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蓄電システムの価格が低下する一方で電力の価格が上昇する中、再生可能エネルギー源の需要が高まっています。多くの住宅では、太陽光発電とバッテリ蓄電の複合システムを使用しており、太陽光発電ではまかなえない場合でも電力を利用できるようにしています。図 1 に、住宅での使用事例を示します。図 2 に、標準的なソーラー インバータ システムを蓄電システムに統合する方法を示します。

1:住宅用太陽光発電と蓄電システムの設置

2:標準的な蓄電システムを搭載したソーラー インバータ システム

この種のシステムでの最善の状況としては、AC/DC と DC/DC の変換用に高効率のパワー マネージメント部品が使用され、(できる限り最小のソリューション サイズで) 高い電力密度を持ち、(最小の損失で) 信頼性が高く、さらに製品開発期間が短ければ理想的です。ただし、これらすべての要件を同時に達成できるとは限らず、サブブロックに対する最適な電力変換トポロジについて、トレードオフを考慮する必要が生じます。

AC/DC と DC/DC の降圧および昇圧の各パワー コンバータに対応する既存の電源トポロジで一般的に採用されるのは、ハーフブリッジ、またはインターリーブ形式で動作する複数のコンバータ ブランチ (分岐) です。これは、DC/DC コンバータの電力レベルを高めるため、または AC/DC インバータや力率補正段では、120 度の位相シフトで動作する 3 つのブランチを設けて 3 相動作を達成するという目的で使用できます。図 3 に、5 種類の電源トポロジに関する簡素化した回路図を示します。

3:ハーフブリッジとブランチに相当する各種電源トポロジ

  • トポロジその 1:2 レベル コンバータ トポロジの場合、PWM (パルス幅変調) 信号を相補形式で印加し (スイッチング信号の重畳に起因する貫通電流を防止するために、デッドタイム遅延を設定)、デバイス Q1 と Q2 に電力を供給します。出力で正の正弦波を得るには、Q1 に印加するデューティ サイクルが 50% を超えるようにします。出力で負の正弦波を得るには、Q2 のデューティ サイクルが 50% を超えるようにします。出力電力を制御するのはシンプルな概念ですが、ライン フィルタを通過する前の出力信号はバス電圧の最大振幅に達しているので、電磁干渉 (EMI) を低減するために、より大きいフィルタが必要になります。フィルタに流れ込むリップルの周波数は PWM の周波数であり、この値はフィルタのサイズに影響を及ぼします。

    3 レベル トポロジの場合、2 レベル コンバータに比べると、より小型の受動部品を使用し、EMI をより低減することができます。以下のように、4 種類の 3 レベル トポロジがあります。

