もはや静電容量方式のタッチ・センサや近接センサは、当たり前の存在になったといって過言ではないだろう。スマートフォンはもちろん、デジタル家電や住宅設備機器(住設機器)、セキュリティ機器、産業機器などにも相次いで搭載されているからだ(図 1)。既存の物理ボタンをタッチ・センサや近接センサに置き換えることで、デザイン性や使い勝手を大幅に向上できる。このことが採用の最大のモチベーションになっている。

図 1 静電容量方式を採用したタッチ・センサの市場が広がる

しかし、従来のタッチ/近接センサ・ソリューションを、アプリケーションに無条件で適用できるわけではなかった。なぜならば、課題を抱えていたからだ。その課題を大きく分けると 2 つある。

1 つは、ノイズに対する耐性を十分に確保できていなかったことである。外来ノイズや静電気放電(ESD)などによって、タッチ/近接センサが誤動作してしまう危険性が高かったという。このためノイズの発生量が大きい環境で使う電子機器への採用は難しかった。

もう 1 つは、タッチ/近接センサの表面に水などの液体が付着した状態だと、正常な検出が困難なことである。人間のタッチ/近接による静電容量の変化なのか、水の付着による静電容量の変化なのかを区別できないからだ。従って、水を使うキッチンや洗面所などに取り付ける住設機器への適用では、誤動作を恐れて二の足を踏むケースが少なくなかったという。

ハード IP の回路を工夫

テキサス・インスツルメンツ(TI)は、こうした課題を解決する容量性タッチ・マイコン「MSP430FR2633」を製品化した(図 2)。このマイコンには、CPU である 16 ビット RISC コア「MSP430™」マイコンに加えて、「CapTIvate™」と呼ぶハードウェア IP を搭載した。搭載したハードウェア IP は 4 個。

図 2 容量性タッチ・マイコンの内部構成:TI の容量性タッチ・マイコン「MSP430FR253x/263x」の内部構成。

このタッチ・マイコンを使うことで、静電容量方式を採用したセンサ機能を電子機器に搭載できるようになる(図 3)。対応可能なセンサの形状は豊富だ。ボタンやスライダー、ホイール、近接といったセンサを取り付け可能だ(図 4)。TI は、こうしたセンサを総称して、「容量性 BSWP(Buttons、Sliders、Wheels、Proximity)センサ」と呼んでいる。

図 3 アプリケーション例:図左は、電子ロックにデータ・ロギング機能を追加した例。図右は、サーモスタットにインテリジェント機能を追加した例である。

図 4 容量性タッチ・マイコンのデモ:テキサス・インスツルメンツ(TI)は、「Embedded Technology 2015/IoT Technology 2015」(2015 年 11 月 16 日~18 日、パシフィコ横浜)で、容量性タッチ・マイコンのデモを展示した。GUI ツールを使って、各種設定を実行する様子などを見せた。

ノイズ耐性と液体の付着。この 2 つの課題を解決できた理由は、ハードウェア IP である CapTIvate に盛り込んだ技術的な工夫にある。まずノイズ耐性については、「回路的な工夫を盛り込むことで課題を解決した」(TI)としている。最大 10Vrms の伝導ノイズや、最大±4kV の ESD のほか、電気的高速過渡現象(EFT)に対する耐性を確保した。「IEC 61000-4-2」や「IEC 61000-4-4」「IEC 61000-4-6」といったノイズ規制値をクリアできるという。

相互容量モードにも対応

液体の付着については、既存の自己容量モードに加えて、今回新たに相互容量モードへ対応することで、課題の解決に成功した。この結果、指によるタッチなのか、水の付着なのかを判別できるようになった。

相互容量モードに対応すると、なぜ課題を解決できるのか。以下で説明しよう。自己容量モードでは、グラウンドと電極の容量と、指と電極の容量の和を検出する。電極に水が付着しても、容量は増える。このため、水が付着したのが、人体/指が触ったのかを区別できない。

一方の相互容量モードは、検出方法が違う。このモードでは、2 つの電極を用意し、この間にあらかじめ電磁界の結合を作っておく。ここに指が近づくと、電磁界の一部が指と結合する。つまり、電磁界の一部が指に逃げることになり、電極間の容量は初期状態から減ることになる。このため、液体が付着して電極間容量が増えても問題ない。それを初期状態として、指に逃げた電磁界による容量の減少分を検出すればいいからだ。これが相互容量モードに対応することで、液体の付着に関する課題を解決できる理由だ。

自己容量モードでは最大 16 個のボタンに対応、相互容量モードでは最大 64 個のボタンに対応できる。静電容量検出の感度も高めた。最小検出容量は 10fF と小さい。このため 60mm と厚いカバー・ガラスの上から、指で電極にタッチしても、それを検出できるという。さらに人体の近接については、電極から最大 30cm の距離でも検出できる。スライダー・ボタンを構成した場合、横方向の分解能は 1/250cm と細かな値が得られるとしている。

業界最小の消費電力を実現

発売した容量性タッチ・マイコンには、消費電力が極めて小さいというメリットもある。クロック周波数 16MHz で、アクティブ・モード時の消費電流は 126µA/MHz(標準値)と小さい。CPU がシャットダウン中でも、4 個のハードウェア IP を使って電極(ボタン)をスキャンできる。スリープ・モード時の消費電流は、1 ボタン当たり 0.9µA であるため、4 ボタン合計でもわずか 3.6µA しか消費しない。1 個のコイン電池で最大 15 年もの動作が可能である。

消費電力を削減できたポイントは 2 つある。1 つは、そもそも採用した MSP430 マイコンの消費電力が極めて低いこと。もう 1 つは、フラッシュ・メモリではなく FRAM(強誘電体メモリ)を採用したことである。

発売した容量性タッチ・マイコンを使って各種センサを設計する作業を支援する GUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)ツール「CapTIvate Design Center」を用意している(図 5)。ボタンやスライダー、ホイールなどのセンサ形状の選択や、感度の設定、ノイズ性能/消費電力の調整などを実行できる。こうして作成した設計データから、TI の統合開発環境(IDE)「Code Composer Studio」などに向けたソースコード・プロジェクトを自動生成することが可能だ。

図 5 GUI ツール:GUI ツール「CapTIvate Design Center」を使うことで、各種センサの開発を簡略化できる。

今回の容量性タッチ・マイコンは、既存品が抱えていた 2 つの大きな課題を解決することに成功した。新製品の投入をキッカケに、静電容量方式採用のタッチ・センサや近接センサを搭載した電子機器がますます増えることは間違いないだろう。

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(2016 年 1 月 29 日 EDN マイクロサイト掲載の記事広告を転載。記事中の情報はすべて掲載時点のものです)

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