Omdiaの予測によると、低消費電力ワイヤレス・マイコン(MCU)の出荷数は今後4年間で倍増し、40億個を超えると見られています。この膨大なマイコンの供給により、ワイヤレス接続の機会はこれまで以上に増加し、Bluetooth® Low Energy、Zigbee®、Thread、Matter、Sub-1GHz、Wi-SUN、Amazon Sidewalkなど、幅広い範囲のアプリケーションやテクノロジでますます利用されるようになるでしょう。TIでは、新しく16種類のワイヤレス接続デバイスを追加することで、接続する対象や方法にかかわらず、ワイヤレス接続の導入を変革、拡張、加速できるようエンジニアを支援します。
ワイヤレス接続に向けた設計
設計プロセスの最初のステップは、ワイヤレス・マイコンの選択です。これは、マイコン・プラットフォームと無線周波数の両方を選択すると同時に、多数の通信プロトコルのうち1つを選ぶことを意味します。選択肢として複数のプロトコルがあるだけでなく、各プロトコルにはさまざまな機能があり、それぞれに数百ものオプションがあって圧倒される場合もあります。要件が進化し、最終製品が増加するにつれて、ワイヤレス環境に合わせてデバイスやソフトウェアを更新することが難しくなります。そのため、製品の最初の世代と将来の世代の両方に対して機能するワイヤレス・マイコンを選択するのが最善です。
将来を念頭に置いた設計により、既存の投資を再利用し、設計のサイクル・タイムを最小限に抑え、製品コストを最適化しながら、製品を柔軟にアップグレードまたは拡張できるようになります。低消費電力、小サイズ、統合、追加のプロトコル機能といった新しいテクノロジの能力により、ワイヤレス・アプリケーションの数は増え続けています。アセット・トラッカー、消費者向けウェアラブル製品、長距離セキュリティ・システムなどの製品は、マイコン・プラットフォームの多様な範囲の機能を必要とします。
マルチプロトコル・システムの実装
ワイヤレス接続の設計では、異なる種類の最終機器間でのシームレスな接続が必要になります。例えば、大きな集合住宅用のセキュリティ・システムでは、いくつかのワイヤレス・デバイスが連携して住民を保護しています。図1に示すように、シンプルなセンサと複雑なゲートウェイを使用した包括的なシステム・ソリューションを設計している場合、メモリ、電力、コストに関する各種設計要件に対処するために、さまざまなワイヤレス・マイコンが必要になります。
図1:大規模集合住宅のビル・セキュリティ・システム
集合住宅でのセキュリティの最初の層は、各戸の玄関のスマート電子ロックから始まります。マルチプロトコルの電子ロックではSub-1GHzを長距離通信プロトコルとして使用する一方、中央のセキュリティ・ゲートウェイから各戸を一元的に制御および監視するための手段としてBluetooth Low Energyを使用しています。ここで、特にマルチプロトコル・アプリケーションの設計時に重要なのが、メモリの考慮です。
SimpleLinkTMマルチプロトコル『CC1352P7』ワイヤレス・マイコンは、Sub-1GHzとBluetooth Low Energyプロトコルの併用に最適であり、704KBのフラッシュ・メモリと内蔵のパワー・アンプによって大規模住宅をカバーする長距離通信に対応します。電子ロック・アプリケーションが将来アップグレードされた場合、無線経由でのファームウェア更新や、最新プロトコル仕様に対応した機能(Bluetooth Low Energyの距離を延長する符号化物理層など)のために、追加のメモリが必要になる可能性があります。
別のアプリケーション例を見てみましょう。図2のHVAC(暖房、換気、空調)システムです。ここでも、異なる種類の最終機器が互いに通信し合う必要があります。ユーザーが部屋ごとに温度を監視してカスタマイズできるように、サーモスタットを拡張して長距離温度センサを追加するとしましょう。
図2:大規模集合住宅のHVACシステム
サーモスタット・ゲートウェイに対して、SimpleLinkマルチプロトコル『CC2652P』または『CC1352P』ワイヤレス・マイコンは、動的マルチプロトコル・マネージャによってプロトコルの同時使用をサポートし、352KBのフラッシュと88KBのセキュアなRAMによってSub-1GHz、Zigbee、またはBluetooth Low Energyのスタックをサポートします。温度センサのコストを削減するために、TIでは簡素化された低コスト・アプリケーション向けのSimpleLinkシングル・プロトコル『CC2651R』および『CC1311R』ワイヤレス・マイコンを設計しました。
サーモスタットや温度センサは、複雑さやメモリ、サイズ、価格などの特徴に関する要件がそれぞれ異なることから、適切な機能セットを持つ適切な価格のワイヤレス・マイコンを選択することが重要となります。それにより、初期設計プロセスだけでなく将来の革新についても自由度が高まります。『CC2562R』、『C2652P』、『CC2651P』は、認定済みのシステム・イン・パッケージ・オプションを備え、製品開発期間の短縮に役立ちます。また、ワイヤレス・マイコン間でのソフトウェアの互換性は、投資を最大限に活かし、複数の製品世代またはSKU(Stock Keeping Unit)間での再利用を推進するために重要です。
