セラミック・コンデンサは、スイッチ・モード電源により生じた大電流をフィルタリングできることから、リップル電流の管理に最適です。最良の結果が得られるように、異なるサイズおよび値のセラミック・コンデンサを並列に使用するのが一般的です。そのような場合、各コンデンサはそれぞれの許容リップル電流定格を満たしていなければなりません。
ここでは、例として降圧コンバータを使用し、リップル電流の要件を満たすセラミック・コンデンサの選択方法について説明します。(アルミ電解コンデンサやタンタル・コンデンサなどのバルク・コンデンサは、高いESR(等価直列抵抗)を持ちます。これらのバルク・コンデンサは、セラミック・コンデンサと並列に配置した場合に大きなリップル電流を処理する目的には向いていません。そのため、ここでは取り上げないことにします)。
図1に、降圧コンバータの基本回路を示します。コンバータの入力電流iIN_Dは、大きなリップル電流ΔiIN_Dを含んでいます。
図1: 降圧コンバータの基本回路
降圧コンバータのパラメータを以下に示します。
- 入力電圧(VIN) = 12V
- 許容入力リップル電圧(ΔVIN) < 0.36V
- 出力電圧(VO) = 1.2V
- 出力電流(IO) = 12A
- インダクタのピーク・ツー・ピーク・リップル電流(ΔIpp) = 3.625A
- スイッチング周波数(FSW) = 600KHz
- セラミック・コンデンサの温度上昇制限 < 10°C
図2に、入力リップル電流の波形を示します。
図2: 入力リップル電流の波形
リップル電圧の要件を満たすには、セラミック・コンデンサの実効容量が、式1で算出する値よりも大きくなければなりません。
コンバータのパラメータと要件を加味すると、Cce_totalは5µFを超える必要があります。
選択するセラミック・コンデンサは、リップル電流制限の条件も満たしている必要があります。式2では、リップル電流の2乗平均平方根(RMS)値を計算しています。
IO = 12A、ΔIpp = 3.625A、D = 10%とした場合、入力リップルのRMS値は3.615ARMSとなります。
表1に、適切な電圧定格を持つ入手可能なセラミック・コンデンサの特性の一覧を示します。これらのコンデンサの許容誤差は10%です。
表1: コンデンサ特性
1個のコンデンサAで、リップル電圧の要件を満たすために十分な実効容量が得られますが、そのリップル電流定格の3.24ARMSは、コンバータにより生じるリップル電流の値をわずかに下回っています。コンデンサAをもう1つ追加すると要件は満足できますが、占有面積がさらに広がり、他の小さいコンデンサよりも高コストになります。この場合の疑問は、どのコンデンサを追加すべきかという点です。この疑問に答えるために実施したのが、リップル電流の分配についての分析です。図3は、並列に配置した2個のコンデンサとAC電流ソースの概略回路図です。
図3: リップル電流分配の回路図
オームの法則によると、電流の分配は式3に従います。
セラミック・コンデンサには、ESRが小さいという特性があります。図4に、2つの例を示します。
図4: 周波数に対するセラミック・コンデンサのインピーダンス|Z|およびESR R
周波数が1MHz未満の場合は、セラミック・コンデンサのインピーダンスXCを、XC = 1/(jωC)で近似できます。そのため、式3は式4のように単純化できます。式4に従うと、リップル電流は実効容量に比例します。
複数のコンデンサが並列に配置されている場合は、実効容量に対する許容リップル電流の比率(IRMS-over-C)が最も低いコンデンサが、最初にリップル電流定格に達します。C1のIRMS-over-CがC2より低いと仮定すると、式5で許容リップル電流の合計I∑_RMS_Allowが見積もられます。
C1がその許容リップル電流定格に達したとき、式6に示されるように、C2に流れるリップル電流はC2の許容リップル電流を超えません。
I∑_RMS_Allow ≥ IIN_AC_RMSとするためには、式7で算出する値より大きい容量を追加する必要があります。
Tol.は、これらのセラミック・コンデンサの容量公差です。公差を計算に入れると、ボトルネックになっているコンデンサのワーストケースでのリップル電流が、そのコンデンサの定格を超えなくなります。
IRMSとCの比率をパラメータとして表2に示します。
表2: コンデンサ特性
コンデンサAは、12VDCバイアスでの実効容量が高くなっています。リップル電流の要件を満たすには、リップル電流の要件に合った1つまたは複数のコンデンサを追加する必要があります。コンデンサAのIRMSとCの比率は最も低いため、追加する実効容量Cadditionalは、式8で算出する値より大きくなければなりません。
選択肢は2つあります。1つ目はコンデンサBを1個追加する方法で、2つ目はコンデンサCを1個とコンデンサDを2個追加する方法です。どちらの場合でも追加される実効容量は十分であり、プリント基板(PCB)領域の占有面積にも差はありません。2つ目の方法はコスト効率に優れているため、こちらを選択しました。
仮説を証明するために、PSPICEシミュレーションを実施しました。図5にはシミュレーションに使用した回路を示します。また、標準的なケースを想定して、コンデンサの公称値を使用しました。
図5: リップル電流分配シミュレーションの回路
図6に、コンデンサのリップル電流についてのシミュレーション波形とRMS値を示します。各値は以下のとおりです。
- ICA_RMS_typ = 3.13ARMS
- ICC_RMS_typ = 0.353ARMS
- ICD_RMS_typ = 0.081ARMS
- VIN ripple voltage = 0.299V
図6: 各セラミック・コンデンサのリップル電流波形のシミュレーション結果
次に、ボトルネックとなっているコンデンサAのワーストケースを表すコンデンサ値を使用しました。
コンデンサのリップル電流のRMS値は以下のとおりです。
- ICA_RMS_max = 3.206ARMS.
- ICC_RMS_min = 0.306ARMS.
- ICD_RMS_min = 0.070ARMS.
各コンデンサが、それぞれの許容リップル電流定格を満たしています。
異なるサイズのセラミック・コンデンサを並列に使用すると、コンパクトかつコスト効率に優れた方法で、大きなリップル電流をフィルタリングできます。しかし、容量やリップル電流定格が異なると、許容リップル電流の合計値を算出するのが難しくなります。この記事では、実効容量に対する許容リップル電��の比率であるIRMS/Cというパラメータを紹介しました。IRMS/Cは、許容リップル電流に対してボトルネックとなるコンデンサを見つける際に役立ちます。最も低いIRMS/Cを使用して許容リップル電流の合計を見積もることで、追加すべきコンデンサを選択できます。PCBの寄生成分が回路性能に大きく影響する可能性がある点には注意してください。この方法により、正確な値を見積もることはできますが、実際の設計には実験による検証が不可欠です。
その他のリソース
上記の記事は下記 URL より翻訳転載されました。
*ご質問は E2E 日本語コミュニティにお願い致します。