  • トポロジその 2T 型トポロジは、中性点 (VN) の周囲にトランジスタを配置する方法に由来する命名です。DC リンクの間に Q1 と Q2 を接続し、Q3 と Q4 を VN に対して直列に接続します。フィルタに流れ込むリップルの周波数は、スイッチ Q1 ~ Q4 に印加した PWM の周波数に等しくなります。AC ライン周波数に求められる小さい全高調波歪み (THD) を達成できるフィルタ部品のサイズは、この周波数の値に基づいて決まります。Q1 と Q2 には最大バス電圧が印加されるので、システムで 800V の DC リンク電圧を使用する場合、これらの素子は 1,200V の定格にする必要があります。Q3 と Q4 は VN に接続されているので、これらの素子に印加されるのはバス電圧の半分の値のみです。したがって、800V の DC リンク電圧を使用するシステムの場合、これらの素子は 600V の定格で済み、この種類のコンバータではコストを節減できます。10kW、双方向、3 相、3 レベル (T ) インバータと PFC のリファレンス デザインをご覧ください。
  • トポロジその 3:アクティブ中性点クランプ (active neutral point clampedANPC) コンバータ トポロジの場合、VN をアクティブ スイッチである Q5 と Q6 に接続し、VN を DC リンク電圧の中間の値に設定します。T 型コンバータと同様、フィルタに流れ込むリップルの周波数は PWM の周波数に等しく、この値によって AC ライン フィルタのサイズが決まります。このアーキテクチャの長所は、すべてのスイッチの定格を、最大 DC リンク電圧の半分の値にできる点です。800V システムの場合、600V 定格のスイッチが使用でき、コストによい影響を及ぼします。このコンバータをオフにするときは、各スイッチの両端間の電圧を、DC リンク電圧の半分の値に制限することが重要です。そのため、制御マイコン (MCU) でシャットダウン シーケンシングを処理する必要があります。TI の TMS320F280049C や、C2000 製品ファミリに属する他のデバイスは構成可能なロジックを搭載しているので、ハードウェアでシャットダウン ロジックを実現し、マイコンのソフトウェア タスクを軽減できます。GaN 使用、11kW、双方向、3 ANPC のリファレンス デザインをご覧ください。
  • トポロジその 4:中性点クランプ (neutral point clampedNPC) コンバータ トポロジは、ANPC トポロジから派生したものです。このトポロジの場合、VN をダイオード D5 と D6 に接続し、VN を DC リンク電圧の中間の値に設定します。フィルタに流れ込む出力リップルの周波数は PWM の周波数に等しく、この値によって AC ライン フィルタのサイズが決まります。ANPC トポロジと同様、すべてのスイッチの定格を、最大 DC リンク電圧の半分の値にすることができます。ただし、ANPC が 2 個のスイッチを追加したのに対し、NPC は 2 個の高速ダイオードを使用します。ANPC トポロジに比べて NPC トポロジはわずかに低コストですが、その代わりに効率がわずかに低下します。シャットダウン シーケンシングの要件は、ANPC トポロジの場合と同じです。 ANPC のリファレンス デザインから、NPC トポロジを派生させるのは簡単です。
  • トポロジその 5:フライング コンデンサ トポロジは、その名前がすでにこのコンバータの動作を表しています。Q1 と Q2、および Q3 と Q4 を使用した 2 個のハーフブリッジをスタックし、それらのスイッチ ノードに 1 個のコンデンサを接続します。コンデンサの両端間の電圧は、DC リンク電圧の半分の値に制限され、V+ と V– の間で定期的に変動します。この変動時に電力が伝送されます。このトポロジでは、正と負の正弦波ですべてのスイッチを使用します。このトポロジの場合、フィルタに流れ込む出力リップルの周波数は、フライング コンデンサの各変動サイクルで与えられる PWM の周波数の 2 倍であり、その結果、AC ライン フィルタのサイズを小さくすることができます。この場合も、すべてのスイッチの定格を、最大 DC リンク電圧の半分の値にすることができ、コストによい影響を及ぼします。

表 1 に、各トポロジの利点と課題を示します。

2L

TIDA-01606 を
2L で使用

T 3L

TIDA-01606

ANPC

TIDA-010210

NPC 3L

ANPC から派生

FC3L

フライング コンデンサ 3L

利点
  • シンプルな制御方式
  • 2 個のスイッチのみ
  • 2 個の PWM
  • 簡単な制御方式
  • Q3/Q4 への印加電圧が 1/2 VDC
  • EMI が 2L より良好
  • fRIPPLE = fPWM
  • 良好な効率
  • すべてのスイッチへの印加電圧が 1/2 VDC
  • EMI が 2L より良好
  • ANPC より低コスト
  • すべてのスイッチへの印加電圧が 1/2 VDC
  • EMI が 2L より良好
  • fRIPPLE = fPWM
  • 4 個の PWM
  • 最大効率
  • HF FET は 4 個のみ (および 1 個のコンデンサ)
  • fRIPPLE = 2 x fPWM
  • 最小の磁気素子
  • 最小の EMI
課題
  • Q1/Q2 への印加電圧は VDC 全体と同じ値
  • fPWM が高いと EMI も増加
  • 受動部品のサイズが最大
  • Q1/Q2 への印加電圧は VDC 全体と同じ値
  • 4 個の PWM
  • より複雑な制御方式
  • シャットダウン シーケンシングが不可欠
  • 6 個の PWM
  • ANPC より低い効率
  • より複雑な制御
  • シャットダウン シーケンシングが不可欠
  • フライング コンデンサの初期充電
  • シャットダウン シーケンシングが不可欠

1:各コンバータ・トポロジの利点と課題

従来の 2 レベル コンバータに比べると、4 種類の 3 レベル トポロジはいずれも、(できる限り最小のソリューション サイズで) 高い電力密度、高信頼性動作、市場投入期間の短縮という明確な利点を実現しています。ワイド バンドギャップ デバイスと高性能マイコンを使用すると、同等程度のコストで、これらの利点をさらに強化できます。

参考情報

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