設計時間と投資コストの節約
表1に、16種類の新しいワイヤレス・マイコンの詳細を示しています(2021年中にリリース予定)。ご覧のとおり、同じパッケージ・フットプリントとアプリケーション・プログラミング・インターフェイスを保ちながら、Sub-1GHzまたは2.4GHz製品で352KBのフラッシュから704KBのフラッシュまでが用意されています。
型番 |
説明 |
サポートされる技術 |
フラッシュ・メモリ |
SRAM + キャッシュ・メモリ |
『CC1312R7』 |
Sub-1GHzワイヤレス・マイコン |
Wi-SUN |
704KB |
152KB |
『CC1352P7』 |
マルチプロトコルおよびマルチバンド・ワイヤレス・マイコン、パワー・アンプ内蔵 |
Wi-SUN |
704KB |
152KB |
『CC2652R7』 |
高メモリ、マルチプロトコル・ワイヤレス・マイコン |
Matter |
704KB |
152KB |
『CC2652P7』 |
高メモリ、マルチプロトコル・ワイヤレス・マイコン、パワー・アンプ内蔵 |
Matter 独自仕様15.4 |
704KB |
152KB |
『CC2672R3』 |
マルチプロトコルおよびマルチバンド・ワイヤレス・マイコン |
Zigbee Sub-GHz |
352KB |
88KB |
『CC2672P3』 |
マルチプロトコルおよびマルチバンド・ワイヤレス・マイコン、パワー・アンプ内蔵 |
Zigbee Sub-GHz |
352KB |
88KB |
7mm×7mmシステム・イン・パッケージ・ワイヤレス・モジュール |
Bluetooth Low Energy 5.2 独自仕様15.4 |
352KB |
88KB |
|
『CC2652PSIP』 |
システム・イン・パッケージ・モジュール、パワー・アンプ内蔵 |
Bluetooth Low Energy 5.2 独自仕様15.4 |
352KB |
88KB |
『CC1311R3』 |
7mm×7mm、低コスト、シングル・プロトコルSub-1GHzワイヤレス・マイコン |
Mioty |
352KB |
40KB |
『CC1311R3』 |
5mm×5mm、低コスト、シングル・プロトコルSub-1GHzワイヤレス・マイコン、小型パッケージ、22の汎用入出力付き |
Mioty |
352KB |
40KB |
『CC1311P3』 |
低コスト、シングル・プロトコルSub-1GHzワイヤレス・マイコン、パワー・アンプ内蔵 |
Mioty |
352KB |
40KB |
『CC2651R3』 |
7mm×7mm、低コスト、シングル・プロトコル・ワイヤレス・マイコン |
Bluetooth Low Energy 5.2 |
352KB |
40KB |
『CC2651R3』 |
5mm×5mm、低コスト、シングル・プロトコル・ワイヤレス・マイコン |
Bluetooth Low Energy 5.2 |
352KB |
40KB |
『CC2651P3』 |
7mm×7mm、低コスト、シングル・プロトコル・ワイヤレス・マイコン、パワー・アンプ内蔵 |
Bluetooth Low Energy 5.2 |
352KB |
40KB |
『CC2651P3』 |
5mm×5mm、低コスト、シングル・プロトコル・ワイヤレス・マイコン、パワー・アンプ内蔵 |
Bluetooth Low Energy 5.2 |
352KB |
40KB |
『CC2651R3SIPA』 |
システム・イン・パッケージ・モジュール、アンテナ内蔵 |
Bluetooth Low Energy 5.2 |
352KB |
40KB |
表1:SimpleLinkワイヤレス・マイコン・ポートフォリオの新しいデバイス
ワイヤレス・マイコンを選択する際には、現在の設計用のプラットフォームと無線を選ぶだけでなく、将来の設計にも備えることになります。16の新しいワイヤレス接続デバイスが追加されたTIの広範なポートフォリオでは、最先端の技術に加えて直観的な開発ツールやソフトウェアも提供されるため、適切な機能と適切な価格であらゆるデバイスを接続できるようになります。変化し続けるワイヤレス接続の世界に向けて設計を行う際には、常に自由と柔軟性を持つことが不可欠です。
参考情報:
+SimpleLink MCUプラットフォーム
+トレーニング・ビデオ(英語)
+コネクト・ビデオ・シリーズ(英語)
※すべての登録商標および商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらの技術記事(2021年6月3日)より翻訳転載されました。
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