設計の際に消費電力低減のために、マイコン(MCU)に搭載されている内蔵 A/D コンバータ(ADC)のすべての機能を活用していますか? このブログでは、消費電力の低減のため内蔵 ADC を活用する方法を紹介します。

今回は例として、MSP432P401R マイコンに搭載されている、ADC14 と呼ばれる内蔵 14 ビット ADC を使用します。  ADC14 は、低消費電力アプリケーション向けに設計されており、デューティ・サイクル・アプリケーションによりターンオン時間が短縮されています。 ただし、最小の消費電力を実現するための方法はそれぞれのアプリケーションごとに異なっていることから、ADC14 の調整ノブつまりプログラマビリティについては注意深く選択する必要があります。

このブログは ADC14 の消費電力と性能のカスタム化を可能にするために、 MSP432™ マイコンのいくつかの重要な機能について取り上げています。

  1. 選択可能なリファレンス電圧
  2. 高速起動
  3. 選択可能なクロック・ソース
  4. 電力モード
  5. 最小の電源電圧は 1.62V
  6. 内蔵 DC/DC を使用してコア電圧を供給する能力
  7. 自動パワー・ダウン
  8. ADC サンプル時間を短く設定した内部温度センサ
  9. 8、10、12、または 14 ビットから選択が可能ですが、バッテリを節約するために迅速に完了できる最小ビット数を選択します(このシリーズの第 2 回ブログ(パート 1)で解説済み)
  10. ウィンドウ・コンパレータにより、実際にはプロセスが不要で、おそらく、関心のある信号が検出されるまでは 8 ビット・モードの使用も不要です。(このシリーズの第 3 回のブログ(パート 2)で解説済み)
  11. DMA を使用したブロック処理(このシリーズの第 3 回のブログ(パート 2)で解説済み)
  12. タイマを使用して ADC 変換をトリガ(このシリーズの第 3 回のブログ(パート 2)で解説済み)

選択可能なリファレンス電圧

選択可能なリファレンス電圧により、ユーザーは同じ性能を実現するうえで最小の電流を選択できます。 最適な低消費電力を実現するためには、電源の安定度が高い場合、リファレンスとして電源をご使用ください。 電源をリファレンスとして使用する場合は、内部リファレンスのための電流は不要です。このため、リファレンスのための起動時間もゼロになります。

高速起動時間

ADC14 は、デューティ・サイクル・アプリケーションで低消費電力を更に低減するために、高速起動時間を採用しています。 ADC とクロック(MODOSC または SYSOSC)のターンオン時間は高速です。 また、低消費電力の内部リファレンスは自らのバッファより先にターンオンになり、セトリング・タイムを高速化します。(具体的な値については、デバイスのデータシートをご覧ください)。 バッファの高速なセトリング時間を実現できたのは、充電に時間がかかる外部コンデンサを不要にしたためです。 外部コンデンサの充電には時間がかかるのに対し、これにより、バッファのオン時間をバッファの使用時間だけに最小化できます。

選択可能なクロック・ソース

クロックの選択肢を検討する際には、システム・レベルの消費電力要件を考慮する必要があります。 ある状況では、より高速なクロックを使用すると、変換を短時間で完了でき、消費電力の低減が可能になります。 デューティ・サイクル・アプリケーションでは、起動時間が高速な MODCLK の利点を活用できる可能性があります。 異なるクロック・ソースからの電流が増加する一方で、ADC のオン・タイムを最小化でき、消費電力の低減も可能なことを考慮しなければなりません。

電力モード

電力モード(ADC14PWRMD ビット)は、主に内部リファレンスを選択する際に使用するバッファを調整することにより、最大サンプル・レートに基づいて消費電流を調整します。 ADC14 でより低速なクロックを使用する場合、クロック・ソースとして SYSOSC を使用する場合と同じように、低消費電力モード(ADC14PWRMD = 2)の使用を検討してください。(具体的なクロック要件については、デバイスのデータシートをご覧ください)

外部リファレンスを使用する場合は、リファレンス・バッファが使用されていないことから、ADC14PWRMD の複数の設定間の変換あたりの消費電力の差は小さくなります。 この場合、低速クロックは ADC の消費電流を低減しますが、完了までに長い時間を要します。

