事実上すべてのアプリケーションで半導体の数は増加を続けています。また、電子技術者が直面する設計上の課題の多くは、いずれも電力密度の向上を求めるニーズに関連しています。例として、次のようなアプリケーションが挙げられます。
- ハイパースケール・データ・センター:ラック・サーバーは膨大な電力を消費するので、電力会社のような公益事業体と電源エンジニアが需要の増大に対応するのは難易度の高い業務です。
- 電気自動車 (EV):内燃機関 (エンジン) から 800V バッテリ・パックへの移行が進みつつある現状で、パワートレインの半導体使用量は指数的に増加しています。
- 商用と家庭用のセキュリティ・アプリケーション:ビデオ・ドアベルや IP (インターネット・プロトコル) カメラがますます普及し、サイズの小型化が進む現状で、必須の放熱ソリューションに対する制約が生じています。
電力密度を高めるためのトレードオフと技術に関する理解 |
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電力密度を向上させるうえで、放熱効率は非常に重要です。このホワイト・ペーパーでは一般的な課題を解決する方法をご紹介いたします。 |
電力密度の向上を妨げる要因にはどのようなものがあるでしょうか。まず、熱特性は、パワー・マネジメント IC の電気的な副産物です。設計者はこの特性を無視することや、システム・レベルでフィルタリング部品を使用して「除去」することはできません。熱を低減するには、開発プロセスのあらゆる段階で微細かつ重要な調整を実施する必要があります。それにより、特定のサイズ制約に応じたシステム要件を満たして設計を進めることができます。以下に、熱特性を最適化するため、また電力密度に関する課題をチップ・レベルで解決するために、TI が重視している 3 つの重要な分野を示します。
1.プロセス技術の革新
多くのグローバル半導体企業は、業界標準のパッケージを使用して放熱特性を向上させることができるように、適切なプロセス技術ノードを活用したパワー・マネジメント製品の開発競争に参加しています。たとえば、TI は社内の技術開発を活用できる 45nm と 65nm の各プロセス技術への継続的な投資を行い、300mm ウェハによる製造効率との組み合わせを通じて、コスト、性能、電力、精度、電圧レベルを最適化した製品を提供しています。また、TI ではプロセス技術の進歩に伴い、さまざまな熱条件の下で高性能を維持できる各種製品の製造が可能になっています。たとえば、内蔵 MOSFET (金属 - 酸化膜 - 半導体の電界効果トランジスタ) の特性オン抵抗 (RSP)、言い換えるとドレイン - ソース間オン抵抗 (RDS(on)) を小さくすれば、ダイ・サイズを最小化すると同時に、熱特性を改善することができます。GaN (窒化ガリウム) や SiC (シリコン・カーバイド) のような他の半導体スイッチにも、同じことが当てはまります。
図 1 に示す 『TPS566242』降圧コンバータを考えてみましょう。新しいプロセス・ノードの採用により、複数の機能を内蔵し、追加のグランド接点を確保することで、ピン配置を最適化できました。その結果、1.6mm x 1.6mm の SOT-563 (Small Outline Transistor) パッケージから 6A の出力電流を供給することができます。もし、 5 年前に、このような超小型のシンプルなリード端子付きパッケージでこの種の性能を達成するように要求されたとしたら、「そんなことが実現できるのだろうか?」と疑問を抱いたでしょう。しかし、現在は実現できています。これがプロセス技術の成果です。
図 1:最大 6A の連続電流を供給する同期整流降圧コンバータ 『TPS566242』
2.回路設計手法
プロセス技術レベルで効率を高めることに加え、電力密度を向上させるうえでは、回路設計の工夫も重要になります。設計者は大電流のエンタープライズ・アプリケーションを保護するために、従来はディスクリートのホット・スワップ・コントローラを使用してきました。これらは保護機能としての信頼性は高いものの、最終製品メーカー (および消費者) から要求される電流能力の増大に伴い、ディスクリート電源設計は過度に大型化する可能性があります。300A以上の電流を必要とすることが多いサーバー電源ユニット (PSU) のようなアプリケーションには、特にこのことが当てはまります。
『TPS25985』 eFuse は、内蔵型の 0.59mΩ FET と電流センス・アンプを組み合わせています。このアンプと、新しいアクティブ電流共有アプローチの組み合わせによって、電流監視を容易に実施する方法を実現できます。効率的なスイッチと斬新な統合アプローチにより、『TPS25985』は最大 70A のピーク電流を供給することができ、複数の eFuse をスタックすることで大電力にも容易に対応できます。
3.放熱最適化済みパッケージの R&D (研究開発)
プリント基板 (PCB) またはシステムに伝わる放熱の量を減らすことは基本的な要件の 1 つですが、現実的には依然として、望ましくない熱が存在しています。電力要件が増大し、システムの周囲温度が高くなっている現状ではなおさらです。TI では近年、放熱性能を強化するために、ダイ接続パッド (DAP) の大型化も含め、自社の HotRod QFN (Quad-Flat-No lead:クワッド・フラット、リードなし) パッケージの性能を向上させてきました。図 2 に、6A、36V の降圧パワー・モジュールである『TLVM13660』の DAP 合計面積とアクセスしやすいピン配置を示します。
図 2:『TLVM13660』は、底面に 4 個のサーマル・パッドを搭載しているほか、レイアウトと取り扱いが容易になるように、すべての信号ピンと電源ピンが周囲からアクセスできるレイアウトを採用
これらのパッケージの進化の詳細については、Analog Design Journal の記事『Designing with small DC/DC converters: HotRod QFN vs. Enhanced HotRod QFN packaging』 (英語) をご覧ください。
システム・レベルの放熱ソリューション
サーバー PSU (電源) などの大電力アプリケーションで、PCB の温度を上昇させずに IC の熱を放散するには、上面冷却を採用した GaN が非常に効果的な手段です。『LMG3522R030-Q1』GaN FET は、上面冷却パッケージに、ゲート・ドライバと保護機能を搭載しています。図 3 に、アクティブ・クランプ搭載、270W/立方インチ (16.48W/立方 cm) を上回る電力密度、3kW 位相シフト・フルブリッジのリファレンス・デザインのうち、絶縁型 DC/DC セクションを示します。この回路は、『LMG3522』を採用し、97.74% のピーク効率を達成しています。
図 3:アクティブ・クランプ搭載、3kW 位相シフト・フルブリッジのリファレンス・デザイン
もちろん、PCB の層数、組み立てプロセス、システム・コストの制約などの要因によっては、上面冷却以外にフレキシブルな冷却オプションが求められることもあります。そのような状況では、『LMG3422R030』統合型 GaN FET のような底面冷却 IC の方が適している可能性があります。
まとめ
性能の維持と、熱が及ぼす影響の低減を両立するには、プロセス技術とパッケージング技術、および電源設計に関する専門知識を踏まえた多面的なアプローチが必要です。TI の製品設計者、システム・エンジニア、パッケージング R&D (研究開発) 部門、製造部門は、この課題に集中的に取り組み、熱の問題を発生させずに電力密度を高めようとしています。
参考情報:
+密度に関する課題を解決するのに役立つデバイスと技術資料は、https://www.tij.co.jp/ja-jp/power-management/power-density.htmlをご覧ください。
+トレーニング・シリーズ『電力密度に関する基礎テクノロジーの理解 (「CC」アイコンのクリックで日本語字幕が選択可能)』
+WEBENCH Power Designer
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※上記の記事はこちらの技術記事(2022年10月16日)より翻訳転載されました。
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