「エッジ AI」という用語や、「ネットワーク・エッジでのインテリジェンス強化」などの言い回しが流行している現状で、人工知能 (AI) モデルを実行するためにクラウド・ベースのリソースに頼らず、よりローカルに近い側でリアルタイム処理を実行することの利点を見失いがちです。私たちが日常的に使用する各種電子機器が、AI モデルに基づき実世界で自動的に決定を下せるようになれば、機器の応答性、安全性、全体的な効率が向上します。

もちろん、AI を活用している一部のシステムは、クラウド・ベースのリソースを常に必要とする可能性が高いでしょう。多くの低消費電力アプリケーション、特に 1 2 台のカメラを搭載しているアプリケーションの場合、人や物体の分類、異常検出、人の姿勢推定などの処理機能によって、アプリケーションを大幅に強化することができます。ただし、コストの制約や、このレベルの処理を実行するために必要な電力量が原因で、低消費電力アプリケーションにこれらの能力を実装しようとしても、難易度が高い場合があります。

AM62A プロセッサ・ファミリなど、Arm® Cortex® をベースとする新しいビジョン・プロセッサを採用すると、設計者はビデオ・ドアベルからスマート・リテールまでの多様なアプリケーションで、ビジョン機能と AI 処理機能を強化できます。

強化されたビジョン機能と AI 機能で何を実現できるのかを理解するために、これら 2 つのアプリケーションについて詳しく見てみましょう。

エッジ AI で実現する組込み技術の未来

こちらの動画『Making the future of embedded possible for edge AI』 (英語) で、TI がエッジ AI アプリケーションで高度な AI 分析とリアルタイム応答性を実現している方法をご確認ください。

AI カメラをビデオ・ドアベルで使用

( 1 に示すように) ビデオ・ドアベルとホーム・セキュリティの各システムで、盗難や来訪者の識別に対する応答に遅延が生じた場合、たとえその遅延が 1 ミリ秒であったとしても、人身被害や財産の損失を招いてしまう可能性があります。

1ビデオ・ドアベルで動作している人物/物体認識のデモ

リアルタイムのビデオ・データをローカルで分析することにより、ビデオ・ドアベルの応答の速度と信頼性が高まり、誤検出を減らすと同時に、ネットワーク接続も不要にできます。しかし、従来は電力とサイズの制約が原因で、このようなリアルタイム応答性を達成するのに必要な AI 処理のレベルは制限されていました。

AM62A 2 3W の電力で動作するよう設計され、ビデオ・ドアベルのコンパクトな筐体で十分使用できる小型パッケージを採用しています。AM62A プロセッサの AI 処理能力は 1 2TOPS に達します (TOPS:毎秒 1 兆回の演算)。ビデオ・ドアベルの設計者は、設計でこの処理能力を活用して、人や物体の検出をより高いレベルで実装できます。こちらの技術ホワイト・ペーパー『Edge AI Smart Cameras Using Energy-Efficient AM62A Processor (英語) では、ビデオ・ドアベルで AI 処理機能を実装する方法の詳細を確認できます。

AI カメラをスマート・リテールで使用

スマート・リテールは、「grab-and-go retail (つかんで外に出るだけの小売店) とも呼ばれますが、顧客が買うものを選んだら、レジで支払いを行わずに店を出ることができる、という新しい買い物方法を実現できます。支払いはすべて自動的に処理されます。

この買い物方法を管理するビジョン・ベースのシステムが活用しているのは、物体検出から派生させた AI モデルと、( 2 に示すように) 顧客が買い物かごに何を入れ、最終的に店から外へ出るときに何を購入したのかを識別するバーコード・スキャナです。

 2スマート・リテール店舗で顧客の行動を監視する AI モデルを使用した AI カメラ

スマート・リテール・アプリケーションは、データをローカルで処理することにより、取引時の応答時間を短縮し、データ・セキュリティを向上させることができます。特に、データ・セキュリティの観点で見ると、AI モデルをローカルで実行する場合には、クラウド・リソースへのネットワーク接続が不要です。つまり、データを外部に送信することがないので、そのデータが不正アクセスにさらされる可能性を制限できます。 

ビデオ・ドアベルの場合と同様、スマート・リテールの AI カメラにとっても、消費電力は設計時の主要な課題となります。フレーム・レートの高いビデオ分析を行うことを考えると、これは特に重要です。

AM62A プロセッサが採用している、エネルギー効率の優れた高集積の SoC (システム・オン・チップ) アーキテクチャは、スマート・リテール・カメラでローカル AI 処理能力を活用するために役立ちます。これらのプロセッサは、自らが内蔵している AI ハードウェア・アクセラレータを活用し、物体分類、異常検出、方向検出、バーコード識別などを実施できます。これは、果物や野菜のように、物体の表面が規則的でない場合でも実行可能です。

まとめ

エッジに新たなインテリジェンスを追加することで、リアルタイム応答性を強化し、信頼性の高い方法で人と機械の連携を実現できるようになります。この記事では 2 つのアプリケーションのみを取り上げましたが、AI データ・モデルのローカル実行を活用することができるアプリケーションは日々増え続けています。優れた能力と高集積を両立しているビジョン・プロセッサは、このような移行を現実化し、私たちの身の回りにある世界のさらなるスマート化を推進します。

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