バッテリ充電のニーズはプロジェクトによって異なるため、消費者に最適な充電環境を実現できるような再充電可能なバッテリを使用するアプリケーションを設計することは、エンジニアにとって、ときに難題となります。アプリケーションごとに異なるバッテリ チャージャを使うと、新しい回路に取り組むたびに再設計、デバッグ、再認定が必要になるため、設計にかかる時間が増加します。
幅広いプロジェクトに対応したバッテリ チャージャを選択することで、開発時間を最小限に抑えることができるとしたらどうでしょうか。幅広い電圧入力 (VIN) と電圧出力 (VOUT) に対応した単一のバッテリ チャージャ集積回路 (IC) を使用すれば、入力アダプタやバッテリ構成の異なるさまざまなアプリケーションに同じチャージャを使用できるようになるため、開発時間の短縮に役立ちます。
VIN と VOUT が幅広いチャージャの使用は、設計時間の短縮に加え、ソーラー充電や双方向充電などの新しいテクノロジーを検討する際にも役立ち、消費者の充電環境の改善につながることもあります。この記事では、幅広い VIN と VOUT に対応した昇降圧バッテリ チャージャの利点について説明します。
1 つのバッテリ チャージャ IC を使用して複数の設計に対応
電動自転車のバッテリ充電システムの設計は、複数のモデルで同じバッテリ チャージャ IC を使用することによってメリットが得られるアプリケーションの一例です。拡張電力範囲 (EPR) と呼ばれる新しい USB パワー デリバリ (PD) 規格があり、その出力電力は 240W に達し、VIN は最大 48V です。EPR の大きな電力と標準 USB Type-C® アダプタを使用できる利便性により、設計者は USB PD EPR 充電の電動自転車への実装に期待を寄せていますが、それには電動自転車用バッテリ パックにバッテリ チャージャ IC を統合する必要があります。
電動自転車メーカーはさまざまなモデルを製造しており、それぞれバッテリの種類と充電電圧が異なります。36V バッテリ搭載の電動自転車と 48V バッテリ搭載の電動自転車にそれぞれ別のバッテリ チャージャを使用するのではなく、両方のモデルに同じバッテリ チャージャを使用できれば、利便性が向上します。USB PD EPR アダプタの電圧範囲全体をサポートすることで、モデル間で必要な設計変更を最小限に抑えるのにも役立ちます。同じバッテリ チャージャを使用するには、USB PD EPR 入力に対応するために幅広い VIN を備え、また 36~48V のバッテリに対応するために幅広い VOUT を備えている必要があります。
USB PD EPR に関連して、幅広い VIN と VOUT を備えたバッテリ チャージャにより実現される新機能の 1 つが双方向充電です。図 1 に示すように、バッテリ チャージャがフォワード モードのときは電動自転車用バッテリなどのバッテリに充電でき、リバース モードのときは同じ USB Type-C ポートからバッテリを放電できます。これは、通常の動作に加えてアプリケーションを外付けバッテリとして利用できるという新しい機能が備わるため、消費者にとって利点となります。外付けバッテリとしての機能をサポートするには、フォワード モードとリバース モードで入力電圧と出力電圧のさまざまな組み合わせに対応するために、VIN と VOUT が幅広く、双方向充電機能を搭載したバッテリ チャージャが必要です。
図 1:USB から電動自転車への充電 (上) と電動自転車からパーソナル デバイスへの充電 (下)
さまざまな日射強度でのソーラー充電
ソーラー パネルは、近くに電力網のコンセントがなくても製品に充電できる方法を消費者に提供します。図 2 に示すように、ソーラー パネルの出力がバッテリ チャージャの入力となるため、ソーラー パネルの最大電力点 (MPP) を求めることが重要です。バッテリ チャージャへの入力電力が低いと、充電電流が小さくなり、充電に時間がかかるようになります。最大電力点追従 (MPPT) アルゴリズム搭載のバッテリ チャージャは、さまざまな日射条件でソーラー パネルの MPP を自律的に求めます。VIN と VOUT が幅広い昇降圧バッテリ チャージャを使用すると、ソーラー パネルが出力する可能性のあるさまざまな電圧値に対応するのに役立ちます。
図 2:ソーラー充電のブロック図
ポータブル電源ステーションも、MPPT アルゴリズムを搭載したチャージャの恩恵を受けます。ソーラー充電アプリケーションの場合、自律 MPPT アルゴリズム搭載のバッテリ チャージャを使用して充電システムを設計することで、ソーラー パネルを短い充電時間でも十分に活用できるようになります。
幅広い VIN と VOUT に対応したバッテリ チャージャ
BQ25756 昇降圧バッテリ チャージャは、入力と出力で 70V の動作電圧、および最大 20A の充電電流に対応しており、USB PD EPR の最大電力レベル 240W を満たしています。広範囲の VIN と VOUT に加えて、BQ25756 は、同じ USB Type-C ポートを通じて充電と放電に対応できる双方向バッテリ チャージャでもあります。このデバイスは、ソーラー充電向けの高度な MPPT アルゴリズムを搭載しており、複数のソーラー パネルが直列または並列に接続され、部分的な日陰を含むさまざまな日射条件下で使用される状況でも、MPPT を求めることができます。BQ25756 は、その幅広い VIN と VOUT、双方向性、MPPT 機能を活かして、数多くの設計で使用することができます。
まとめ
VIN と VOUT が幅広いバッテリ チャージャを使って設計すると、多くのアプリケーションで同じ回路を再利用することで、開発時間を短縮することができます。 電動工具の新しいポートフォリオを設計する必要があるとします。 ドリル、ヒート ガン、ブロワに異なるバッテリ チャージャを選択する場合、3 つのチャージャについて調べる必要があるため、労力が増える可能性があります。 これらの電動工具全体で同じチャージャを使用すれば、複数の異なるチャージャを使用するのに比べて、調査時間と開発時間の短縮につながります。
また、VIN と VOUT が幅広いバッテリ チャージャを使用すると、USB Type-C 電力供給やソーラー充電などの新しいテクノロジーを組み込むこともできます。 BQ25756 のような、VIN と VOUT が幅広く、MPPT アルゴリズムを搭載したバッテリ チャージャは、消費者に高速充電手段を提供すると同時に、ソーラー パネルでどこでも充電できる製品を設計するのに役立ちます。 BQ25756 を TI の USB-C PD コントローラと組み合わせれば、1 つのデバイス専用のアダプタを複数抱える手間がなくなります。 この組み合わせにより、消費者は双方向充電を活用したり、共通の USB-C アダプタを使用して、電動工具、電動自転車、ポータブル電源ステーションを含む数多くのアプリケーションに充電したりすることができます。 幅広い VIN と VOUT に対応したチャージャは、開発時間の短縮に加え、消費者の充電環境を向上させるために役立ちます。