より多くのアプリケーションにバッテリ・テクノロジが使われるようになるにつれ、新たな問題も生まれています。産業用のアプリケーションの多くは、携帯電話やノートパソコンといったバッテリ電力で動くアプリケーションよりも多数のバッテリ・セルを必要とします。電動モビリティやバッテリ・バックアップ装置、掃除機などの産業用バッテリ管理システムでは、直列バッテリ・セルの数が12か、16、24、あるいはそれ以上になることがあります。しかし、従来のバッテリ・モニタは直列セルを1デバイスにつき16までしか扱えないため、16を超える直列セルを備えるバッテリ管理システムには、バッテリ・モニタ・デバイスが複数必要になります。そのため複数のバッテリ・モニタをスタッキングする際には、システム内部のバッテリ・モニタ同士が通信できるように、部品を追加する必要が出てきます。

TIの『BQ76952』を使ったスタック構成

BQ76952』バッテリ・モニタは、バッテリ・パックにシステム障害がないかを監視します。何種類かのシステム障害のうち、いずれかが発生すると、保護FET(電界効果トランジスタ)にFAULT信号を伝えなければなりません。スタック内のすべてのバッテリ・モニタが、これらのFETに接続することが必要です。『BQ76952』は、ハイサイドNチャネルFETドライバを備えますが、スタック構成で使用するのはあまり実用的ではありません。その代わりに、グランド・レベルの保護信号を組み合わせることで、ローサイド保護FETを制御できるようになります。

図1は、『BQ76952』バッテリ・モニタを2つスタッキングした回路のブロック図です。この構成では、外部回路を使って、ローサイド保護NチャネルFETを制御します。それぞれのデバイスからI2Cバスでホスト・マイコンに接続しますが、上部のデバイスには2.5kVのI2Cアイソレータを使用しています。バッテリ・モニタが1つしかない設計と比較して、この例では、両方のバッテリ・モニタをシャットダウン・モードから復帰させるための部品をいくつか追加する必要があります。保護FETが無効のときに適切に負荷検知を行う機能のためにも、部品の追加が必要です。

 1:『BQ76952』バッテリ・モニタを使用したスタック構成のブロック図

BQ76952によるバッテリ・システム保護

通信信号と同様に、保護信号も正しく構成する必要があります。『BQ76952』は、ハイサイドFETドライバに使われる制御機能に合致したロジック論理レベル出力を備えます。これらの出力は、最大5Vの電圧がプログラム可能な、各バッテリ・モニタ用のローカル低ドロップアウト・レギュレータ(LDO)に基づいて駆動されます。前にも述べましたが、図2に示すように、スタッキングされたデバイスから出力されるこれらの信号を組み合わせることで、ローサイドNチャネルFETを制御することができます。

 2:『BQ76952』バッテリ・モニタの複合保護ソリューション

BQ76952』には、消費電力を抑えるためのシャットダウン・モードが搭載されています。シャットダウン・モードからウェイクアップして通常動作に戻すには、次の2つの方法のうちどちらかを使用します。

  • LDピンに電圧を印加する。通常、チャージャが接続されるとLDピンの電圧が発生
  • TS2ピン(シャットダウン中は5MΩのソース・インピーダンスで5Vのウィーク・レベルを供給)をVSSにプルダウンする

システム全体が正常に機能するように、スタック内のすべてのバッテリ・モニタにウェイクアップ手段を備えるようにしてください。チャージャの接続によりデバイスのLDピンに電圧を印加することでもウェイクアップされますが、それぞれのピンの電圧をデータシートの仕様までに制限する適切な回路を追加することが重要です。

BQ76952』は、最大400kHzのI2C、SPI(シリアル・ペリフェラル・インターフェイス)、HDQ(高速データ入出力)の通信機能をサポートします。各デバイスに別々のI2Cアドレスが設定可能です。TI20Sアプリケーション向け産業用バッテリ管理モジュールのリファレンス・デザインに見られるように、『ISO1541』アイソレータを使用することで、上部のデバイスへの通信を補助します。もう1つのオプションは、ディスクリート回路を使用したレベル・シフトです。図3に、SPI通信にディスクリート回路を使用した例を示します。

 3:『BQ76952』バッテリ・モニタを使用したスタック・ソリューションのシリアル通信

BQ76952による負荷検知

BQ76952』には、FETが無効のときにバッテリ・パックから負荷が取り外されたかどうかを検知する、負荷検知機能が搭載されています。重要なのは、この信号がスタック内のすべてのデバイスに伝えられるようにすることです。そうしないと、負荷の有無によりバッテリ・モニタの動作状態が決まってしまいます。スタック内のすべてのバッテリ・モニタはいつでも同じモードになっていなければなりません。この検知機能は、短絡や過電流によりFETが無効になった場合のリカバリに利用することもできます。

負荷検知機能は、ハイサイドFETで使用するよう設計されています。FETがオフ状態の場合、デバイスはLDピンから周期的に100µAの電流を供給し、ピンの電圧を測定します。電圧が4Vの閾値を超える場合、デバイスは、負荷が取り外されたかどうかを検知します。ローサイドFETと追加の外部回路があるスタック構成でも、この機能を利用できます。図4は、負荷検知回路の例です。

 4:『BQ76952』バッテリ・モニタを使用したスタック構成の負荷検知機能

BQ76952によるセル・バランシング

複数のバッテリ・モニタを使用すると、下部のデバイスに接続されるセルと、上部のデバイスに接続されるセルとが不均衡になる可能性があります。スタック内の消費電力が均等でないことで生じるセルの不均衡を避けるために、内部的に同じセットのモジュールまたは部品をイネーブルにするようにスタックの各デバイスを設定すると、消費電力のバランスが保たれます。スタッキングされたデバイスのLDOから外部回路への電力供給のバランスには注意が必要です。心配な場合は、それぞれのバッテリ・モニタとそれに付属するLDOの電源電圧を、スタックの上部から供給しても問題ありません。

ランダム・セル取付機能とは、バッテリ・セルをどう接続したとしても、デバイスが期待通りに機能することを意味します。ただしこの機能は、複数のデバイスを使用する設計で必ずサポートされるわけではありません。各デバイスのガイドラインに十分に留意し、インライン・ヒューズを飛ばすことがないようにバッテリ・セルを正しく接続する必要があります。『BQ76952』バッテリ・モニタは、生産ラインでワンタイム・プログラマブル・メモリに設定をプログラミングできる機能をサポートします。

まとめ

産業用アプリケーションにバッテリ駆動が使われ始めたことで、新たな技術的課題が生じています。この種のアプリケーションはセル数が多く、単独のバッテリ・モニタでは対応できないため、複数のデバイスのスタッキングが不可欠です。TIの最新ポートフォリオのバッテリ・モニタはスタッキングが可能なので、この設計要件を満たすことができます。

参考情報:
+関連技術記事:
バッテリ・モニタリング・システムの電圧測定精度を改善する方法
Improving temperature measurement accuracy in battery monitoring
+アプリケーション・レポート(英語):
Easy Configuration of BQ76942, BQ76952 Battery Monitors
トレーニング・ビデオ(英語)

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上記の記事はこちらの技術記事2021211日)より翻訳転載されました。 

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