従来、HMI (ヒューマン・マシン・インターフェイス) は、ユーザーが機械を操作するための物理的な管理パネルとして、プッシュ・ボタン、スイッチ、インジケータ・ライトなどから構成されていました。技術の進歩に伴い、各種プロセスの監視、ステータス情報の表示、コマンドの送信なども可能になりました。現在、HMI アプリケーションはあらゆる場所に存在しています。たとえば、TV を制御するスマートフォン・アプリ、自動車の音声コマンド、病院のメディカル・モニタ、スマート・ファクトリ内のタッチスクリーン管理パネルなどです。

私たちの毎日の生活では、そのような機械とのやり取りが継続的に増加しています。では、将来の HMI はどのような姿になるでしょうか。従来のデータ収集、制御、表示に加えて、次世代の HMI は単純なヒューマン・マシン・インターフェイスとしてのアプリケーションにとどまらず、人間と機械との間の対話を実現することで、機械のインテリジェントな動作や人間との情報交換を可能にします。

 図 1:ジェスチャー認識機能を使用してインテリジェントな HMI システムを操作する医療従事者

人間と機械との間の対話へと移行するためには、インタラクティブでスマートなアプリケーションが必要になりますが、それに伴い、HMI を実現するプロセッサに関連して一連の新しい課題が発生します。次世代 HMI の 3 つの検討事項を順に説明します。

検討事項その 1:エッジ側 AI を活用して各種新機能を実現

新世代の HMI 設計は、各種新機能を実現するためにエッジ側 AI (人工知能) を活用します。たとえば、マシン・ビジョンを採用すると、顔認識機能を通じて機械へのアクセスを制御できます。また、図 1に示すように、ジェスチャー認識機能を通じて、タッチレス操作を実現することもできます。加えて、マシン・ビジョンのようなエッジ側 AI 機能を HMI 設計に追加すると、現在のシステム・ステータスや予防保守に関連して、より高精度の分析を実施できます。新しい HMI アプリケーションを作成する際には、エッジ側 AI アプリケーションの開発にかかわる労力と、プロセッサの能力について検討する必要があります。

検討事項その 2:性能と電力のバランス確保

シングルチップでの高い集積度は、デバイスの消費電力に影響を及ぼします。特に、エッジ側 AI 機能を全面的に有効にする場合には大きな影響があります。スマート設計で一般に求められる小さなフォーム・ファクタは、特に過酷な環境での動作を想定する場合、最終製品の消費電力に関して、複雑さの水準を上昇させます。設計者はこの課題を克服するために、より電力効率の高い設計を行い、熱の制約を意識しながら、システム全体のコスト上昇も抑えることが求められます。また、最適化した電力設計の一環として、超低消費電力モードと複数の低消費電力モードを用意し、より長期的な製品寿命を確保する必要があります。

検討事項その 3:スマート・コネクティビティの統合と差別化されたディスプレイのサポート

現場レベルで使用できるデバイスとセンサの数が増加し、各種リアルタイム産業用通信プロトコルが新規に登場している現状も、新しい HMI アプリケーションに課題を投げかけます。たとえば、スマート・ファクトリ環境内の HMI は、他のデバイスや機械との通信を必要とするため、その設計ではコネクティビティ機能と制御機能を実装する必要があります。HMI にとって、ディスプレイは設計時のもう 1 つの検討事項であり、独自の機能を実装することや、人間と機械の間の情報交換を強化することができます。

HMI 設計に TI の新しいプロセッサ・ファミリを活用

HMI が進化を続けている現状で、各種アプリケーションの背後にあるプロセッサ技術はその進化に対応できる体制を整える必要があります。『AM625』や『AM623』などのTI の Sitara AM62 プロセッサ・ファミリは、低消費電力と多くの産業用ペリフェラルの搭載を重視した設計を採用しており、次世代の HMI に関する検討事項を踏まえたデュアル・ディスプレイ・アプリケーションや小型フォーム・ファクタ・アプリケーションに向けて、電力効率の優れたエッジ側 AI 処理を実現するのに役立ちます。

各種 AM62 プロセッサは、エッジ側 AI 機能の実装を強化するために、最大 1.4GHz で動作するシングルコアからクワッドコアまでの Arm® Cortex®-A53 プラットフォームでスケーラビリティを確保しているほか、TensorFlow をサポートするメインライン Linux® を実行できます。ソフトウェアとすぐに使用できる各種デモ(英語)を活用すると、AM62 プロセッサ上でのエッジ側 AI アプリケーションの評価プロセスを簡素化できます。同時に、エッジ側 AI 向けの開発リソース(英語)と各種 Academy トレーニング (英語) は、設計の労力軽減と期間短縮に役立ちます。

このプロセッサの最適化された電力設計は、前の世代に比べて 30% 以上低いコア電圧をサポートし、消費電力を 30% 以上節減しながら性能も向上させています。ハードウェア設計を簡素化しているので、コンパクトなサイズで、コスト効率の優れたシステム・ソリューションを実現できます。最小 5mW の消費電力を達成する複数の電源モードに対応し、ポータブル設計やバッテリ駆動の設計を実現できます。

システムの消費電力を削減するAM62プロセッサ

AM62プロセッサの電力管理機能、アーキテクチャに関する考慮事項、および消費電力の詳細については、
ホワイト・ペーパー『Enabling Low Power Embedded Systems With AM62x Processors(英語)』をご覧ください。

UART (ユニバーサル非同期レシーバ / トランスミッタ)、SPI (シリアル・ペリフェラル・インターフェイス)、I2C などのオンチップ・リソースを搭載しているので、一般的な産業用センサまたはコントローラで、さまざまな接続オプションを活用できます。また、各種 AM62 プロセッサは、サード・パーティー・エコシステムを通じて、デュアル・イーサネット・サポートや EtherCAT マスター・サポートも実現できます。

これらのプロセッサは、コスト効率の優れた RGB888 や、2K とフル HDの各ディスプレイをサポートする LVDS (低電圧差動信号伝送) インターフェイスなど、多様なディスプレイ・インターフェイスもサポートしています。デュアル・ディスプレイ機能を活用すると、設計のフレキシビリティが高まり、イノベーションを実現するのが容易になります。

まとめ

将来の HMI は、多様な環境とアプリケーションにわたって、人間と機械との間のコミュニケーションにインテリジェンスとイノベーションをもたらします。手術室では無菌環境を維持できるように、医療従事者がスクリーンにタッチする代わりに、音声を使用してメディカル・モニタを操作できます。あるいは、騒音の多い工場で、労働者がジェスチャーを使用するだけで管理パネルを操作できます。AM62 プロセッサ・ファミリを活用して、次世代 HMI の設計を開始しましょう。

参考情報:
AM62プロセッサ(英語)
AM62開発リソース(英語)
AM62 スタータ・キット

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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年6月1日)より翻訳転載されました。
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