少し前までは、電気自動車 (EV) が広く普及するということは SFの中の話でした。かつてはコストが高すぎるか、実用的ではないと考えられていましたが、現在では、 OEM 各社がゼロエミッションを達成し、代替エネルギー源を検討しようとした EV 革命の真っ只中にあります。 多くの自動車メーカーは、今後 10 ~ 15 年のうちにすべての新車を EVのみに切り替えると公約してきました。
この勢いにもかかわらず、私たちは屈折点に立っています。 ドライバーが 1km あたりのエネルギー・コスト削減を求めながら、EV を運転する楽しさを望んでいる中、EV は自動車市場の主役として受け入れられるように大きな進歩をいくつも遂げてきました。ただし、EV は現在、内燃機関(エンジン)を使用する車両に比べて高価です。また、充電ステーションの不足、充電あたりの走行距離の短さ、バッテリーがフル充電されるまでの充電時間の長さなどから、ドライバーは走行距離に関して懸念しています。
すべての EV の中心にあるのは、パワー・エレクトロニクス・システムです。図 1 に示すトラクション・インバータ、オンボード・チャージャ、高電圧 DC/DC コンバータなどが該当します。これらのシステムの性能は、今後数年間の EV 導入の加速と成功の度合いを左右します。これらの性能は、EV の運転パフォーマンス、コスト、走行距離、充電時間に直接的な影響を及ぼすからです。これらのシステムにいっそうの高性能を求める需要は、リアルタイム制御と高度なコンピューティングの両方の点で、マイコン (MCU) にいっそうの高性能を求めることに直結します。
図 1:トラクション・インバータ、高電圧 DC/DC、オンボード・チャージャを含めた EV のパワートレイン
TI の新しい高性能 Sitara 『AM263』 マイコンは、Sitara マイコン・ファミリの最新製品であり、EVの背後にある処理テクノロジーの進歩に貢献します。Sitara 『AM263』 マイコンは、Sitara マイコン製品ラインアップ内で初めて、C2000 マイコンで導入されたリアルタイム制御サブシステムに Sitara マルチコア Arm® アーキテクチャを組み合わせ、モーター制御やデジタル電源制御の各アプリケーションで求められる動的性能要件を満たせるようになったデバイスです。
『AM263』 マイコン・ファミリは 、リアルタイム制御機能と、3,000 Dhrystone MIPS以上の演算性能を備えており、モーターや機械的筐体のサイズと重量、システム・コストを低減することで、EV の走行距離の延長と低価格化に貢献します。『AM263』 マイコン・ファミリは C2000 リアルタイム・マイコンの利点を活用し、強化しながら、EV のパワートレイン・アプリケーションに適したさらに多くのオプションを提供しています。
次に例を示します。
- トラクション・インバータ内で 『AM263』マイコンは30,000rpm を上回るモーター速度の向上を実現します。これにより、モーターサイズを最大36%縮小、 走行距離を15%延長することができます。
- このマイコンは、1MHz を上回る高速なスイッチング周波数で動作できるため、SiC (シリコン・カーバイド) や GaN (窒化ガリウム) のようなワイド・バンドギャップ技術の利点を引き出し、電力密度と効率の向上させ、結果的に走行距離の延長させます。
- コア数とペリフェラルの増加により、システムおよび機械筐体に複数の機能を統合し、電界効果トランジスタ数を低減して、エンクロージャおよび磁気部品のコストと重量を大幅に削減できます。
- 『AM263』ファミリは機能安全対応の各種機能を搭載しているので、ASIL (Automotive Safety Integrity Level:車載安全性強化アプリケーション) Dまで 、EVITA (E-Safety Vehicle Intrusion Protected Applications:電子的安全対応自動車の侵入保護アプリケーション) ハードウェア・セキュリティ・モジュールのフル・バージョン、AUTOSAR (Automotive Open System Architecture:自動車のオープン・システム・アーキテクチャ) をサポートしています。また、通信ペリフェラルを内蔵しているので、シングルチップでシステムの部品表 (BOM) の削減に役立ちます。
図 2 に示すように、EV と再生可能エネルギーの採用が進むと、大規模な充電インフラやエネルギー蓄積システムが必要になります。 現時点でさまざまな場所に存在し、すぐにエネルギー補充が完了するガソリン・スタンドに近付けるように、これらのシステムの効率向上と大電力化が求められます。これらのシステムの基本的なコンセプトは電力変換です。それにより、グリッド (電力網) から自動車へ、あるいは逆に自動車からグリッドへのエネルギー転送を充電ステーションで実施できるようになります。また、エネルギー蓄積システムでは、電力変換により電力需要が少ないときは自動車のバッテリにエネルギーを蓄積し、電力需要が大きいときや再生可能エネルギー源が発電を行っていないときは自動車からグリッドにエネルギーを供給できます。『AM263』ファミリ・デバイスに搭載されたリアルタイム制御サブシステムは、
将来の電力変換業界をリードするために必要な精度を提供します。たとえば、『AM263』マイコン・ファミリを採用すると、以下の特長をすぐに実現できます。
- 充電時間の高速化:スイッチング周波数の引き上げ、インバータの効率向上 (99%)、電力損失の低減を通じて、『AM263x』は、より高速で、より大電力の電力変換を実施できます。
- 電力グリッドとの互換性を高める、出力電力の品質向上:
先進的なアナログ制御ペリフェラルにより、ソーラー・インバータでより高い精度を実現し、待ち時間を短縮、全高調波歪 (THD) を低減、より高い出力電力品質を達成することができます。
- システムのサイズとコストの削減:複数の Arm ® コアが、複雑な制御トポロジを可能にし、機能を統合することでシステム・サイズと BOM コストを低減します。
図 2:電動化の流れは EV の枠を超えて充電ステーションや再生可能エネルギー蓄積にも波及
私たちの周りの世界は変化しつつあります。
ゼロ・エミッション車両や再生可能エネルギー源への環境や規制圧力は、 EV の生産を加速していますが、EV を広く普及させるには、手ごろな価格設定の推進や、効率と性能のいっそうの向上も必要です。『AM2634-Q1』と 『AM2634』の各デバイスも含め、各種 Sitara 『AM263』 マイコンは、このような次世代アーキテクチャの需要を満たすのに役立ちます。『AM263』 ファミリを使用した開発を今すぐ始めるには、アプリケーション・ノート「AM263 for Traction Inverters」 (英語) や、TI の使いやすい MCU+ SDK (ソフトウェア開発キット) を利用できます。また、TI の 『TMDSCNC263』 評価基板 (EVM) と MCU+ Academy リソース (英語) を使用してサンプルを作成および実装することができます 。
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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年3月21日)より翻訳転載されました。
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