内部リファレンスを使用する場合、最小消費電力モードはアプリケーションによって変わってきます。 ADC がアクティブでない場合には、低消費電力モードへの移行に伴う消費電力の低減、サンプル時間、変換数、他で使用されるクロックやリファレンスなどの要因をアプリケーションに応じて考慮する必要があります。
 サンプル時間が長いアプリケーションの場合、ADC サンプル時間の消費電流は、変換時の消費電流より小さくなるため、データシートの値より小さくなります。 ベンチ・テストを実施すれば、実際のアプリケーションで ADC の消費電流値を確認することができます。

最小のサンプル時間で内部リファレンスを使用する場合、MODOSC/SYSOSC の消費電力を考慮すると、単一の ADC 変換の low power mode(低消費電力モード)で、最小消費電力を実現できます。 ただし、5 個以上の変換を連続して実行する場合は、変換速度が支配的な要因になり始め、regular power mode(通常消費電力モード)と、より高速なクロックの組み合わせが、最小消費電力を実現します。 12 ビット・モードで変換数を変えた場合、2 つの電力モードで必要とされるエネルギーを比較した図 1 をご覧ください。

図 1.

システムの最適化を容易にするため、ADC14 の内部リファレンスの組み合わせを、regular(通常)と low power modes(低消費電力モード)で計測した 2 つの電流プロファイルの例を次の図 2 に示します。

図 2.

 低く設定された最小電源電圧

ADC14 は、ADC14PWRMD = 2(最大 200ksps)の場合に 1.62V というクラス最高の最小電源電圧、またフルスピード動作の場合に 1.8V をサポートしています。 この仕様により、バッテリ動作の場合は low power mode(低消費電力モード)を使用してバッテリ寿命を延長すると同時に、適切に信号をサンプリングすることができます。 安定化電源を使用する場合、降圧コンバータを使用してより低い電圧を供給すると、すべての電流源の効率を大幅に引き上げ、電源から取り出す電流を低減することができます。

内蔵 DC/DC を使用してコア電圧を供給

MSP432 マイコンは内蔵 DC/DC コンバータを搭載しており、ADC14 のデジタル・ロジックを含め、コアへの電力供給効率を向上させることができます。 DC/DC により、ADC14 のデジタル部分のために電源から取り出される電流を低減できます。 差動入力を使用する場合でも、DC/DC を使用すると、性能に及ぼす影響を無視できる範囲にとどめることができます。 シングルエンド入力モードでは、SINAD(signal-to-noise and distortion ratio、信号対ノイズ比と歪み比)の代表値で、70dB か 73dB かという小規模な影響が生じます。 実際のアプリケーションで DC/DC コンバータを使用して ADC14 を動作させるための詳細については、デバイスのデータシートをご覧ください。

自動パワー・ダウン

自動パワー・ダウンは、ユーザーの介在なしで低消費電力を実現できる ADC14 の機能の一部です。 ADC14 がアクティブな変換を行っていない場合、コアは自動的にディスエーブルになり、必要が生じたときは自動的に再度イネーブルになります。 同様に、クロック・ソースである MODOSC または SYSOSC も必要なときに自動的にイネーブルになり、ADC14 に MODCLK または SYSCLK を供給します。また、ADC14 やデバイスの残りの部分にクロックを供給する必要がないときは、自動的にディスエーブルになります。 ADC14 の MODOSC/SYS OSC は、内部リファレンスと並行してターンオンになるので、クロックが自動的にパワー・ダウンされることによる悪影響は発生しません。

ADC14REFBURST ビットをセットし、REFON ビットを 0 に設定すると、サンプル・フェーズと変換フェーズのどちらでもないときに、内部リファレンスも自動的にパワー・ダウンすることができます。

内部温度センサ

温度測定に使用する消費電力を最小化するために、内部温度センサが必要とするサンプル時間は、以前の MSP デバイスより短くなるように設計されています。

リスト内にある以下のような最後の 4 つの項目は、このシリーズの第 2 回のブログ(パート 1)と第 3 回(パート 2)で詳細に説明されています。

  • 消費電力の低減のため、より迅速な完了を可能にする最小のビット数を選択
  • ウィンドウ・コンパレータの使用により、変換後の値の比較のために実際のプロセスを実行させる必要はなくなります。目的の値が検出されて分解能を高める必要が生じるまでは 8 ビット・モードさえも通常は不要になります。
  • DMA によりブロック処理を行い、使用リソースを最小化
  • タイマの使用により ADC 変換をトリガし、使用リソースを最小化

実際のアプリケーションでは、ここまでに説明したノブのうち何個を活用して、MSP432 マイコンの ADC が消費する電力を低減できるでしょうか。

その他のリソース

上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。

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