システム内で産業用イーサネットを活用する作業に取り組んでいる設計者向けです。 いくつかの一般的な産業用イーサネット通信プロトコルについて説明する予定です。 これらの説明は、アプリケーションに最適な規格の選択に役立ちます。
産業用イーサネットは、ファクトリ・オートメーションとファクトリ制御、プロセス・オートメーション、ビルディング・オートメーション、その他多くの産業用アプリケーションを想定しています。 標準的なイーサネットに対する産業用イーサネットの利点の 1 つは、確定的(Deterministic)なリアルタイム・データ交換と、1ms 未満のアイソクロナス・サイクル時間です。
20 以上の産業用イーサネット・プロトコルが規格として導入され、産業用アプリケーションで使用されています。その中には、EtherCAT、Sercos III、PROFINET、EtherNet/IP、Ethernet Powerlink が含まれています。 選択肢として利用できる、このような多くの規格が存在するのはなぜでしょうか。 産業機器の各メーカーは、イーサネットを経由するリアルタイム・データ交換に関する要件を詳細に理解しており、歴史のあるシリアル・フィールドバス分野に関する各社の知識に基づいて独自規格を開発したように思われます。
ほとんどの産業用イーサネット規格は、標準的なイーサネットの MAC(メディア・アクセス制御)を使用して実装することはできません。産業用イーサネット規格では、専用の ASIC(特定用途向け集積回路)または FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)が必要です。 その理由は、イーサネット・フレームが即座に、別の呼び名ではカットスルー形式で受信されるからです。これは、最初のイーサネット・ポートでフレームの受信が実行されている最中に、そのフレームの処理が開始され、専用の産業用イーサネット MAC ハードウェア・ブロックにより、2 番目のイーサネット・ポートへの送信が開始されることを意味します。 カットスルー方式を使用すると、1 つのイーサネット・フレームに関して、1μs というポート相互間の遅延を実現できます。
一方、標準的なイーサネット MAC はストア・アンド・フォワード法式を使用します。 最初に、イーサネット・フレーム全体を受信する必要があります。その後、2 番目にイーサネット MAC が何らかの処理を実行するか、そのフレームを転送することができます。 この結果、フレームに対してジッタと遅延が追加されるので、産業用機器のメーカーにとって良い選択肢になりません。
産業用通信サブシステム内のプログラマブル・リアルタイム・ユニット(PRU-ICSS)には、さまざまな産業用イーサネット・プロトコルをサポートする優れたフレキシビリティがありますが、この点についてはもう少し後で説明します。
Sercos 社は約 25 年にわたって、機械産業や建築向けのファクトリ・オートメーション・アプリケーションに携わっています。 Sercos III は、2003 年に確立された第 3 世代です。 効率的で確定的なこの通信プロトコルは、Sercos インターフェイスのリアルタイム・データ交換機能とイーサネットを組み合わせたものです。 Sercos III テクノロジーを統合するには、従来は FPGA 内に実装していました。
1 個の Sercos III マスターが、ドライブ、センサ、アナログ/デジタル I/O デバイスなどの Sercos III スレーブ・デバイスを複数制御します。図 1 にこれを示します。 1 個のマスターが最大 511 個のスレーブを制御できます。
図 1: Sercos III ネットワーク・リング・トポロジの例
Sercos III の重要な利点の 1 つは、ライン・トポロジ以外にリング・トポロジをサポートしていることです。 イーサネット・ケーブルの異常が発生した場合は、Sercos III ネットワークはライン・トポロジへの切り替えを行い、マスターがネットワーク内にあるすべてのスレーブとの通信を引き続き実行できるようにします。 イーサネット・ケーブルを修復した時点で、マスターは Sercos III ネットワークをライン・トポロジからリング・トポロジに切り替えることができます。
通信プロトコルは、図 2 に示すように時間多重されます。 単一の Sercos III 通信サイクル内に、1 組のタイム・スライスが存在し、リアルタイム Sercos III フレーム専用に割り当てられています。これらのタイム・スライスをリアルタイム(RT)チャネルと呼びます。 このタイム・スライスのうちに、マスターとスレーブはプロセス・データを交換します。このプロセス・データは、プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)によって使用されます。 2 番目のタイム・スライスは、UCC(Unified Communication Channel)と呼ばれるもので、この期間のうちに、ネットワーク内にあるすべてのデバイス(マスターとスレーブ)が標準的な IP(インターネット・プロトコル)テレグラムを交換することができます。 UCC を使用して、Web サーバーの情報交換、TFTP(trivial file transfer protocol)を使用したデバイス・ソフトウェアのアップデート、IP ベースのあらゆる種類のアプリケーションを対象としたイーサネット・フレームの転送を実行できます。
図 2: Sercos III の時間多重通信サイクル
Sercos III 用の FPGA を使用すると、コストとボード面積が増大します。 コスト追加要因を除去する代替ソリューションは、PRU-ICSS を使用することです。これは、多くの TI Sitara™ プロセッサに搭載されているペリフェラルです。 たとえば、TI は AM335x プロセッサ 向けの PRU-ICSS ファームウェアを提供しており、外部 FPGA を使用せずに Sercos III スレーブ・デバイスを実現することができます。 図 3 に示す TMDSICE3359 評価ボードを使用して、ソリューションを評価できます。 Sercos III ソリューションの詳細情報を確認するために、TI Designs の Sercos III 通信開発プラットフォーム(TIDEP0010)を参照することもできます。
図 3: Sercos III 用の TMDSICE3359 産業用通信開発プラットフォーム
Sercos III の機能について理解するうえで、このブログ投稿がお役に立つことを希望します。 どの産業用イーサネット規格がアプリケーションに最適なのか把握しようとしている場合は、産業用イーサネットに関するこのブログ・シリーズを順に参照し、他の産業用イーサネット規格についても確認することができます。
その他のリソース:
- AM437x 用の Sercos III 通信開発プラットフォーム・リファレンス・デザイン(TIDEP0039)をご確認ください。
- Sercos III 通信開発プラットフォーム TI Design リファレンス・デザイン(TIDEP0010)をご覧ください。
- Sercos III communication development platform design guide(英語)をダウンロードしてください。
- 産業用通信プロトコルに関するブログ投稿をご覧ください。
- industrial communications guide(英語)をご覧ください。
- このホワイト・ペーパーで、industrial Ethernet protocols(英語) の内部をご確認ください。
- Sercos III 規格の詳細について、Sercos International の情報をご覧ください。